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第二次耳川合戦 後編⑤

「ゲホッゲホッ、あ……あ……」


 意識が……飛んでいた。

 全身を巡る強烈な痛みと口に広がる鉄味の唾液に飛んでいた意識を無理矢理引き戻される。


 トラックに轢かれた事なんて勿論ないけれど、車に轢かれて助かってる人ってこんな感じに苦しいのかと思えるほどだった。

 動かない身体。

 

 ぼやける視界。

 そして、この時代に来て覚えた二度目の敗北感だ。


「……つ……つよっ……」


 今まで味わった事のない敗北感。

 これから首を刎ねられようとも。


 その前に見せしめとして磔にされ、串刺しにされようとも。

 そもそも女であることから犯されようとも。


 そのすべてを受け入れてしまっても仕方がないと思えるほどの敗北感だ。


「フフ、さ……さすがに……刻の有名人には……勝てない……か……」


 私がどれだけぬくぬくとした時代の中で生きていて、どれだけ調子に乗っていたのかがよく分かった。

 ……いや、解らされた。戦闘民族である島津家の……鬼島津の力を存分に解らされた。


 だけどそれなのに……。

 私の意地汚い性格だからなのかな。


 私はまだ勝利に噛り付こうとしている。


 立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て立て!

 足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け足掻け!


「うっさい……。聞こえてるってーの……」


 意地汚い言い訳がまだ許されるなら私はここで言いたい。

 今まで味わったのは敗北感であって、敗北ではない。


 本当の意味で敗北を味わらせたいなら……。


「胴体とこの脚……、切り離してからにしてもらおうじゃない……」


 ほとんど力が入らない両腕をクッションにして、頭の力だけで上体を起こす。

 そんな諦めの悪い気持ちに鼓舞されたからなのか、私の脚は震えながらも身体を支えた。


「――な、何ぃ⁉」

「め、愛っ⁉ 生きてたんだね!」


 足元にはバラバラになった鉄球の鎖と粉々に崩れた木片が散乱している。

 これだけの衝撃を食らいながらも吐血程度で済んだのは、左月がくれたこの特殊な装束のおかげだろう。


「勝手に……人を殺すな……」

「ば……馬鹿なっ⁉ おいのアレを食らって立ち上がった……。それも甲冑を付けてないおなごが……」


 喧嘩をするようになってからだっけ。

 拳法家の先生が足技を凄い褒めてくれて……、それからはずーっと脚を使った技の練習をして。


 いつの間にか十八番が回し蹴りになってて、気づいたら高校のてっぺん取ってて。

 落ち込んで……どうしたら良いのかわからなかった時でも、この脚だけは唯一私の進むべき道へ導いてくれた。


 今は時代も身体も違うけど、魂だけはあの時のまま。

 その魂がまだ戦いたいって言っているなら、私も諦めるわけにはいかないじゃん。


 死ぬときはこの相棒()と一緒に死んでやんよ!


「ウガァァァ――‼」

「――あっ、テメー⁉ 相手はアタイだろ、そっち行くな!」


 仕留め損なった獲物目掛け猪突猛進、再び義弘は鋼鉄のショルダータックルを仕掛ける気だ。

 馬鹿のひとつ覚えみたいに。だけど、次あの攻撃を食らったら間違いなく……死ぬ。


 それにこのガタガタな脚じゃ後何回も攻撃を避けられない。絶体絶命ってやつだけど……。


「……これ、返しとくわっ!」


 足元に転がっていたのは鎖から解放された鉄球。

 サッカーとかやった事ないし、めちゃくちゃ痛いんだろうけど、アイツを触れずに止めるにはこれしかない。


「そらっ! これが未来の蹴鞠じゃぁぁ――!」


 鉄球をサッカーボールのように突進する義弘に蹴り込む。

 唸りを上げ、真っすぐ弾丸のように弾け飛ぶ鉄球を確認出来たのか、義弘は脚を止め受け止める態勢をとる。


 さながらフィールドにいるゴールキーパーのようだ。


「どっ――しゃぁぁ――‼」


 両手で回転した鉄球を受け止める義弘。

 ズズズ……と後ろに押されるも徐々に鉄球の回転が無くなり、その場で見事ゴールを防いでみせた。


「間合い外からの攻撃では何人たりともこの身体を貫く事は出来ぬ――。そう、おいこそが島津の巨大な門将(S・G・G・K)・島津義弘」


 ニヤリ。

 と、鉄球を止めた事に酔っているのか、義弘は決め台詞を吐いた。


 もう勝った気でいる。試合終了のホイッスルが鳴ると思っているようだ。

 だけど……、サッカーの基本的なルールを知らない義弘からしたらボールは一個とは限らない。


 そう……鉄球は二度刺す。


「ぐはぁぁぁぁ――!」


 私の放ったふたつ目の鉄球はうねりを上げ、義弘の持つひとつ目の鉄球に接触し、砕き、巨体にめり込む。

 どんなに斬っても、蹴っても、ビクともしなかった義弘の鋼鉄の鎧は、自らの武器によって大きな陥没を作ったのだ。


「誾千代――!」


 隙は作った。最初で最後の隙。

 後は誾千代……アンタに任せた。


「よっしゃー!」


 誾千代は素早く回り込み必殺の間合いに入る。

 その後ろ姿は彼女と一緒に道雪の影が重なっているようにも見えた。


「うおおぉぉ――!」


 目にも留まらぬ一閃が義弘を縦に切り裂く同時に蒼い雷がそれを追うように駆け巡る。


「ぬわあぁぁぁ――‼」


 痛々しい声を上げながら、巨体の島津義弘が背中から地面に倒れ込んだ。

 自慢の鋼鉄の鎧には縦に真っ黒な切り裂いた跡と焦げくさい臭いが煙を上げながら残っている。

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