40 真相
お忍び王都観光から2週間ほど経ち、マリーナ、エマ、エドワード、ポリーヌはデュークに呼ばれサロンに来ていた。
あの後、デュークに帰り際「ここから先は任せて」と言われて、それ以降は食堂に現れることもなく忙しそうにしていたため顔を見るのも久しぶりだ。そんなことを考えながらマリーナが緊張した面持ちで着席する。ヨハンはデュークの横に爽やかな顔をして立っている。きっと全部知っているのだろう。マリーナはこの2週間ヨハンに何度もデュークの事を聞こうとしたが飄々と交わされていたため、ヨハンと目が合いムッと顔を顰める。そんなマリーナを見てヨハンがにこっと笑う。
「君達には小説の件で集まってもらった。」
デュークが手を組みながら話し始めつい喉が鳴る。
一同は静かにデュークの説明を聞いていた。
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あれから【真実の愛】の件はあっという間に、デュークとヨハンによって公式に調査が進められることになった。
フィクションとはいえ民衆の扇動に該当すると判断したデュークによって早々に貴族会議の議題に挙げられ、ノルマンディー公爵家を中心に聴取が行われた。
ノルマンディー公爵家は娯楽のない平民や音楽隊を雇えない貴族向けに劇場を建築するという計画に投資している立場であった。劇場は隣国で数年前に初めて建築され、莫大な利益を得ているという情報を掴んだため商機と考えニニール国に輸入。ニニール国で流行る演目について検討していたところ巷で流行っているという小説の話が舞い込み話題性も考慮し、一から新しい演劇を完成された。公演を重ねるごとに客層に合わせて徐々に脚色した結果今の形になったという。
ニニール国は基本的には保守派ではあるものの、他国の文化や民の思想に対して寛大であり今までも多少の見聞は国として目を瞑っていたこともあり問題視していなかったと。ヨハンによって証拠がまとめられており、ノルマンディー公爵家とその傘下の貴族が全ての非を潔く認めた。本来であれば政に反する革命扇動と判断され爵位の剥奪や領地の没収も免れない内容ではあったが、第一王子であるデュークとシャルロッテ公爵家当主の口添えもあり、特例としてノルマンディー公爵家は伯爵への降爵処分となった。
そこまでの説明を聞き、マリーナは口を開ける。
「ご説明いただきありがとうございます…。」
ノルマンディー家への措置にマリーナは少し安堵する。公爵家の爵位の剥奪ともなればきっと国全体を震撼させることになる。
「あ、あの…小説についてはどんな処分になるのでしょうか…?」
ポリーヌが今にも泣きそうな顔で震えながらそう質問する。ことの発端はマリーナの行いとはいえ、小説を書いた著者も一端を担っているのは間違いない。
「ああ、演劇の原作になった小説のことかな?」
デュークがとぼけた顔をしてそういうと、その場にいた全員が一斉にデュークに目をやる。
「作者不明のいつ書かれたのかも分からない小説だ。出回っているのはどれも手書きの筆写本で。これでは原作者の調べようがないしこれでは罰することもできないと頭を抱えているよ。」
全く、とわざとらしく頭を抱えるデュークにポリーヌがありがとうございますと泣き始める。マリーナ達はそんなポリーヌを見ながら良かったと安堵した。
マリーナがデュークに目をやるとこちらを見て微笑んでいるのが見えて笑い返す。
(そういえば最近学園で悪役と陰口を言われなくなったのも、今回の処分が理由なのかしら。)
ふとそんな事を考えながら黙っているとヨハンが話し始めた。
「正直、実際怪しい動きがあったのは事実だからね。反乱分子は取り除かないと国の安寧にも関わる。もうちょっと泳がせてたら改革派を炙り出せて一掃できると思ったりもしたんだけど。」
そう言いデュークをちらっと見る。
「…僕は貴族至上主義のままではいつかこの国は衰退してしまうと父に提言していてね。実力があるものは、身分に関係なく国の中枢で活躍できるように変えたいきたいんだ。今回一掃してしまうことで言論統制と捉えられてしまうのは避けたかった。もっと自由に意見を言って欲しいんだ。」
「そう言って聞かないから。」
ヨハンが両手を挙げ困ったような顔を作る。
「生徒会で選挙制を取り入れたのも、父に理解して欲しくて学園内で始めた。僕は真剣に変えていきたいと思っているんだ。」
「だから、ここにいる皆にはこれからも協力して欲しい。」
そうデュークが作る笑顔に「はい!」とその場にいた皆が一斉に返事をする。
マリーナはその様子を見ながら窓の外を見遣る。
(私もみんなも懸命にこの世界を生きている。大丈夫。私は物語の登場人物じゃない。)
雲ひとつない真っ青な空を見ながら胸を撫で下ろした。