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空井雪は乗っ取られる

久しぶりにこっちを更新しました。



「せんせー」


 俺は朝早くに書いた紙を、担任の先生に渡した。

 先生は、今日は提出物がないはずだけど、と言いながら、二つ折りになっていた紙を開いた。


「にゅ、入部届!?お前、大丈夫なのか?」

「別に俺が平気だから、渡してるんですけど?」

「そ、そうか」


 俺は適当にあしらって、長い髪を翻して席についた。そろそろ夏だから、ゴムでも持ってきてひとつにくくったほうがいいかもな、なんて考える。

 先生の声を聞きつけて、みんなが俺の方に寄ってきた。


「雪ー、部活入るの?あんなに嫌がってたのに」

「な、雪が入るなんて想像もつかねぇわ」

「えー、そう?」


 俺はそう言いながら、唇に指を当てて、ウインクをした。

 普通の人なら引かれるだろうが、アイドル級の美少女フェイスの俺なら、可愛いとしか思われない。


「マジでお前の顔面くれ。…………いや、もっと男っぽい顔がいいけどさ」

「ま、確かに俺の顔、お前の体格に合わないしな」


 俺は凪に向かって、半目になりながら言った。凪は百八十六センチの超大柄で、しかもものすごくがっちりとした体格だ。そこに俺の女子っぽい顔が乗っかったら……想像すら難しい。


「雪。何部に入るの?」

「俺は、幽霊部に入るつもり。あと一人入らないと、部活が作れないらしいから、仕方なくね」

「へー。幽霊部かぁ……。雪、また吹部に入るんだと思ってた。だって雪、めっちゃ上手かった……」

「吹奏楽部は入らないから。もう、絶対。一生。」


 俺は、クラスの女子……里帆の言葉を遮ってまで、きっぱりと言い切った。

 里帆はそんな俺に困惑した顔をして、「そ、そっか。ごめんね」と謝った。

 俺は気にしないでと言いながら、にこりと微笑んだ。

 里帆は気まずそうに、仲の良い女子の元へ向かった。


「女子ってなんか、めんどくさいな」

「俺を女子に分類するな。」


 俺はため息をつきながら否定してけれど、凪は何故か生暖かい目で見てきた。俺はギロリと凪を睨みつけた。

 凪は気にも止めていない様子で、俺を鼻で笑った。

 俺は不貞腐れて、椅子に座ったまま、机の上に寝そべった。


「……あー。なんか、眠い。」


 今、さほど仲良くない女子と話したからだろうか。なんだか眠い。俺は眠気に身を任せて、意識を飛ばした。


「おい、雪。もう授業始まるぞ!」


 そんな声が、遠くから聞こえた気がした。




「動いたら祓ってやるのよ。早く雪ちゃんから離れるのだわ。」

「……ん?」


 俺は、大きく伸びをして、眠たい目を擦った。

 あれ、なんかこの声聞いたことがある。誰だっけ?

 変な喋り方。あれ?この女の子、なんか釘バットを持ってるんだけど?ヤンキーか何かだろうか?


「えーと、す、す……翠露……だっけ?」

「あれ?もしかして、戻った?ふう、心配は無用だったのだわ。」


 翠露……翠露……。お、思い出した!寝ぼけてた!あの幽霊部のやべー人だ!


