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影の天才軍師⑤

「だから何だ? オメー等にとっては救世主でも、俺達からしたら余計な事をした邪魔者だ。何でそんな奴と同盟を組まないといけないじゃんよ」

「アタイだって島津と組むなんて嫌さ。……だけどね、ここでアタイ等が結束しないと九州を守り切れない。そっちのほうがアタイはもっと嫌だ……」


「……そんなん俺達島津だけで十分だろ」


 それでも島津こそが最強だと語る歳久。しかし、言葉には少しだけ不安が混じる。歳久も羽柴の強さは分かっているのだ。


「それは無理でしょうな」


 誾千代の言葉に乗っかる形で、牛幻はハッキリそうと答えた。


「あん?」

「仮に同盟を結ばないとしましょう。筑前、豊前から毛利の進軍を防いだとしても四国の長曾我部水軍はどうするおつもりで?」


「そんなもん――」

「毛利水軍や村上水軍もどうするおつもりなのです? 当家が島津と敵対している限り、全ての水軍が当家を窓口に九州へなだれ込んで来るでしょう」


 陸地から水軍に攻撃を仕掛け、上陸を阻止する分にはまだ良い。

 だが、大友に次から次へと羽柴の援軍が入る事は、大友の戦力を何倍……何十倍にも膨らませる事になる。


 陸地に上がったたら最後、後は消耗戦。どっちが音を上げるかの耐久勝負。

 その結果どちらが負けるかなど歳久も分かっているはずなのだ。


 だけど、認めたくない。認められない。

 それが九州で生まれて育った漢のプライドであり、九州覇者島津家の誇りでもあるからだ。


「――くっ……」

「聡明な歳久殿ならご理解いただけますでしょうや」


「……ああ、オメーの言いたい事はよく分かった。確かにいくつもの策を頭の中で模擬ってみたが、四国と中国を押さえた羽柴に勝てるもんはねぇ。だがな、俺達の大将は義久兄だ。義久兄が軍配を握れば攻め込むし、両手を上げれば降参する。たとえそれが無謀な戦いであってもだ。だから……俺は全て義久兄の判断に任せるじゃん」


 決して諭したわけでもなく、諭されたわけでもない。

 だからこそ歳久は全ての決定権を長男である義久に委ねる。姿こそは見えないが、この世で一番慕っている義久に。


「何を言っておる! 兄者が降参なんてするわけがなかろう!」

「例えだよ、た・と・え! そんな事も流れでわかんねーのかよ、この戦闘猿。少しはその小さな脳みそを使いやがれ!」


「ムキー! さっきから逆撫でするような事ばかり言いおって……。おいはおこったぞ――‼歳久――ッ‼」


 喧嘩再開である。

 もうそんな歳でもないだろうに、と思う私と同様、家久も頭を悩ませる。


 そんな中、義久の輿の中から再び紙が姿を現した。


「――⁉ 兄さん、これって……」


 呆れた顔から真剣な顔に。

 それだけその紙には家久をそうさせる内容が書かれているのだろう。同時に輿に映る義久の影も頷いているように見える。


 家久は家臣を呼び事を伝えると、家臣はその場から離れどこかに行ってしまった。


「義久は何て?」

「……試したいそうです。愛姫様の覚悟が本物かどうか……」


 言ってる意味がわからない。義久は何を試そうとしているのだろうか。

 力か?


 それとも統率力か?

 などと、考える暇など与えられなかった。


 先程去った島津の家臣が再び姿を現す。

 同時に黒髪の少女を連れて。

 

 長い黒髪に、眠たそうな瞳とそれの象徴させる黒いクマ。

 身長は普通、私よりは大きいといったところだ。


 服装はこれといって派手ではない。どちらかといえば目立たない色使いなため、パッと見てこの女の子が姫とかの高位な存在ではない事は容易にわかった。

 肌の露出もほとんど皆無と言っていい。日焼けが嫌なのか、そもそも外に出たがらないタイプなのか、黒髪がその透き通った真っ白な肌を更に強調させているようにも見える。


 一言で言えば地味……なのだが、どこか近寄りがたい。そんなオーラを放っているようにも感じる。

 自分の殻に閉じこもり、領域は絶対に侵させないタイプ。それが私の第一印象だった。

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