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【魔法少女ナナカ その三】

 金色のバレッタが——飛んだ。


 同時に、小さな身体も宙を舞う。


 バレッタが外れたことで、ほどけたポニーテールがふわりと広がる。


 ナナカは手放してしまったのだ。


 ナナカが(つか)んでいたリオンの手を——。


 ナナカの手のひらの中にあったはずの(ぬく)もりを——。


 リオンの身体が、黒い霧の中に吸い込まれていく。


 リオンが——。


 ナナカのリオンが——。



「リオン!」


 ナナカの叫び声は、きっともうリオンに届いていない。


 (こく)(えん)の中、リオンが襲われた。


 リオンの姿は、もう見えない。


 ナナカにできることは、もう一つしか残されていなかった。


 ——(ふく)(しゅう)


 リオンを殺した奴を確実に(あや)めること。


 リオンの身体が吹き飛んだ方向からして、リオンが()(うし)ろから襲われたことは明確だった。



 ナナカは、反転し、緑の弓を引く。


 深い霧のせいで、ターゲットである〈アノマリー〉の姿は見えない。


 ただ、そこにいるはずなのだ。


 魔法の()(じり)の先に、リオンを攻撃した〈アノマリー〉がまだいるはずなのだ。


 ナナカの引いた弓は、いつにも増して巨大になる。


 (にく)しみが魔力の根源となっているのだ。


 弓矢は、ナナカの身体のサイズを超えて大きくなる。


 この大きさであれば、多少照準がズレたとしても、〈アノマリー〉を仕留められるはずだ。


 リオンの(かたき)()てるはずだ。



「お前がリオンを……!」


 ナナカは(こん)(しん)の矢を放つ。


 緑色の(せん)(こう)が、黒い霧を切り()いていく。


 リオンに不意打ちを()らわせた〈アノマリー〉の姿が、光に照らされる。


 その姿()(たい)は——。


「……え?」


 ナナカは、()(ぜん)とする。


 それは、〈アノマリー〉ではなかった——。


 それは、ナナカの弓をすんでのところで(かわ)したように見えた。


 そして、それは、ナナカに背を向け、霧の中に消えて行った。


 その時——。



「……ナナカ」


 か細い声がナナカを呼んだ。


 リオンの声だ。


 リオンは生きていた。


「リオン!」


 ナナカは声がした方に、()()()(ちゆう)で駆け出す。


 そして、霧の中から、地面に横たわるリオンの姿を探し出すと、(ろう)(そく)くらいに(きや)(しや)な身体を強く抱き締めた。


「リオン、良かった! リオンが生きてて本当に……」


「……ナナカ、ありがとう。私を守ってくれて」


 リオンが声を振り絞る。


 ナナカは、リオンを守れてなどいない。


 もしかすると、リオンは、ナナカが弓を放ったことで(つい)(げき)(ふせ)げたと言いたいのかもしれないが、あの弓はそのために放ったのではない。リオンが殺されたと勘違いをして、憎しみを込めて放っただけだ。


 それに——。



 ナナカは、大きなミスを犯したことに気付いていた。


 リオンが襲われたのは、ナナカが金色のバレッタを貸したせいなのだ。


 黒い霧の中でも目立つ髪飾りが、攻撃のターゲットになってしまい、リオンが〈敵〉に狙われてしまったのだ。



 〈敵〉——本当にそうだろうか?


 リオンを攻撃したのは、〈敵〉だったのだろうか。


 〈敵〉ではなく――味方だったのではないか。



「ゴホッゴホッ」


 リオンが大きな(せき)をする。


 その咳には、リオンの体内を流れていた赤いものが混じっている。


「リオン、大丈夫!?」


「……なんとか。反射的に(シールド)を張れたから」


 リオンの得意分野は、(シールド)を使った守備呪文である。


 リオンは(するど)い魔力察知能力で、背後からの攻撃をいち早く(たん)()し、背中側に黄色い(シールド)を張ったということだろう。


 それにより、被害を最小限に済ませたのだ。


 ナナカは、リオンの判断速度の(すさ)まじさに、(きょう)(たん)するとともに、感謝する。リオンの咄嗟の行動がなければ、今頃リオンは――。



「でも、しばらく休んでなよ」


「……うん。そうするね」


 リオンは、ナナカの腕の中で、そっと目を閉じた。


 リオンは、普段は、決して休みたがらない子だ。そのリオンが素直に(あん)(せい)を希望するというのは、盾を張ったとはいえ、よほどのダメージを受けているということだろう。


 リオンは九死に一生を得たのであって、決して〈敵〉が手加減したのではないのだ。



 〈は本気でリオン・・・・・・・を殺そうとした・・・・・・・


 そのことに疑いはない。


 しかし——。


 ナナカは、緑の光に照らされた〈敵〉の姿を思い出す。


 姿が見えたのは一瞬だったし、おそらく百メートル以上の距離があったため、それが誰だったかまでは断定ができない。


 しかし、〈敵〉は〈アノマリー〉ではなかった。


 それは少女であった・・・・・・・・・


 ただの少女が、魔法少女であるリオンにあのような攻撃を加えられるはずがないので、少女・・は魔法少女・・・・・だと・・断言できる・・・・・


 なぜ〈味方〉である魔法少女がリオンを襲ったのか。


 一体全体、この黒霧の中で何が起こっているというのだろうか——。



 


 はい。ここまでで第一章が終わりです。

 これは毎回後書きに書くのですが、菱川が書く長編は、ほぼ例外なく全四部構成です。


 それぞれ、起・承・転・結を担っているということになります。


 ただ、最近は、ここに捻りを加えて、


 起・承・転・転・結


や、


 起・承・転・起・承・転・結


という構成も面白いかなと思っていて、先月アップした『日常系アニメの世界で禁断の猟奇殺人が起きたので、双子のお姉ちゃんと力を合わせて隠蔽します』は、起・承・転・起・承・転・結を使いました。


 本作は、普通に起・承・転・結かなとも思いますが、結の部分がかなり濃厚なので、もっと複雑な型を使っているようにも感じられるかもしれません。


 とにかく、ここまでが第一章で、作品の世界や世界観、登場人物の説明に筆を多く使いました。

 

 第二章からストーリーが動き始めます。


 引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
う~ん、本当に謎ですな。 というか霧の中で相手は自分らと同類もしくはほぼ同じ実力者。 ホラーな側面もあってゾクゾクします。 あいずさんはご存じじゃないかもしれませんが、昔サンデーで連載してた『GS…
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