「あ!?今、何時だ!」

「え?今は六時なのだわ。」


 時計を指されて、愕然とする。

 俺が寝たのは、教室の中だったし、しかも十時くらいだった。それなのに、今は幽霊部の部室らしきところに居るし、夕方である。


「お前……。俺を連れてったのか?このクソ野郎」

「お口が悪いのだわ。お生憎、私はきみを連れて行っていないのね。幽霊に乗り移られて、自分からここにきてたのよ。」

「は?乗り移られる?そんなこと、あるのか?」


 しかし、翠露の様子からして、嘘ではなさそうだ。嘘だとしても、クラスメートの反応で、嘘かどうかは分かるだろう。

 翠露は片目を手で覆った。そういえば、翠露の目の色は若干、違う。オッドアイって奴だろうか。


「えぇ。変なこと言ってたのだわ。しかも、私の目からも、若干きみから霊気を感じる。」

「霊気って……。そういえばお前、幽霊見えるのか?」

「見えるから、わざわざこの前は幽霊を肩に乗せて、見える人を探していたのよ。」


 釘バットをクルクル回しながら、翠露は言った。俺は他にも見える人がいることに、少し安堵を覚えた。

 これまで、俺以外の見える人は見たことがなかったからだ。


「まさに、きみはにんじんにつられる馬なのだわ。」

「あ?馬?何言ってんの?俺みたいな美少女が馬なわけないだろ?」

「ぷっ……。ただの例えなのね。きみってば、天然なのかしら?」

「天然?失礼だな……!」


 俺は頰を膨らませて、怒った。翠露が、面白そうにくすくすと笑った。

 翠露のおかげで、余裕ができて、俺は周りの音が聞こえるようになった。

 かん高い、トランペットの音。吹奏楽部だ。俺はようやく、近くに吹奏楽部がいることに気づいた。

 キィっ!耳が痛くなるような、音がした。あれは、クラリネットの音。失敗した時になる、音だ。


「……はぁ……はぁ……」


 息が荒くなる。俺は耳を塞いだ。吹奏楽が、いる。近くに、ある。


「雪ちゃん?どうしたの?」

「なんでも……ねーよ。」


 俺はセーラー服の袖で、いつの間にか浮かんでいた涙を雑に拭った。

 翠露は考えた後、答えが出たのか、俺に問いかけてきた。


「吹奏楽部で、何かあったの?」

「………………昔のことだから。別に。」


 俺は勝手に震える手を握りしめた。

 あぁ、また聴こえてくる気がする。

「雪、付き合ってくれ!」そんな、声が。

 俺はそっけなく、俺に話しかけんなって言って…………考えたくない。もう、思い出したくもなかった。


「……。もう、この話はやめるのだわ。それよりも、きみに乗り移ってる幽霊の方が、大事なのね。」

「そんなに悪い霊なのか?」

「いや、そう言う感じでは無かったのだわ。……ただ……」

「ただ?」


 翠露は言葉を濁らせた。俺が続きを促すと、翠露は肩をすくめながら言う。


「あれは、ふざけた性格なのだわ。私を散々いじってきたのね。」

「いじる?」

「まぁ……明日には分かるのだわ。もし私のフォローが必要なら、手を貸すのよ。」


 翠露は薄らと微笑んだ。俺は意味が分からず、その辺に乱雑に転がっていたスクールバッグを拾った。

 ……どうやら、幽霊は雑な性格らしい。几帳面な方の俺とは気が合わなそうだ。

 まず、幽霊が乗り移ってるかどうかも、定かではない。


 ま、それも明日のみんなの様子で分かるだろ。

 俺は幽霊部の部室を後にした。





「雪くん、おかえり。」

「俺に話しかけてくんな。」


 家に帰って早々、あいつがいた。

 俺は、クソババアを睨みつけた。そいつは困ったように笑いかけてくる。お父さんは、まだいないらしい。

 俺はため息をつきながら、自分の部屋に早足で向かった。


「おい、雪。お母さんにそんな態度はないだろ。」

「お父さん!居たんだね!でも、お父さんのお願いでも、無理。俺、あいつを母親だとは思えないから。」

「……雪。」


 俺はお父さんがいたことに、目を輝かせた。

 お父さんには申し訳ないけど、あのクソババアに心を許すことなんてできそうにない。

 あいつは、他人だ。家族なんかじゃない。


「雪くん。確かに、私のことは嫌いかもしれないわ。でも、少しでもいいの。もう少し話を……」

「俺のこと、雪でいいって言ってんだろっ!君付けで、呼ぶな!話しかけてくんなっ!」


 俺はドアを勢いよく閉めた。大きな音が鳴ってから、しん、と静まり返った。

 少ししてから、クソババアが遠ざかる音が聞こえた。


「はぁ……。そういえば、スイーツを買う予定だったのに、忘れちゃった。」


 俺は呟きながら、ベッドに仰向けに寝そべった。机の上に置いてあるスマホを取る。

 画面を開くと、大量の着信があった。


「100件……?やけに多いな。」


 スタ連だろうか。俺はめんどくさく思いながら、凪からの連絡を見た。

 真っ先に目に映ったのは、おっさんが叫んでいる、ネタ系のスタンプだ。スタ連されてたらしい。俺は一応、一番最初のところまで、画面をスクロースした。

 

「お前、今日はどうしたんだ?」

「なんか、テンション高かったぞ?」

「授業の質問の答えも間違ってたし。」

「てか、もしかして今部活?珍しく返信遅いな」


 凪からの連絡に、全身の毛が泡立つのを感じた。

 マジ?もしかして、俺、本当に乗り移られてた?

 明日になる前に、真偽が分かってしまった。俺は一応返信を返そうとして、迷った。


「何返せばいいんだろ。」


 俺が幽霊を見れるのは、凪にも言ってない。だから、何か良さそうないいわけを考えなければいけない。

 考えた挙句、思いついたのはシンプルな返信だった。


「今日は楽しみにしてたケーキ食べに行ったんだよ。」

「それで、テンション上がってた。」


 この言い訳は、また乗り移られた時には使えない。けれど、妥協案としては十分だろう。

 凪からは、そうか、テンション上がんのもほどほどにしとけよ、と返された。


「どんだけテンション高いんだよ……?」


 俺は幽霊の性格に、首を傾げた。


雪は思春期で母親が嫌いなわけじゃないです!

次は他人から見た、乗っ取られた雪を書くつもりです。

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