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閑話 会えて嬉しい


「ヨ、ヨハン様がなんだか一段と麗しいですわ!」

「きゃー、どうされたのかしら。」


教室でヨハンが儚げな表情をして、いつものように肘をついている。そんな様子をご令嬢達が遠巻きからきゃっきゃと見つめている。



ヨハンはある日の食堂でのエマとのやりとりを思い出していた。


(僕はもっと色んな話をしたいと伝えたのに、相変わらず避けられている。何でだ。)

(あの辺りにいるご令嬢たちに同じことを言ったら、きっと喜んで話しかけてくるだろうに。)


遠巻きの視線を感じ、そんなことを考える。目線は向けずに気づかないふりを続ける。


エマとはあれからも食堂で一緒になるし、生徒会でも一緒に過ごす時間は増えたはずだ。しかし何故か話しかけようと名前を呼ぶたびに逃げられてしまう。


(全然分からない…。)


ヨハンのエマに対する思いは、最初は珍しい出自で面白い考えを持つエマへの好奇心だった。それが人生で初めて怒鳴られ、避けられたことへの衝撃にかわった。逃げられるたびにどうやったら自分に好意を持ってくれるようになるかと意地になり始めていた。

エマが名前を呼ばれるたびに照れて逃げているなんてことはもちろん知らず、次はどうやってエマと関わりを持つか悩んでいた。



「ヨハン…僕は何故いつも格好つけて思ってもいないことを言ってしまうんだろうな…。」


そんなヨハンの元に、また悩める男が1人。遠巻きにいるご令嬢達の黄色い声が大きくなる。前の席にそうメソメソしながら座るデュークに許可してないぞ、と心の中で悪態をつく。


「…今度は何をやらかした。」


「やらかしたって言うな。…前に断ってしまったマリーナから王都に行こうって誘われた話だよ。今日も楽しそうに計画を立てていてな…。やっぱり行きたいなんてダサすぎて言えないだろう。」


この国の王子はこうも女々しいのか。いくら惚れているからって、婚約しているんだしそこまで弱気にならなくてもいいだろうに。はぁとため息を吐く。


「相当楽しみなようだな。毎日行き帰りでもその話をしているよ。」


今まで外に興味も持たず、読書や勉強ばかりしていたマリーナ。初めて友達ができて楽しそうにしている姿は見ていてとても嬉しい。


「まぁ、グロスターも当たり前にいるのが癪だけどな。」


そうヨハンが言うと、そうなんだよ!とデュークが前のめりに顔を寄せてくる。ヨハンはそんなデュークを避けるように涼しげな顔をして椅子にもたれた。


「いつもマリーナに近づくなって暗に伝えてるはずなのに、全然伝わらないし。むしろ僕と話しやすくなって嬉しいとか言ってくるし、あの身なりなのに意外とちゃんとしててなんか素直な犬みたいだし。」


(こいつはすぐ絆されるな、そんなお人好しで大丈夫か。ま、そのために僕がいるんだけど。)


なんやかんやでエドワードに好意を持っているデュークに冷めた目を向ける。



「…僕、王都に行きたいティーハウスがある。」


急にそう話すヨハンに、は?とデュークが首を傾げる。


「だから、行きたいティーハウスがあるんだ。君も行くだろ。」


デュークににやりと口角を上げて笑いかける。


「……!もちろん行く!日にちはもう決まっているな。よし。」


ヨハンの意図を察したデュークが返事をする。偶然同じ場所に行ってしまうのであれば問題ないだろう。


ヨハンは腕を組んでははっと笑った。


--------------------------------



「何でいるんですか。っていうか、ここ人気店ですよ?もしかして貸切とか言わないですよね…。」


エマがびっくりした顔でこっちを見ている。


「貸切だよ。」


にこっと笑顔を作り返事をする。


「何してるんですか…今日ここに来たかった人たちのこと考えました?」


(普通はすごいって喜ぶものだろう。何でいつもそんな困ったような顔をするんだ。)


「…既に予約した者は別の日に振り替えてくれるなら、後日公爵家のパーティーに招待すると言ったらみんな変更してくれた。あと今日貸切と知らずに来た者たちも。」


褒めてくれるかと思ったのに、とヨハンがむすっとした顔でエマにそう説明する。


「うーん、それは確かにいい代替案かもしれないですけど。今日が特別な日だった人がいるかもしれないですよ。」


その言葉にヨハンは顔をあげ、エマを向く。


「…そこまで考えられていなかった。」


「少なくとも今日はマリーナが初めて王都で遊ぶ日なんです。そんなマリーナがもしこのお店に入れなかったらとても悲しみますよ。」


もし連れて来れなかったら私も悲しいです、とベイビーブルーの瞳を揺らす。


「…そうだな。すまなかった。次からは気をつける。」「だから、」


そう言ってヨハンが手を伸ばす。


「だからせめて今日は会えて嬉しいと言ってくれるか?エマ。」


頭にポンと手を置く。座りながらでも手が届くエマは小さく、子供が拗ねているようにみえる。

口から自然に出た言葉は自分でも恥ずかしくなるくらい甘く優しくて。自分もエマに子供のようなお願いをしていることに気づき、ヨハンは気まずくまた下を向いてしまう。


「会えて嬉しいです。」


ボソッと声が聞こえてエマの顔を見る。すると真っ赤な顔でヨハンを見つめている。


「聞こえなかった。」


「…会えて嬉しいですっ!」


「もう1回いいか?」


「…絶対聞こえてるじゃないですか!もう言わないですよっ。」


真っ赤な顔で怒り始めたエマに、ヨハンが声をあげて笑う。ごめんごめん、と笑って滲んだ目元を擦り


「僕も会えて嬉しい。」


とエマに返事をすると、口元を震わせながらそっぽを向いてしまった。


いい雰囲気だったと思うんだが?と不思議そうに首を傾げるヨハン。その様子を遠くからゾフィーとポリーヌが興奮した様子で盗み見ていたのには気づいていなかった。

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