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15 野生の勘


教室内が少しざわついたのを察してマリーナが顔をあげる。エマが教室に入ってきたのだ。


(…やっぱり同じクラスになるわよね。)


この学園は基本的には家柄ごとに上位からクラスが分かれているが、学力に秀でているものについては特例で上位クラスに入れる仕組みになっている。

男爵位とはいえ、首席のエマがAクラスに来ることはほぼ分かっていたことだ。


クリッとしたベイビーブルーの瞳にツンとした鼻と小さい口といった可愛らしいお顔をしたエマは、その見た目のラブリーさとは裏腹にさらっと挨拶をかわしながら教室内を進む。周りの注目を一心に浴びていることにまるで気づいていないような、それでいて嫌味でない振る舞いに感動してしまう。


(お人形さんみたいだなぁ。)


そう思いながらどこの席に座るのか見守っていると、マリーナの前でピタッと止まり、くるっと振り返った。


「よろしくね。」


まさか急に話しかけられると思わなかったマリーナはにこっと満面のスマイルをうけて固まってしまった。しかしすぐに我に帰り、


「よろしくお願いしますね、仲良くしてくださると嬉しいわ。」


と笑顔を返した。


教室内の女生徒たちはみな、【真実の愛】に出てくる主人公と悪役のご令嬢が挨拶を交わすのを息を殺して見守っていたが、案外あっけなく平和に終わったので散り散りに自分の席に向かうのだった。


------------------------------


ホームルームが終わり、マリーナが帰る準備を始める。


(……今日はひとまず帰りましょう。)


そう呟き、席を立とうとしたところ左側から大きい影が近づいてきた。何だろう、と見上げると小さい時に会ったきりだった縁のないはずのエドワードが立ってこちらをみている。


「なあ、おまえ本当にマリーナ嬢か?」


ドクンと心臓が跳ねる。急に来て何を言っているの?!


「な、なななな……一旦教室を出ますわよ!」


焦ってエドワードの背中を押しながら教室を出る。

エドワードはなんだなんだと言っていて、クラスメイトも騒つくが今は上手く反応する余裕はない。


「あっ…。」


後ろからエマがその様子を見ていた。


------------------------------


中庭まで辿り着き、周りを見渡して誰もいないことを確認する。マリーナの息はゼェゼェとあがってしまっていたが、エドワードはなんともない様子でいきなり何するんだと怒っている。


記憶のエドワードはマリーナと身長が同じくらいで華奢な少年で止まっていたが、目の前にいる男の子は170cmあるマリーナも見上げるほどの身長でつい萎縮してしまいそうになる。


「…久しぶりね。あなたも何だか別人みたいよ。」


「そうか?こんな感じだったぜ。」


いやいや!と心の中でツッコミを入れる。

華奢でたどたどしかったあの少年はどこに行っちゃったのよ。



「…さっき何で急にあんなことを言ったの?」


普段気をつけている令嬢らしい振る舞いも言葉遣いも忘れてエドワードに質問する。緊張して喉が渇く。


「んー、勘?」


帰ってきた返事に思わずはい?と言ってしまいそうになる。表情は至って真剣だ。野生の勘が鋭いのね…と感心してしまう。そうじゃなくて、と気持ちを切り替える。


(…何も焦ってここまで来る必要はなかったのね、そもそも前世の記憶があるだけで私は変わってないのに。初めて指摘されたから動揺してこんな所まで来ちゃったじゃない。)

小さくため息を吐く。


「で、やっぱマリーナ嬢じゃないってことか?」


そう質問され、最適な回答を考える。


「…私は小さい時からずっと完璧でいなきゃと振る舞っていたの。だから昔の私も今の私も同じよ。もう少し肩の力を抜いてみようと思っただけよ。」


まさか別の人格の記憶を思い出して改心しましたなんて言えないと、そう言葉を返す。


「ふーん。」


興味がないのか納得してないのか分からない返事が返ってくる。



一体何なのだ、つい一言いってしまいそうになったところでエドワードが話し始めて慌てて平静を装う。



「俺さ、小さい時に会った記憶が忘れられなくて。気づいたらいつも人形みたいに立ってたマリーナ嬢が頭に浮かんでたんだ。」

「久しぶりに会ったと思ったら色んな顔してるし、変な動きしてるし。」


たった数回あっただけなのにそんなに記憶に残るほど?と首を傾げる。その後続く言葉に、いつの間に私はそんな醜態を晒していたんだとマリーナは聞きながら絶望しているが気づいていないエドワードが続ける。


「だから本当にマリーナ嬢なのかなって思って。普通に考えて何言ってんだって感じだよな、無礼な事を言ってしまってごめん。」


忘れてくれ、と頭を掻いているエドワード。やんちゃそうな風貌をしててもやっぱりグロスナー公爵子息ね、と素直に自分の非を認めるエドワードをみてちょっと笑ってしまいそうになる。エドワードはそのままバツが悪そうな顔をして下を向いた。なんだか、怒られてしょんぼりする大型犬みたいに見えてきた。


「私はずっと私よ。…これからクラスメイトになるんだしよろしくね。」


そう笑いかけると、よかった!とでも言いたそうなほっとした顔をして


「ああ、こちらこそよろしく!」


と年相応の満面の笑みで、握手しようとする手が伸びてきたため、思わずふふっと笑って握手をした。


------------------------------


その頃、デュークとヨハンは王族と上級貴族専用のサロンに向かっていた。その後ろに深刻そうな顔をしたエマが数歩遅れて歩いていた。

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