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同盟④

「やーやー皆様、お待たせ致した。これより我等さすらいの芸人旅団『陽炎座(かげろうざ)』、此度の同盟を祝し催しをもって祝いとうござる」

「か……陽炎座?」


 笛を片手に挨拶を始める左月に、皆酒を飲む手を止め、口を閉じた。


「遡れば我等が次期当主・伊達政宗様の野望から始まりもうした。齢はまだ十八なれど、その眼は既に天下を睨んでおられる。此度の大友と島津による九州同盟は天下を制す石垣となりましょうぞ」


 石垣、つまりはまだ城造りの基礎の基礎と言ったところ。それは天下を頂くための序章に過ぎない。


「また両家が和解致した事も喜ばしい。元々は良好な関係だった間柄。犠牲を多く払いましたが、また両家が手を取り合える。これは九州全土で生きる国衆がもっとも望んでいた事でしょう。それも遡れば――」

「爺、挨拶が長い……。さっさと始めたいんだけど」


 おっと失礼、と左月は前置きの挨拶を中断する。


「それでは皆様、酒を手にどうぞ楽しんでくだされ。陽炎座の頭領・愛姫様による演舞の刻に御座います」


 左月の挨拶が終わると、同じく専用の装束に着替え直した喜多とずんが各々違う楽器を持ち入室する。

 いつもとは違う色っぽい衣装。特にふたりは胸が豊満なため男達の視線を釘付けにした。


 続いて入室したのは左月のお付きの男と豚丸を筆頭とした愛姫隊の数名。

 お付きは大きな和太鼓を、豚丸達は正方形の台座を部屋の中央へ運び込んだ。


 皆が台座を囲むように配置に付く。

 そこで台座に立つ主役を待ち望むように。


「ジャーン!」


 おお、と皆が驚きの声を上げる。


「ス、スゲー……、あれが愛……? 綺麗……」

「――!」


 誾千代と文子も驚きの余り声を失っている。それもそのはずだ。

 赤を基調とした専用の装束に、バッチリメイクも施し、普段付けないアクセサリーが幼さを消し、普段とは違う大人っぽさを演出している。


 特に皆が注目しているのは私の髪型だろう。

 普段はツインテールで過ごしている私だが、ここだけは髪を下ろし、蓮のかんざしを使い後ろでまとめあげた。


 髪型とは人を判断する大事な要素である。

 三つ編みおさげなら真面目に見られ、金髪ならギャルに見られるように、髪型はその人の象徴なのだ。


 私のツインテールはこの時代でやっている人間はいない。

 そのため、どちらかと言えば変わり者、悪く言えばうつけ者とも聞いた。


 それが突然気品ある恰好をしたらどうだろう。

 夏休みが終わり新学期を迎えたものの、三つ編みおさげちゃんは金髪ギャルになり、金髪ギャルは黒髪清楚系女子になってしまった。それ位の衝撃を皆に植え付けられた、と私は思う。


「お、驚きました。奥州の方(あちら)では目立つ装飾を身に纏う者を『伊達者』と呼ぶらしいですね。貴女はその部類でしたか」

「フフ―ン、まぁ呼び名はどうでもいいけど驚くにはちと早いかなぁ。私はファッションショーをしに来たんじゃないからね」


「……え?」


 バサッと扇子を開く音が合図となる。

 太鼓、笛、三味線などの様々な楽器が会場の空気を痺れさせ、その圧倒的なパフォーマンスの流れへ乗るように、私は扇子片手に舞と同時に口を動かした。


 ――

 突然見えたまやかしのカゲロウ

 雨降りしあと霧に包まれて

 

 光が差した

 幻想の美しさと

 

 現実の産む部屋の景色

 どちらも同じ 心であふれ出す


 巡りゆく 時と季節

 桜の咲く頃出会えたら

 

 明日にはすべてが変わり始める

 そして新しい景色 

 

 心で感じられたら ほら

 言葉は華となってひらひら舞う

 

 この時代(とき)

 

 風に吹かれて

 ほどける髪にふれて

 

 その先に何か伝えようとする

 存在を感じる


 辺りに満ちたセミの声

 現実を隠していそうで

 

 なりみつ季節 

 騒がしくすみのぼる

 

 ひまわりの 花のように

 変わらない表情で会えたら

 

 きっといつでも幸せでいられる

 

 そして新しい景色 

 心で感じられたら ほら

 

 言葉は華となってひらひら咲く

 この時代(とき)


 落ち葉の舞う

 季節に抱かれた意味

 

 生まれ変わるすべてを

 知ることで感じられる

 

 きっと未来をずっと

 

 幻想の美しさは

 現実になるよ信じれば

 

 産まれた事も 愛し合う事も


 巡りゆく 時と季節

 桜の咲くまで信じれば

 

 明日には奇跡が起こり始める

 そして新しい景色 

 

 心で感じられたら ほら

 言葉は華となってひらひら降る

 

