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同盟②

 首を傾げ、頭の上に大量のハテナを浮かべる。

 ちなみにナゾナゾでもなんでもないのだが、文子は変に頭を働かせているようだ。


「……それ答えになっているんです?」

「なってるって! 私は攻めることしかしない。後退なんてありえない、あるのは前進だけ」


「それってつまりバ……いや、始めからそう言ってください。余計な事に頭を使ってしまいました」


 コイツ今バカって言おうとしたな。


「それで……そんな暴れ馬さんは後退せずにどうするんです。まさか本当に同盟を取りつけ、我々と敵対するなんて言いませんよね? 織田と友好の間柄だった伊達が羽柴に背を向けるなど」

「…………」


「……え、貴女まさか……」

「私の目的は最初から変わらない。九州国と同盟を結び、そんでもって秀吉に勝つ! それが私の進むサクセスストーリーよ!」


 ほぼ無表情だった文子の顔が驚きに変わる。

 それと同時に後ろからは奇声が飛んだ。


「ぴ、ぴぇぇぇ――――‼」

「ひ、姫様それをここで言っては――!」


 奇声の正体は喜多。まさか羽柴の使者がいる前で計画を話すとは思っていなかったらしく、驚きを通り越して奇声を上げていた。

 左月も同じ考えなのだろう。だけど、既にこの子には同盟の件はバレている。それなら堂々と宣言しても問題ないだろう。むしろそっちが正解までもある。


「奥州すら束ねられない弱小国が織田の領地をほぼ吸収した羽柴に盾突くなんて。面倒を通り越して、これでは愚かとしか言いようがないです」


 ガッカリした、彼女の台詞を一言でまとめるとそんな感じだった。

 そんな感じだったのだが、何故か文子は笑みを私に見せた。


「ですが、本当に面白い人ですね。無謀な計画なはずなのにどこか期待してしまいそうな、そんな眼をしています。フフ、あの方の申していた通り」

「ん、あの方?」


「いえ、独り言です。お気になさらず」

「あっそ。……ところで私は自分の覚悟を示した。アンタはどうなの、義久」


 しばらくし、義久の入っている輿から一枚の紙が家久に渡された。

 それを見た家久がクスリと笑う。


「フフッ、もう少しまともな返しはなかったのですか、義久兄様」

「義久はなんて?」


 家久は文字の書かれている部分を私に広げた。

 そこには一言、合格と書かれていた。


「……合格?」

「はい。つまりはこういう事です」


 家久は一枚の紙を私に渡した。

 それは九州同盟を誓う大友と交わした起請文。そこには島津家当主・島津義久の名前が記されていた。


「――これ、って事は⁉」

「ええ。我等島津は両家と和睦し、豊後の大友、奥州の伊達と同盟を締結します。これからよろしくお願いしますよ、愛姫殿」


 ついに、目標だった九州同盟の達成。

 私にしたら短かったけど、刻に換算したら長かったような。とりあえず肩の荷が下りた。


「ちょっと待った」


 良い空気を一刀両断し、歳久が異を唱える。


「勝手に話を進めんじゃねぇ。俺は今まで義久兄の決め事に文句を言ってこなかったが、今回ばかりは納得いかねぇ。九州をまとめるって意味で大友とは分かる。だが、伊達は必要ねえだろ。そこんとこしっかり話せや」

「…………」


 異を唱える歳久に答えるように、輿から一枚の紙が歳久へ渡された。


「はぁ? こんな事のために……」


 何が書かれていたのかは分からない。

 だが、その内容は歳久の表情を見るに素直に納得出来るような内容ではなかったようだ。


 紙を折り畳み、胸元に仕舞い込む歳久。

 ため息をつくと立ち上がり、ひとり部屋から立ち去ろうとする。


「歳久、どこへ行くんじゃ?」

「くだらねぇ。気分わりぃから外の空気でも吸ってくるじゃん」


 義弘の呼びかけにそう答えると、歳久は部屋から出て行ってしまった。


「さて、私も帰るとしますかね」


 歳久に続き、文子も退出するため腰を上げた。


「残念、結局無駄足だったわね」

「結果だけ見たらそうですね。ですが、私の使者としての任務は既に達成してますので」


「ん?」

「父から与えられた任務は大友と島津の停戦させる事です。形はどうであれこれで戦は止まりましたからね」


 確かに戦は止まった。

 だが、結果として大友と島津は羽柴に弓を引く形となってしまったため、それについては彼女は(とが)められそうだ。


「……なんでそんな顔をするんです?」

「え?」


 不思議そうな顔で、文子は私にそう質問した。


「この同盟は貴女が勝ち取った。貴女の強い意志が、貴女の野望が、島津と大友というふたつの強国の心を掴んだのです。なのに、何故貴女は私にそんな顔をするのですか?」


 思わず自分の頬に触ってしまう。そんなに変な顔をしてしまっていたのだろうか。

 私はただ、齢の大して変わらないこの子がこのまま帰ったとして、何もありませんでしたで終わるのかと考えてしまったのだ。


 さっきも思った事だが、結果彼女は敵を増やしてしまった事に変わりない。

 それについて彼女がどう咎められるのか。私のいた時代で例えるなら、仕事上のお得意様を怒らせてしまい契約を打ち切られた……そんな感じ。命までは取られないだろうが、大幅な減俸や降格は避けられないかもしれない。


 だけど、この戦国時代を考えると……。敵とはいえ嫌な予感を感じざるえないのだ。


「憐れむなら結構です。さっきも言いましたが、私は父の言いつけ通りにしたまで。それがどういう結果になろうと私の知ったこっちゃないです」

「い……いや、そうかもだけどさぁ……」


「憐れまないでください。同情しないでください。見くびらないでください。私は貴女方の敵なんですよ。そんな感情なんてこの世に不要、持っているだけ面倒じゃないですか」

「め、面倒?」


「ええ、面倒です。貴女はいちいち戦中に相手の事を考えますか? 想いますか? 憂いますか? ……しませんよね。だって貴女は生きている。戦場に出てここにいる事が何よりの証明。貴女自身がそれを語っているではありませんか」


 そんな感情を持った時点で死んでいる。生きてはいけない。

 これまで培った知識や経験がそれを物語っている。

 

 文子はそう言いたいのだろう。


「……それでは」


 文子は再び振り返る。

 ここでの任務が終わり、これから彼女の本当の戦場である四国へ戻るために。


「……! ……貴女もしつこいですね。いったい何ですか?」


 気付いたら文子の手を掴んでいた。

 このまま素直に帰してはいけない。私の本能がそう言っているような気がする。


「……まだだ。まだ足りない」

「はぁ? よく聞こえませんよ」


 私が文子に示したのは大友と島津は敵であり、そして伊達も敵だという事だけ。

 それだけでは不十分で、それだけじゃせっかく九州まで来た羽柴の使者様に失礼ってもんだ。


 伊達にはとんでもない姫様がいるって。大きなお土産を渡すのだ。


「まだ帰んなよ。本番はこれからなんだから」

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