28 女子会
「ねえ、ゾフィー。貴女は告白されたことがある?」
マリーナは自室でカバンにつけたリボンを見ながら、突然ゾフィーに質問をした。湯浴みの準備を始めていたゾフィーと横にいたマイヤーが手を止め興奮した様子でマリーナに近づく。
「ど、どうしたのですが?!いきなり!もしかしてマリーナ様ついに告白されたのですか?!」
「ひゃああ!焦ったくて見ていられなかったのですわ!」
マイヤーが珍しく興奮した様子で質問をしてきたと思ったら、ゾフィーが叫び出してマリーナは慌てた様子で訂正する。
「え、えっと!告白されたというか、一目惚れみたい?とか好きみたい?みたいなことを言われて…。」
「…というかついにってどういう事?」
マリーナが首を傾げてそう話す様子に2人は目を合わせる。恐る恐るマリーナの方に目をやるとぽかんとした表情でこっちをみている。2人の想像とは違う展開なのだろうと察する。
「…ちなみにそのお相手はどなたかお聞きしても……?」
「…ここだけの秘密よ。エドワード。グロスター公爵家子息の。」
「「…はい?」」
思わぬ伏兵の出現に2人の思考が追いつかない。
「…何回か会ったことがありましたっけ。まだマリーナ様が幼い時に。」
「そうね、挨拶くらいしか話した記憶がないけれど。」
ゾフィーは、遠い記憶の小さいエドワードを思い出す。隣にいた熊のように大きくて豪快に笑うグロスター公爵の印象が強すぎてあまり覚えていないけれど。
「…なぜ急にそんなことに…?」
マイヤーが不思議そうにそう呟く。
「うーん、それが分からないのよね。急に疑問形でそう言ってきたと思ったら、すっきりしたってそれからずっと帰るまでいつも通りだったの。」
…ますます何だか分からない。と心の中で呟いたところで、ゾフィーは最初にマリーナから質問されたことを思い出す。
「マリーナ様、私は一度も告白をされたことはありません。しかし、何となく『好き』という感情がそんなに簡単に告げることができないものとは分かります。」
ゾフィーにそう言われ、マリーナはふと真依の記憶を思い返す。なかなか素直になれずにすれ違ってしまっていた葛藤する感情を思い出し思わず胸を抑える。記憶が戻る前ではよく分からなかった感情だけど、今ならゾフィーの言いたいことがなんとなく分かる。
すると、マイヤーが話し始めた。
「私はマリーナ様はもちろん公爵家の皆さんが好きです。ゾフィーのことも好きです。…もしかしたら、エドワード様はそういう好きとまだ区別がついていないのかもしれませんよ?好きには尊敬や興味や愛情、色々な感情があると思っています。」
(な、なるほど…。)
マイヤーの言葉に納得する。確かに、何でもその場で思ったこと言っちゃいそうなところあるものねとエドワードを思い出す。
「わ、私もマリーナ様が大好きですよ!マイヤーのことも!」
先を越されたと言わんばかりの形相でゾフィーが前のめりにそう話し出す。
その様子に思わずマリーナとマイヤーが笑い始める。こんなに穏やかな時間を過ごせるようになったのもみんなのお陰だ。
「私も2人が大好き。」
そう満面の笑みでマリーナが言うと、きゃーっとゾフィーとマイヤーがマリーナの肩にくっつく。ふふふっと3人で笑っていると唐突にゾフィーが話し始める。
「マリーナ様。…このリボンの贈り主についてぜひ教えてくださいませ!」
「私も実はずっと気になっていましたの!マリーナ様ぜひ!」
急にデュークからのプレゼントの話になり、マリーナは自然と赤面する。
「…デューク様にいただいたの。」
そう告げると、ゾフィーとマイヤーはまた興奮した様子で口に手を当てながらきゃーっと騒ぎ始めた。
へへへ、と笑うマリーナ。
いつの間にか湯浴み用の湯は冷め切り、温め直すことになることは2人の侍女は知らなかった。