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30 口に出せない


(腹が減っては戦はできぬよ!まずは美味しいご飯を食べなきゃね。)


と食堂に入り、今日はどんなメニューにしようかなと目を輝かせるマリーナ。うどんやカレーライスを提供するこの食堂はがやがやと前に来た時よりもはるかに賑わっていた。


暗黙の了解の元それぞれの階級の貴族が集まる食堂に行っていた生徒たちだったが、マリーナたちがデュークとヨハンも誘いこの食堂に来るようになってから空前のブームになっていた。

また、上級貴族が減った別の食堂には肉料理を求めて男子生徒が集まるようになったりと自然に階級関係なく食べたい食堂に行けるようになったのだ。学園内での身分差解消へ密かに貢献していることは露知らず、マリーナは今日もまたラーメンを注文した。


席を探すと先に着いていたデュークとヨハンが手を振っている。丸テーブルに横並びになっている2人のもとに到着し、自然にデュークの隣に座る。


「お待たせしてしまいました。」


「マリーナは今日もラーメンかい?」


「はい、今日は醤油ラーメンです。素朴なのにこんなに美味しいだなんて、ハマってしまいました。」


デュークの笑顔が一瞬消えた気がしたが、そうかといつも通り微笑んでる顔を見て安心する。



エドワードが先についていた2人に挨拶をするとマリーナの隣に座る。


「君はそこに座らなくていいんじゃないか?他にも席があるだろう。」


デュークが刺々しい言い方でエドワードにそう言うと、


「席が空いていたのでお邪魔させていただきました!それにマリーナの隣に座りたいなと思いまして!」


とにこにこと返す。デュークの真意には気づいていないのだろう。爽やかな笑顔にデュークが無理やり口角を上げる。



「…空いている席はここだけですね。」


「他の机ならまだ席が空いているなぁ。」


「1人で食べるのはさすがに嫌ですよ…。」


「では、座るしかないなぁ。僕の隣だが。」


「ヨハンさんの隣が嫌なわけないですよ…。嬉しいなぁ。」


「それならもっと嬉しそうにしたらどうだ。ほら、君の好きな顔だぞ。」


「う゛っ。…それは反則じゃないですか…?」


エマとヨハンの声が聞こえ顔を向けると、いつもと変わらない様子で食事を運ぶヨハンと眉間に皺を寄せながら赤面するエマが見える。いつの間に仲良くなったのか分からないけれど、いつもヨハンがエマにちょっかいをかけにいくので今日もまたやってる、と手元のラーメンに目を向ける。


いただきます!とマリーナは器用にフォークでラーメンを食べ始めた。



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エマはうどんを口に運びながら、小さくため息をつく。

生徒会室での一件以降やたらと絡んでくるヨハンに辟易していた。


(とりあえず、失礼なことを言ったことに対して咎められることはなかったけど。恐ろしくて最低限しか関わりたくないのに…。)


ちらっとバレないようにヨハンを見る。相変わらず彫刻のように綺麗な顔をしている。食べているうどんが浮いてしまっている。


「何だ。」


「…何で他のご令嬢にはにこにこ手振ったりしているんですか。」


私には冷たいのに、と気になっていたことを聞いてみる。仮面を被ってくれていた方がこちらも同じ対応ができて楽なのに。


「…愛想を振り撒くメリットがあるからかな。」


ヨハンはエマ以外の令嬢達を思い浮かべそう発言する。


「へぇ〜そうですかぁ〜。」

(メリットって煩いなぁ、男爵家じゃ影響ないってこと!馬鹿にして!)

ヨハンの意図が分からないエマは、いつものように心の中で悪態をつく。


「ん?」


ふとサロンで話した日のことを思い出す。確かにあの日は自分の身分に関係なく素で笑いかけてくれたはずだ。


「ヨハンさんだって、メリット関係なく行動することあるんじゃないですか!」


ヨハンを真似てベロを出す。令嬢らしからぬ表情だけど、関係ない。どうせ言いたいことも全部勢いで言ってしまった後だ。

次はどんな事を言われるかと構えていると、じっとヘーゼルの瞳がこちらを見つめる。


(急に真剣な顔しちゃってどうしたのよ…。)


いつもの掴みどころのないヨハンはそこにはいなかった、真っ直ぐとエマを見つめる瞳に思わず固まる。



ヨハンは素直な思いを心の中で反芻する。

『僕はずっとこうやって生きていた。これからもそうだと思っていた。でも、あの時君の理想ばかりの滅茶苦茶な主張に初めて惹かれた。チャンスを自分のものにしてより上に進もうと思う君にも。』

『僕はこの国の宰相を目指している。君の理想論は実現に向けて検討するべきところは沢山あるがとても魅力的だと思った。』

『だからもっと君と話をしてみたい。』

普段はペラペラ話せるのに、言葉が詰まるヨハン。



「……もっと君と色んな話をしてみたいとは、思ってる。」


それだけ言うとそっぽを向いてヨハンが黙ってしまう。なんだか幼い子供みたいでエマがくすっと笑う。


「でしたら、まずその『君』っていうのやめてくれませんか?」


エマが話しかけると、ヨハンはゆっくりとエマの方を向いた。


「エマです、私。エマ・レーデイ!」


そうにかっと笑うと、ヨハンはばつが悪そうな顔をして、

「エマ。」

とだけ口にした。


(わ、わわわ。何で急に呼び捨てなのよ!前はエマ嬢って言っていたじゃない!)


「そうですよ、人には名前がありますからね!そっちがそういう態度で来てくれるなら私も正々堂々と挑みますよ!」


エマは思わず立ち上がる。


「…僕は宣戦布告でもしたのか?」


「ひぇっ!すみません!」



たわいもない話をしながらご飯を食べていた他の3人は急に立ち上がったエマにびっくりし、また怒らせたのか?とヨハンを見る。すると今回は違うとヨハンが両手を上げて首をブンブンと振って否定した。

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