21 大型犬
あれから1週間が経ち、マリーナは教室で1人自分の席に座っていた。
「エマさんってお可愛らしいわ。」
「…は、ははは。そんなことないですよ。みなさんの方が。」
「勉強ってどうやられているの?教えてほしいわ。」
「僕も教えてほしいな。」
「本当、ひたすら本を読んで勉強に時間を割いていたので。本当時間を沢山費やすと言いますか…。」
前の席のエマは、沢山のクラスメイトに囲まれていつも話しかけられている。エマからよく視線を感じるものの、忙しいようでなかなかゆっくり話すことができない。
(いい子そうだし、私も仲良くしたいけど…。)
あの輪に入りたい。そうはいかない理由があるのだ。
今なら、とマリーナが深呼吸して話しかけようとする。
「あ、あの「マリーナ。来週から馬術の授業あるらしいぜ。俺は乗馬がいいなー、そういえばマリーナって乗馬できるんだっけ?」」
エドワード・グロスターが隣で肘をつきながらこっちを見ている。いつの間にか席が変わり右隣に移動していたエドワードは暇なのかいつも隣から話しかけてくる。完全に大型犬に懐かれてしまった。
…これがなかなか輪に入ることができない原因だ。
元々小説の中で悪役令嬢として活躍してる(キャラクターと瓜二つの)マリーナ。クラスメイトからは距離を置かれていたのは気づいていた。しかし入学式のあの日握手を交わして以降、エドワードに気に入られてしまったようでやたらと絡んでくる。
おかげで悪役令嬢が武力を手に入れた、とこの前陰口が聞こえてきた。声の主はエドワードが「は?」と振り返った時にはもう逃げていたから分からずじまい。
(鬼に金棒ね…。我ながら最強よ……。)
「なーなー。」
と隣から机をトントンされている。
もっと可愛らしい学友の女の子たちと楽しくサロンでお茶するような学園生活を夢見ていたのに。
「はぁ、サロンでお茶…。」
「お?いいなー。サロン行こうぜー。」
気づいたら口に出ていた独り言にエドワードが反応する。
「…ねぇエドワード。男友達いないの?私たち、それぞれ同性の友達を作るべきだわ。」
「なんで?」
エドワードが不思議そうな顔をして見つめてくる。やんちゃな見た目で少年みたいな表情をしてくるエドワードを同い年なのについ弟みたいに可愛く思えてしまう。…が。
「私たち婚約者でもないのにずっと2人でいたらさすがによくないもの。ほら、デューク様も気になさるかも。」
「俺マリーナのことただの友達だと思ってるし、何も起きることないのに?」
「ま、まぁ。それはそれとして、変な噂がたつこともあるのよ。それに同性の友達の方が色々分かり合えると思うわ。」
「同じ爵位の家で同い年って同性以上に分かり合えると思うんだけど、俺。」
そうまっすぐこちらを見ながら首を傾げてくる。
それに、とエドワードは右手で左肩を掴み鍛え上げられた腕をちらっと見る。
「変な噂は俺が握り潰すし。」
とニコッと笑う。教室の空気が少し冷えた気がするのは気のせいだろうか。握り潰すって物理じゃないよね?
マリーナはエドワードを見ながら無理やり口角を上げる。パワー系と見せかけて意外と弁が立つエドワードにマリーナはこれ以上諭そうとするのを諦めた。




