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連判状を追え!⑥

「あ、義姉上!」


 足音と共に私の名を呼ぶ。振り返るとそこには小次郎がいた。

 呼吸を乱し、頬を赤くして、雪がまだあるというのに裸足で追いかけて来たのだ。


「ハァハァ……、義姉上……その……」


 母を許してやってほしい。そう言いたそうな顔をしている。

 だけど、小次郎はそれをしなかった。出来なかった。言う資格がなかった。


 少なくとも小次郎は今回の件を知っていたからだ。

 当初何を理由にわざわざ私の所へ顔を見せたのか分からなかったが、今回の件で何となく察してしまった。


 しかしそれを込みにしても、今回の件は小次郎に罪は無いだろう。

 私へ会いに来た事も、今回の一件を黙っていた事も、そして今私に伝えたい事も彼なりの優しさだったのだから。


 次男が故の葛藤、母の暴走を止められない弱い自分への苦悩。

 私にも似た経験があるその苦悶(くもん)に、過去の自身と小次郎を重ねてしまった。


 そう思うと、今この瞬間に小次郎を抱きしめてあげたい。

 辛かったね、と言ってあげたい自分がいる。


 だけど……それは出来ない。

 私は愛姫だ。個人的にはまだ実感がないが、伊達政宗の正妻という立場であり、この世で天下を狙う野望を持つ限り今の立ち位置を脅かす者がいるのであれば排除しなくてはいけない。


 仮にそれが同じ伊達家の血を引く子であろうが、見た目の可愛い優しい男の子であってもだ。


「政宗に後でお礼を言っといてね」

「あ……兄上にですか?」


 これ以上は何も言わない。自分で考えなくてはいけない。

 あえて小次郎に罪があるとすれば、ここから先は彼の償いである。


「じゃあね」


 私は止めた足を再び動かす。それに喜多と左月も続いた。

 見えはしないが、どんどん離れていく小次郎との距離に少しだけ寂しさは感じる。


 だけど、甘える事は出来ない。

 戦国時代を生き残っていくには味方であれ鬼にならなければならない時もあるからだ。光秀にそれを教えられたから。


「それにしても若らしくもないご判断でしたなぁ」


 左月はそう呟いた。

 実は今回の件、ここに来る前政宗には一度報告はしていたのだ。


 連判状を回収したとはいえ、私達にどうこうする権限がないため政宗に指示を仰いだのだが、結果は許すの一言だった。

 さすがに今回ばかりは許さないと私も思っていたのだが、政宗は輝宗にも相談する事なくただ一言許すと言ったのだ。


「喜多よ。もし若が小次郎様を斬れと申したら、お主は斬っておったか?」

「な、なんですかその問いは……」


「いや、あの信長殿も織田家の内乱を押さえるために実弟である信勝殿を城に呼びつけ暗殺したという。此度の一件はそれによう似ておる。もしも若が我々にその任を与えたのなら、儂等は小次郎様の首を刎ねる勇気があったのか……。と、思ってのう」

「……父上と同じご決断をしたかと」


「儂と?」

「ええ。私にも鬼庭の血が流れていますので」


 そうか、と納得したように左月は頷いた。

 左月が何でそんな質問をしたのか。その意図はわからないが、もし左月のいない所で同じ事が起きた場合、喜多がどのような判断を下すのか。それを聞いておきたかったのかもしれない、と私は思った。


 ――――――――――


 連判状を押さえた事で伊達の内乱は一度終焉を迎える。

 当然、この騒ぎは輝宗の耳にも入る事となったのだが、政宗の願いもあり義姫への処分は不問とされた。


 証拠となる連判状は義姫が燃やしてしまったので罪を確定させる事は出来なかったのだが、そもそも怪しい動きをしていた義姫だっただけに輝宗からしたら肩の荷が下りたようだった。

 義姫に厳しくすると隣国の最上が動くかもしれない。それに身内の内乱だけは避けたかったようで、今回の私達の活躍は大いに褒められた。後で感賞も貰えるようだ、やったね!

 

 そして月は流れ、天正十年(一五八二年) 六月二日未明、事件は起きる。

 場所は京の本能寺。

 

 そう、かの有名な『本能寺の変』であり、その本能寺の変を起こした首謀者とはあの明智光秀であった。

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