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第二次耳川合戦 後編②

「あぐっ――!」

「ギャハハ、随分と大胆にすっ転んだな! 足元も気を付けろよバーカ!」


 クッソ、自分で足払いしたくせに!


「そう睨むなよ。 ホラホラ、俺はここだぜ。しっかり狙いな!」


 殴っても、金属バットを振り回しても歳久には当たらない。

 いや、正確には一定距離に近づくと歳久に離されてしまうのだ。


 まるで蜃気楼を見ているような。

 最初と同様、私は歳久の幻影ばかりに攻撃をしているような気がする。


「もう終わりか? それなら次は俺の番じゃん!」


 歳久は再び演奏を変える。

 ……来る。歳久の口三味線が。


「こっち……。いや、やっぱりこっちじゃん」


 右から聞こえたと思ったら、今度は左から。

 もうどっちが正解なんてわからない。私はなりふり構わず左に向かって金属バットを振り下ろした。


「――がぁぁ!」

「ハズレじゃん」


 思いっきり後ろから蹴り飛ばされた。

 流石に何回も地面へ飛び込むと身体中が痛い。傷だらけだし、跡が残っちゃいそう。


「ギャハハ、ホラァまだやれんだろ? 立てよ! そんなんじゃ人っ子ひとり守れねーぞ!」

「うっさい! ちょっと優勢だからって調子乗んな!」


 怒りに任せブンブンと金属バットを振り回すがやっぱり当たらない。

 クッソォ……。何で当たらないの。


「もう、ふざけんなー!」


 全然攻撃が当たらない事と、一方的にボコボコにやれてる事。更に、歳久の口の悪さも相まってしまい、怒りに任せて私は歳久に金属バットを投げてしまう。


「あっ……」

「はっ⁉︎」


 避けられた。

 私の目には当たって見えたが、歳久はその後に身体を横に傾けた。


「あ、危ねー……。まさか鉄棍棒投げてくるとは思わなかったじゃんよ」

「ん?」


 そんなに意外だったのか。

 まぁ確かに折角の武器を投げるなんて勝負を棄てるようなもんか。


 ……あれ?

 でも、何で今歳久は横に避けたのだろう。


 今までは多少動く事はあっても横に避けるなんてしなかったのに。


「そろそろ時間だし、お遊びは終わりにするじゃん。次は動けなくなってもらうぜ!」


 ベベン、と弦を弾き演奏を切り替える歳久。

 耳障りな演奏。歳久の口三味線の合図だ。


 ……ちょっと待った。そもそも何故歳久は毎回演奏を切り替えているのだろう。

 いや、それ以前に何で演奏をしながら戦っている。むしろそこに疑問を抱くべきだった。


 音。口三味線。勝つためなら何でもやる性格。

 もしかして……。


「何ボーッとしてる! オラァー後ろがガラ空きじゃん!」


 後ろ。確かに後ろから歳久の声が聞こえる。

 刀を抜き、私を斬ろうと向かって来る音が聞こえる。


 だけど、これは――。


「だああぁぁ――!」


 私は後ろに振り向りむかず、気合で真っすぐ走り勢いよく回避するように飛び込だ。


「――っな!」


 歳久の刀は空を切った。

 私の視界では右側、その場にジッとしていれば左側からの攻撃である。後ろではない。


「か……躱しやがった。お、俺の口三味線を⁉」


 納得がいかなかったのか、歳久は再び三味線を鳴らした。


「ありえねぇ……。俺の口三味線は二度も破られねーじゃん!」


 右から歳久の声と動く音が聞こえる。

 だけど、これも――。


「――っ!」


 私は当然右を向く……わけではなく、目の前にいる歳久の下へ突っ込む。

 私の行動に驚いた歳久は演奏をやめ、距離を詰められたくないのか後ろに下がってしまった。


「テ……テメー……」

「やっぱり……。島津の口三味線破れたり、ってね」


 妖術や魔法でも、ましてや歳久の特別な力でもない。

 私の攻撃が当たらない原因は自分にあるのだ。


「……これか」


 よく見ないと分からない程の小さい針が太ももに刺さっている。

 ホクロ程度の大きさ、且つ紫色に腫れている事から針には毒が塗ってあったのだろう。


 これが口三味線の正体だ。


「何の毒か知らないけど、恐らく耳の機能をおかしくて平衡感覚を鈍らせる毒。そんで、アンタが奏でる三味線の音によってその効果はまちまち。今回で言えば、ひとつは声の認識する方向をデタラメに。もうひとつは視覚にも働きかけて距離感を鈍らせた。……違う?」


 ほとんどの神経は脳に通じている。

 それ即ち神経とはほとんどが一本に繋がっていると同じ事。


 歳久の演奏と私の身体に回った毒が聴覚を通じ視覚にも異常をきたした。

 まとめるとそういう事だろう。


「……ああ、正解じゃん。雑魚にも命を賭ける馬鹿女かと思ったが、これはこれは……。人ってば案外わからないもんじゃん」

「舐めんな。私はこう見えても元中学全国模試トップテンの常連。こんなの知識持って当然だっつーの」


「ハハッ、そうかよ。だがな、カラクリが分かったからってお前の攻撃は俺には当たらねぇ。俺を倒さねぇ限り勝った事にはなんねーぞ!」


 歳久は演奏の速度を上げる。

 これは毒に侵された者の視覚を狂わせる音。鉄壁の防御音だ。


「オラァ来てみやがれ! テメーの攻撃なんざ俺には当たらねーよ!」

「ええ、行ってやるわ」


 歳久の挑発に私は乗る。

 今度こそ、その調子こいた顔を悲痛に変えるために。


「ハハハ! 刀や槍、鉄棍棒だろうが手に持ってる限りこの音は遮断出来ねーぞ!」


 確かにこんな戦場じゃ音を完全に遮断するような耳栓や似た道具なんて簡単には用意できない。

 それに耳を塞ごうにも両手を使ってしまっては攻撃手段が無い。


 だけど、私には……ある。


「オ……オゴォ……」


 私の脚が、蹴りが歳久の腹をとられた。

 予想もしていなかった衝撃に顔は真っ青になり、額からは脂汗が流れ始めた。


「け……蹴り技……? て……テメー……体術使い……か」


 腹部を押さえながら苦しそうな顔で私を見る。

 その眼にはきっと両手で両耳を塞いだ女の子が映っているだろう。


「ネタさえ分かればイージー問題、次の一撃でアンタは終いよ。フフッそーねー、私をいたぶってくれたお礼として特別に新必殺技でトドメを刺してあげる」

「ふ……ふざけろ……。たかが一撃入れただけで……もう勝った気かよ……」


「ふざけてなんかないわ。アンタの身体には既に毒が回ってる。嘘だと思ったら試してみたら?」

「それをふざけてるって言ってんだよ!」


 歳久は距離を取るために後ろへ下がった。

 だがその時、ガクッと歳久の膝が崩れた。


「あ……脚が⁉」


 プルプルと震える歳久の脚にはまださっきのダメージが残っている。

 それを無理矢理動かしたのだ。耐えられなくて当然。


 私は歳久の膝を踏み台にして、勢いよく膝蹴りを顔面に入れる。


「オラァァ――! これが私の無双奥義『閃光魔術シャイニング・ウィザード』じゃー!」

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