57 とある計画
マリーナとデュークが甘い時間を過ごしている頃、エマは困惑した表情で立ち尽くしていた。
(ヨハンさんに呼ばれてきたのに、どうしてあの先生が…?)
ヨハンに授業が終わったら来てほしいと言われた空き教室に、いつか話に出てきた【瓶底眼鏡に緑色の長髪を後ろで一つに結んでいる性別不詳】の先生が目の前で仁王立ちしていた。
(私部屋間違えちゃったのかな…。)
いつも通りに昼食をとったあと、突然耳打ちされて呼ばれたこの教室。エマは何の用事なのか聞かされておらず、そわそわしながら授業を受けていたが今は別の意味でそわそわしてしまっている。
(身長は意外と低いのね…。遠くからではわからなかったけれど、私よりは大きいのかしら。)
そんなことを考えていると、「何をしている。」と高くも低くもない声で突然話しかけられびくっと震える。
「あ、あの!申し訳ありません!部屋を間違えてしまったようです!失礼します!」
「間違っていないぞ。私が呼んだからな。」
「へ?」
「エマ・レーデイ。君にこの国を変える勇気はあるか?」
「は、はいぃぃい?」
(この先生は突然何を言い出すの?!)
一歩間違えたら反逆罪にでもなるのではないかというような発言に冷や汗が流れる。この人は一体何をしでかそうとしているんだ、というかヨハンはどこにいるのかとエマがキョロキョロし始めると先生が瓶底眼鏡をきらりと光らせて口を開く。
「さあ!共に輝かしい未来への扉を開こうではないか!」
(助けてー!!)
エマは泣きそうになりながら近づいてくる先生に怯えていた。
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「すみません、授業が長引いてしまって少し遅れました。…?」
ヨハンが軽く息を切らしながら教室に入るとすっかり気が抜けて放心状態のエマの方を先生がゆさゆさと揺らしながら「さあ!さあ!」と続けている。
「はっ!!ヨハンさん!!」
ヨハンの声に気づくとエマはすっかり調子を取り戻し凄い勢いでヨハンの後ろにささっと隠れる。
「…何してたんですかー?!というかこの状況は一体なんなんですか!」
先生の視界に入らないようにしながら、ヨハンに小声で悪態をつく。先生は天を仰ぎながらぶつぶつと話している。
「あぁごめん。…ちょっと変わっているけれどいい先生だよ。」
そう話すヨハンを(ちょっと…?)とはてなを浮かべながら少し睨む。ヨハンは普段滅多に人からされることのない表情をエマにされて、思わず口角を上げる。
「何笑っているんですか。」
エマが表情を変えずにわざと低い声を出しそう続ける。
「すまない。相変わらず君の反応は面白いなと思って。」
ヨハンがそう言って少し笑うと、エマがふんっとわざとらしくそっぽを向く。
「…まずは聞いてほしい。僕はね、先生とエマと進めたい計画があるんだ。」
そう笑うヨハンは、まるで出会った頃のようなとらえどころのない雰囲気で思わずエマは息を吞んだ。