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同盟③

 客間はあっという間に宴会場と姿を変えた。

 とはいえ、ここは一応戦場である。豪華な食事や綺麗な女子など用意出来るわけがなく、この場を盛り上げるのは酒だけとなっている。


 それでもこの会場に先程までの緊張感はない。

 宴会リーダーである義弘を筆頭に、大友と島津の兵士達は大いに盛り上がり、今回の九州同盟を祝していた。


「何で私がこんな場に……」


 文句を漏らすのは両軍に属していないひとりの少女、黒田文子だ。

 チョコンと正座し、酒をちびちびと啜る姿からは外見の大人らしさを取り払う幼さを感じさせる。


「まぁそうぼやくでない文子殿。このまま帰しても失礼であろうて、せめて楽しんでいってくだされ」

「ええ、失礼ですね。ですから、私はさっさと父さんに『大友は敵となった』と報告したいのですが」


「文子殿、それを言われると儂は返す言葉が無いんじゃが……」


 ふん、と不機嫌な態度を取り、再度文子は酒を口にする。


「嫌なら帰ればいいじゃん」


 不機嫌な文子が気になったのか、隣に座っている歳久が口を開いた。


「帰っていいなら帰りたいですよ。しかし、折れてしまったのは私ですからね。その責だけは全うしますよ」


 文子が四国に帰ろうとしたのだが、私によってそれを遮られた。

 それでも無理に帰ろうとする文子。そのため、私は文子にひとつだけお願いをしたのだ。


「……それで肝心の彼女はどこに行ったのですか? 私達にどうしても見て欲しい芸があるとか言ってましたが」

「俺様が知るかよ。だが、どちらにせよ大した芸なんて持ち合わせてねーだろ。結局、旅芸人ってのは仮の姿だったわけだからな。出来たとしても能の真似事か犬の鳴き真似ぐらいじゃんよ、カカッ」


 すると、歳久の左頬に右ストレートが飛んできた。


「ガッ⁉」

「どさくさに紛れて愛の悪口を言ってるんじゃないよ、この負け犬」


 拳を放ったのは誾千代だった。

 歳久の隣に座っている誾千代の席には大量の酒瓶が転がっている。彼女は義弘に引けを取らないほどの酒豪だった。


「痛てーな、このクソ女ッ!」

「クソ女で結構コケコッコー。負け犬のアンタよりはマシだから何を言われても怒らないよ」


 大きな酒瓶を二本持った誾千代は立ち上がると、文子の前にドカッと腰を下ろした。


「ホラホラ、黒田殿ももっと飲んでくださいよ。九州の酒は美味でしょう?」

「え、ええ。ですが、私はお酒がそこまで得意ではないので……」


「なーに言ってるんですか。あの天才軍師・黒田官兵衛殿の血を引いているんでしょ? ガバッといっちゃってくださいよ、ガバッと!」

「は、はぁ。ですが、父の血は関係ないかと…………ハッ⁉」


 文子に酒を注ぐと、誾千代はもう片方を酒瓶を口に付けラッパ飲みを始めた。この光景に文子は絶句せざるを得ない。

 立花山城の元城主の技量の持ち主でもあり、立花道雪の娘であり、立花宗茂の正妻という位の高い人間である。


 だが、それ以前に誾千代は女性である。

 歳がほとんど変わらない、他から見たらまだまだ若すぎるふたりなのだが、誾千代だけは別な意味で貫録があった。


「た……立花殿、そんな下品な……」

「下品? 何言ってるんだい、これが立花流の飲み方だよ。父上はいつもこんな感じさ」


「立花殿の父上……。ああ、立花道雪殿でしたか。お会いした事はありませんが、雷神の異名を持つ奇人だと聞いています。通りで飲み方が豪快なわけです、これは書き留めておかないと……」


 文子はそう呟くと、書物と筆を取り出しサラサラと何かを書き始めた。


「……何書いてるんだい?」

「あっ……すみません、ついつい癖で」


「癖?」

「ええ、私知らない事があると気になる性分でして……。自分でも面倒くさい性格って分かっているのですが、中々直せなくて。それで忘れないようにいつも筆と紙は持ち合わせているんです」


「はーん。アタイにはよく分からない性分だねぇ」


 誾千代の特徴を書き留め終えたのか、文子は書物と筆を床に置いた。


「ついでにひとつ聞いても大丈夫ですか?」

「ん、何だい?」


「貴女、妙に彼女の肩を持ちますが、付き合いが長いのですか?」

「彼女? ああ、愛の事か。もしかして気になるかい? 気になるんだったら身長から胸の大きさ、何だったら腰下の特徴まで何だって話してあげるよ!」


「よし知ってらっしゃるようで……」

 

 女同士といえど、文子は若干引き気味に顔を引きつる。

 酒を飲むのをやめ、誾千代は真剣に問いに答え始めた。


「……なるほど。彼女との出会いは茶屋だったんですね」

「ああ、あの時の愛はカッコよかったよ。アタイに迫る悪党共を蹴り倒して、最後は豚面のケツに……こう団子を捻じ込んだのさ。その時からアタイは既に惚れちゃったのかもね」


「漢気に……ですか」

「それもあったね。こんな性格だから愛の荒々しさには同族のような親近感がわいたのかも」


「それも? 他にも何かあるのですか?」

「それはね……ああ、始まるよ。それはアタイが説明するより見た方が早いからね」


 賑わいで溢れていた部屋がざわつき始める。皆の視線を一斉に集めたのは、普段とは違う装束を身に纏った左月だった。

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