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16 疑念


時は遡りマリーナとエドワードが教室を出て行った後、数分遅れてデュークとヨハンがAクラスに着いた。


第一王子と公爵子息の突然の来訪に教室内がざわつき、小さく黄色い歓声があがる。


「あれ、いないなぁ。」


ヨハンが教室を覗き込みマリーナの不在を確認する。


「同じ馬車で帰るから迎えに来るって言ったのに。」


頬を膨らまし、怒ったような顔を作るヨハン。デュークはまた猫を被ってるなと冷たい視線を送ったあと、同じように教室を覗き込む。


いくつか置いてある鞄があるが学園指定のためどれも同じだ。


(どれがマリーナの鞄かわからないな。次は鞄につけるキーホルダーでもプレゼントするか。)


そんなことを顎に手を当てながら考えていると、急に声をかけられる。


「あの、少しお話があるのですがよろしいでしょうか。」


声のする方を探し目線を下にすると、ビー玉の様に光る青い瞳と目が合う。


学園の中では生徒達は身分差なく接するよう校則が決められているが、それはあくまで建前で見えないルールは存在している。特に相手が王族となれば、話しかけられない限り声をかけないというのは暗黙で決まっていた。そんな事も知らず、向こうみずに話しかけてくるブロンドと青い目を持つ令嬢。デュークはこの子か、と確信する。


教室内は今度は小説の中の主人公と王子様の対峙に声を殺し、やり取りがちょっとでも聞こえないか耳を澄ます。


「実は僕も君には一度挨拶したいと思っていてね。…此処ではクラスの交流を妨げてしまうようだから、僕が使っているサロンに案内しよう。」


教室内をくるりとくるりと見渡し笑顔を作ると、聞き耳を立てていた生徒たちの肩がビクッと揺れる。


「それなら僕もついていっていい?あ、ちょっと待ってね〜。」


ヨハンはそう言うと、近くにいた生徒にメモを取り出してさらさらとマリーナへの伝言を託す。


残っていた生徒たちは、そのままサロンに向かう3人の後ろ姿を見送り終わると一斉に、今のは何が起こったの?!と興奮して話し始めるのだった。


-------------------------------


サロンに到着し、各自の一人用ソファに腰掛ける。


沈黙を破ったのはエマだった。


「突然声をかけてしまってすみません。初めまして、レーデイ男爵家のエマ・レーデイと申します。」


エマの自己紹介を皮切りにそれぞれ軽く改めて自己紹介をする。


「エマ嬢、君は一体僕に何の話をしようとしているのかな?早速教えてもらいたい。」

デュークはよそ行きの笑顔でそう話す。



「…お2人は巷で流行っている【真実の愛】という小説はご存知でしょうか。」


いきなり聞きたかった度直球の話題を振られ、デュークとヨハンは笑顔も忘れ静かに頷く。


「私は数年前まで母と壁の外で平民として暮らしていました。そして突然レーデイ家の従者の方が家にきて当主様がお父様だと教えられ男爵家へと連れられました。…愛人であった母は男爵家の離れの中で暮らしています。」


突然始まる身の上話は、小説の中の主人公と非常に状況が似ていた。


「学園に入学する時には首席をとることが私と母の生活を維持するための条件だったので、必死に勉強しました。」

「途中で気づいたのです、平民の時に流行り始めた物語にとても状況が似ているということに。…主人公の特徴にも当てはまっていることも。」


少し怯えた表情でエマがそう続ける。



この子は何も知らずに駒にされているということか?本当に?とデュークの頭の中で疑念が浮かぶ。

もし嘘だとしても急にこんなことを自分達に話し始める理由があるのか。


顎に手を当て静かに思考を巡らせていると、ヨハンが口を開けた。


「もし本当に小説の通りことが進んだとして、利益を得るのは誰だと思う?」


そう問いかけられ、デュークとエマはヨハンのように振り向く。


利益…。シャルロッテ公爵家との婚約が破棄になり、レーデイ男爵家と身分違いの恋を成就させるとしたら。保守派のシャルロッテ公爵家と王族の関係が悪化することを願っているのは。平民を煽動して新たな風を吹かせようと目論むのは。


「グロスター公爵家とノルマンディー公爵家…?」


デュークがそう呟くと、ヨハンは「ってことかもね。」と舌を出しお手上げのポーズをとる。


思っていたよりも大きい話になってきたぞとデュークは頭を抱えて項垂れた。



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