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合戦前軍議 その一 大友編②

 牛幻はそう言うと、持ってきた絵図を広げた。


挿絵(By みてみん)


「島津と龍造寺の決戦当日、まずは日向北・縣の松尾城を同時に攻めていただきます。城主は島津義久配下の土持親成の養子・高信(たかのぶ)。調べでは養子とあってか高信は周りとの関係が上手くいっていない様子。兵も縣港の水軍合わせて千もおりません。宗麟様のご嫡子・義統(よしむね)隊、田原親賢(ちかかた)隊、朽網(くたみ)鑑康(あきやす)隊の合計五千で取り囲んでしまえば自然と開城となりましょう。ですが、刻はあまり掛けられません。一、二日経っても開城しない場合は宗麟様本隊も加わり力攻めしていただきたい」


 ちょっと待った!

 宗麟が血相を変えて話に割り込んだ。


「何故義統をいきなり動かす⁉ 城の包囲は他の家臣隊に任せ、義統は後詰めでよかろう!」

「此度の戦の最大の目的は旧大友領の回復と、日向の地北半分を奪い取る事。これは六年前に大敗北を喫した耳川での戦の再現でもあり、弔い合戦でもあるのです。失った家臣団の信頼を回復するには、大友家の当主でもある義統様の前線での指揮が何よりも重要なのです。それに……」


「む……」

「いつまでも義統様と不仲では困りますぞ、宗麟様。そもそも家臣達がまとまらぬのは本家がまとまらぬからに御座います。お互い言いたい事はありましょうが、今は家臣達の信頼回復に努めて頂きたい」


 牛幻の正論にグーの音も出ない宗麟。

 息子である義統とは根本的に合わないのではなく、義統の実母である奈多夫人(なだふじん)(大友宗麟の継室)の反キリストを強く受けていた。


 しかし、耳川の戦いで寺社仏閣を率先して破壊していたのは義統だったという話も有名であり、後に義統もキリスト教の洗礼を受けているので、どちらかといえば宗麟側だったのではないか……というのが私の見解だ。

 そう考えると大友家の衰退は宗麟がキリスト教に心酔していただけでなく、継室であった奈多夫人の権力が強すぎたのも問題だったのかもしれない。

 

 もしもふたりが手を取り合っていたら大友家は衰退していなかったのだろうか。

 そんなイフルートを考えてみるのも戦国時代の楽しみのひとつと言える。


 いや、それでも無理かも。だって宗麟は側室を七人も抱えるほどの女好きだ。私だったら間違いなくぶっ殺してる。


「話を戻します。縣の松尾城が攻められたとなれば一番近い城はここ、高城の山田有信が必ず援軍に動きます。その隙に愛姫隊と立花誾千代隊は日向(なだ)を迂回して高城を制圧。義統隊は松尾城を攻め落と次第南下し、高城近くの新納石城(にいろいしのじょう)を拠点にしてください。ただし、新納石城は耳川の戦い以降使われていないせいか、現在は野伏(のぶせ)共のたまり場となっているようですのでご注意を」


「日向灘……。灘って言われるぐらいだから海は荒れてるんでしょ? 渡って大丈夫なの?」

「山田有信が援軍に動けるのは早朝。その時間帯が波の一番穏やかな時刻になりますので、早朝に合わせて南下してください」


「わかった。高城を制圧してからは?」

「愛姫隊と誾千代隊はそのまま高城に残り、財部城と佐土原城からの襲撃に備えてください。相手から攻め込んで来ても決して本隊と合流するまで戦ってはなりません。門は固く閉じ、籠城の姿勢をしていただくだけで結構です」


「ん、牛幻はどうするの?」

「私は豚丸と共に山田有信の挟撃に向かいます。その後は本隊と合流して高城に戻りますのでご安心を」


 すると、左月が手を挙げる。


「牛幻殿、老体ながらこの左月も同行致しますぞ。数は少しでも多い方がよかろう」

「……それはありがたいのですが、左月様は城に残り愛姫様をお守りするのが良いのでは?」


「その任は喜多に譲りましょう。なあに、槍を持たせればそこらの男じゃ太刀打ち出来ん故、安心して任せられよう」

「わかりました。それではよろしくお願い致します」


 牛幻、ちょっといいかい。

 と、誾千代が口を開く。


「ここまで聞いてると島津四兄弟が全く話に出てこないじゃないか。コイツ等との戦闘は避けるってわけじゃないんだろ?」

「それは無理でしょう。家久は有馬の援軍に向かっているので兎も角、歳久とは間違いなく接触するでしょう。それにあの戦闘狂の義弘です。黙って傍観……ってわけはないでしょうな」


「それじゃあ高城に籠った後はどうなるかわからないんだね」

「はい。義弘も歳久も援軍には早くても二、三日は掛かるでしょう。そしてもうひとつ……」


「……義久だね」

「そうです。本隊である義久がどちら側の後詰めに向かうかで戦況は大きく変わります。そのため、愛姫隊と誾千代隊は大友本隊と合流するまで絶対に高城から出てはなりません。いいですか? 絶対ですよ」


 籠城を含めれば三回目。凄い念入りに釘を刺された。

 めっちゃ信用されてないじゃん……。むしろそこまで念を押されると逆に戦いたくなるのが人間の性である。


「愛姫様のお転婆ぶりは左月殿やそちらの喜多殿から聞かせてもらっています。そこに誾千代様も混じっては信用しろというのも無理があるかと」

「失礼だね……、誰の入れ知恵だい?」


「宗茂様です」


 アイツ……、と指ポキをする誾千代。

 気のせいか、顔が鬼の形相になりかけている。


「ハイハイ、言う通りにしますよー。どうせ籠っても一日二日でしょ、ヨユーヨユー!」

「……信じてますからね?」


 ここで大まかな作戦は終了となった。


 そして年が明けた天正十二年(一五八四年) 三月。

 牛幻から作戦の確認と細かい所の修正をしたうえで、ついに私達は三月二十三日、沖田畷の戦いの前日を迎えるのだった。

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