 この時代(とき)

(パチスロ政宗より sakura)

 ――


 夢中で歌った。皆には聞き慣れない歌だっただろう。

 それもそのはずで、この曲は私が前世で好きだった歌のひとつであり、この同盟を祝うに相応しいと思ったからこの歌を選んだ。


 曲を盛り立てるエレキギターや電子ピアノの音は聞こえないけれど、この時代にある楽器で私の仲間は原曲に負けないほどの音源を再現してくれた。それが何より私に勇気をくれる。

 そして曲に込められているように、春になればまた新しい時代が訪れる。それはいつの時代も変わらない。


 それが皆に伝わっていると良いな。

 と、思いながら私はゆっくりと瞼を開けた。


 パチパチパチ……。

 皆が目を丸くし驚いている中、ひとりだけ我先に黒田文子は私に拍手を送った。


 目にクマを作った、本にしか興味がなさそうな文子だが、真っ先に拍手を送ったのは彼女だった。

 そして同時に、今まで見せた事のないささやかな笑顔も覗かせていた。


 文子の拍手に釣られ誾千代も、義久の入っている輿も左右にガタガタと震えだす。

 気付いた時には、会場は拍手喝采で包まれていた。


 ――――――――――


 その後は大変だった。

 旅芸人と偽るために色々と踊りや歌は仕込んでいたものの、ここまで反響が大きくなるとは思っていなかったのもあり、私は身体と喉が限界に達するまで皆を楽しませる事となってしまった。


 中でも予想外の反応を見せたのが文子と義久だ。

 歌なんて興味無さそうに見えるが、頭に曲を記憶するように、真剣に……でもちょっとだけ微笑みながら私の詩を文子は聞いていた。


 義久の方は姿こそ見えないものの、輿から腕だけを出し、両手に扇子を持ちながら左右に揺れていた。あれは気に入ってくれた……と捉えて大丈夫だろう。


 歌が終わると文子は「貴女も()()()()の人間でしたか」と言い残し、時間がないので帰ると言い、お付きを連れてそそくさと帰ってしまった。

 結局、謎の多い女であった事は変わらない。


 そして、同盟を成立させてから三日後の朝。

 私達は吉報を土産に米沢へ帰る事とした。


 ――――――――――


「……本当に帰っちゃうのかい? ねぇ、もうちょっとだけここを堪能していきなよ。まだまだ愛に見せたいものがいっぱいあるんだ」

「こら、誾千代。貴女がそんな事を言ったら愛姫殿が帰りにくいでしょう。子供じゃあるまいし駄々をこねてはいけませんよ」


 名残惜しそうにする誾千代の気持ちを理解しつつも、夫である立花宗茂が止めた。

 子供扱いされたからなのか、それとも宗茂が引き留めに参加しなかった事が不満なのか、誾千代は「わかってるよ!」と顔を膨らませた。


「なーに拗ねてんのよ、今生の別れじゃあるまいし」

「だってアタイ等こんなに仲良くなったのにここでお別れなんて……、そんなの寂しすぎるじゃないか。アタイはもっと愛達と思い出を作りたいよ」


「私達ものんびりしたいんだけどね。……だけど、お互いそうも言ってられない状況でしょ?」

「……それもそうだね。あーあ、アタイが男だったら無理矢理にでも愛を抱いて自分のモノにしたのに。つくづく女である事を呪いたいよ」


 投げやりになったついでで変な事を言うな。

 皆は笑っているが、車いすに乗った道雪だけは苦笑いである。


「今更ながら本当にやり遂げてしまうとは……。愛姫殿、我らの力が必要になった時はまず立花家を頼られよ。約束通り拙者が先陣を切りましょうぞ」

「期待してるわ。アンタは本多忠勝(ただかつ)と並ぶ戦国最強の武将だんだからね」


「ハハハ、戦国最強とは恐れ多いことに。ですが、期待に応えられるよう励みまする」


 相変わらず謙虚な漢だ。

 誾千代以外になら絶対モテるだろうに。勿体ないというか何というか……。


「そうだ、誾千代。アンタは私の前にお父さんと思い出を沢山作りな。そっちが最優先」

「……? 父上と?」


 やはり誾千代は道雪が病気である事を知らない。

 道雪からは病気である事黙っているように言われているため私が出来るのはここまでだが、早かれ遅かれ知る事になる日は近い。


 道雪は小声ながら「余計な事を……」と笑いながら呟いた。


「じゃ気が変わらない内に帰るわ。次は天下分け目の戦場で会いましょう!」

「うむ! 世話になったなラブリーよ、其方に神の加護があらん事を」


「バーカ、私じゃなくて国を守るために祈りなさいな! じゃーねー!」


 私達は九州を離れた。

 後に聞いた話では、私達が去った後に宗麟の持っていた祈りの十字架が折れてしまったらしい。


 私は神なんて信じない。

 信じないが、私は……あの時だけは神にすがる事しか出来なかった。

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