5 お茶会
「会えない間はとても寂しかったけど、君がどんな贈り物を喜んでくれるか考えながら選ぶのはとても楽しかったよ。」
デュークはそういうと右手の茶器を少し持ち上げ、にやりと口角をあげた。
マリーナは手を止めて、改めて頭を下げる。
「デューク様、ご心配をおかけしましたわ。お気遣いありがとうございました。」
「頭を上げてくれ。もう謝らなくていい。…君に色々な花を贈っただろう。どの花が好きだったか今後の参考に教えて欲しい。」
「花……ですか?」
どんな参考にするんだろう?とすこし首を傾げながら、回復しましたと手紙を出した際に送られた胡蝶蘭を思い出した。
殿下も私の通名をご存じなのかしらと、すこしくすぐったい気持ちになった。
部屋に届けられた胡蝶蘭は白い大輪を凛と広げており、その高貴さにあてられつい背筋が伸びる。
胡蝶蘭は【真依】も好きな花だった。「幸福が飛んでくる」という花言葉に惹かれて、結婚式の時には髪飾りもブーケも胡蝶蘭を入れるんだーってはりきったのよね。と口元を隠してクスッと笑う。
そんなマリーナの様子に、デュークが不思議そうに首を傾げる。
「胡蝶蘭が嬉しかったです。私の好きな花ですの。」
「……そうか。胡蝶蘭か。教えてくれてありがとう。」
微笑むマリーナを優しい眼差しでデュークは見つめていた。
------------------------------
「デューク!早く来るなら教えてくれよ!」
一通り会えなかった時期にあったことを報告しあったところでヨハンが登場した。
その後ろにはデュークに上手くまかれてしまった、デュークの護衛騎士ジャンが涙目になりながら付いてきている。
「いくら公爵邸の敷地内とはいえ、このように振る舞われてしまいますと僕の存在意義がですね……。」
そうジャンが早口で話しているがデュークは爽やかに無視をしてマリーナの方を向いたまま気にせず話を続けている。
(不満そうな顔をしていても、穏やかな目元はいつものお兄様ね。)
口角をこれでもかと下げ不満を表しながら大股でこちらに向かってきたヨハンを見て、マリーナはふふっと微笑んだ。
「……もう少しマリーナと2人で楽しみたかったのに。」
ぼそっとデュークが不満を垂らす。
「君と僕の仲だろう。僕も楽しみにしてたんだよ?」
カジュアルなやり取りにそぐわない、見事なボウ・アンド・スクレープを披露しヨハンは席に座る。
「……学園でいつも隣にいるじゃないか。」
デュークはそう言いヨハンを少し睨む。
このニニール国では、王族、貴族は15歳から教育と社交目的で学園に通うことになっている。デュークとヨハンは同い年として2年前から学園に通っており、クラスも生徒会でも常に一緒に過ごすらしい。
元々マリーナも小さい時はヨハンとデュークによく遊んでもらっていたが、物心ついた時には日々勉学に励んでいたため実際のところはあまり覚えていない。ちなみにヨハンは持ち前の要領の良さで、よく王城にデュークと勉強するという名目で遊びに行っていたのだ。
(確かにヨハンお兄様はいつも一緒なのよね。なぜそんなに今日のお茶会を楽しみにしていたのかしら?)
と首を傾げる。
「もうすぐ我が妹も学園に通えるじゃないか!」
デュークの喋り方を真似して、いたずらをする子供のように笑いながらヨハンはそう返す。
真似をされたと気づいたデュークは少し片側の眉をあげたが、すぐ穏やかな表情に戻り「そうだな」と返事をした。
(そ、そうよね……。ついに私も学園に通うのよね……。)
楽しそうに話す二人をよそに、逃避していた現実がすぐそこまで来ていることを思い出したマリーナは少しだけ視線を落とし口角を下げるのだった。