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連判状を追え!③

 黒脛巾組の調べ通り、小次郎擁立派の動きは早かった。

 米沢城のお東屋敷にいる義姫へ商人が接触、使者と思われる集団は雪道を突き進み、途中寄り道をしながらも米沢城から北東の山家(やんべ)城に到着した。


 その翌日。義姫の使者は米沢に戻ることなく進路を東に変え、今度は伊達一門衆である国分盛重が入っている松森城に入った。

 その知らせを聞いた私は謀反を企てる証拠を押さえるべく、喜多と数名の供回りだけを引き連れ松森城に向かった。


「さささ、寒い……。ねぇ……後どれ位?」


 凍てつく寒風に曝されながらも足を一歩二歩と前に進める中、私の問いかけに先頭を歩いている喜多が答える。


「もうすぐ、もうすぐですよ姫様!」

「もーさっきからそればっか! 二時間前も、一時間前も同じ事言ってるけど全然着かないじゃん!」


「そんな事言われても……。お、おかしいですねー、絵図を見るにそろそろのはずなのですが……」


 再度絵図を取り出し現在地を確認する喜多に、後ろからひとりの老将が近づいた。


「貸してみぃ。……ウーム、これは先の吹雪で方向を見誤ったか。儂は松森城に何度も足を運んだことがある故、一度落ち着いてから正しい方角を確認しようぞ」

「あぁ、助かります父上」


「まったく……、こんな荒れている日を選ばんでもよかったろうに。いくら急いでいるとはいえ――」


 老将とは左月だ。

 方向を間違えている可能性を指摘し、テンパっている喜多にアドバイスをすると共に説教も始まった。


「別に爺は付いて来なくて良かったのに……」

「そうはいきません! 拙者、殿や若様から姫様が無茶な事をしないように監視を頼まれておりますれば」


 本人いわく、また私が危険な事に首を突っ込んでいると思ったようで。監視役という名目で輝宗から許可を貰い同行しているわけだ。

 歳も七十を超えているというのに元気なお爺ちゃんだ。


 とはいえ、左月の言うこともごもっとも。

 吹雪がここまで酷いとは思わなかった。おかげで視界が悪く、先程まで見えてた風景も白いペンキを塗られたように真っ白に染まってしまっている。このまま無闇に進むのは危険すぎるか。


 私は供回り達に休憩できる場所がないか辺りを探索させた。すると、ひとりが明かりの点いた小屋を発見した。

 外観は古臭く、何年も補修をしていなそうなオンボロの古民家。ただし、吹雪を凌ぐにはもってこいな場所ではある。


 左月が家主に許可を取りに行くが、あっさりと戻って来た。どうやら中に三人いたらしのだが、どれも家主ではないらしい。つまり私達と同じ吹雪から一時的に避難してきた同士だったのだ。

 ならわざわざ許可を取るまでも無い。私達は遠慮なく古民家の中へ入って行った。


 ――――――――――


 古民家の中は外観から察する通りの状況だった。

 部屋の隅々にはクモの巣が張り巡られていて、床もかなり埃っぽい。つまりここは家主のいない家、空き家だったのだ。


 そんな悲惨な状態な家なのだが、暖をとるための燃料となる薪は大量に置かれていた。

 多分ではあるが、ここは家主がいなくなった今でも旅人達の休憩所として利用されているのだろう。天井もよく見ると何か所か簡単に補修された跡がある。


「アンタ等も商人かい?」


 三人の内のひとりが話しかけてきた。

 豪華な装束を身に纏ってはいろいろ面倒だということで、私達は素性を隠すためそこらにいる旅人っぽい服装をしている。一応テーマは旅芸人だ。


「いえいえ、私達は流離(さすらい)の旅芸人。これから京に向かう予定だったのですが……」

「なんだぁ芸人御一行かい。それにしてもとんだ天候になっちまったなぁー」


「ええ、そうなんですー」


 喜多が上手く対応する。ちなみに、この旅芸人のリーダーは喜多に一任してある。


「俺達も丁度使いを頼まれて松森城から帰る途中だったんだ。そしたら急に吹雪になりやがって……」

「ええ、本当に……」


「こんな中出歩くのは自殺行為だぜ。良かったなアンタ等、ここが見つかって。……それはそうと、そこのお嬢ちゃんはアンタの子かい?」


 男が私に視線を向けた。

 どうやら喜多の子供だと思っているらしい。


「いえいえ、こちらは姫様で……」

「あん? 姫様?」


「あーいえいえ、それは芸名でした! はい、この子は私の子で愛華(まなか)と申します! オホホ」


 馬鹿。私の身分が一番バレてはまずいだろ。

 喜多はしっかりしているが、所々天然なところが玉に瑕。これには左月も頭を抱えた。


「へー。それにしてはあんま似てねーな。本当にアンタの子か?」

「え……何でですか?」


「いや、確か伊達の若様の姫様が桃色の髪の毛と聞いた事がある。そこの娘も同じ色……。桃色の髪ってのはそうそういるもんじゃねー、ソイツもしかして……」


 三人の内のもうひとりが会話に混じってくるなりそうツッコんだ。

 うわぁぁ……疑われている。喜多が姫様とか言うからだ。


「ちちち違いますよー! 確かにこの子と私は血が繋がっておりませんが――」

「ああん? 血が繋がってねーんじゃアンタの子じゃねーじゃねーか! テメー等怪しすぎるぜ……」


「ま、待ってください! この子は奴隷商から逃げて来た子なんです! それを私が引き取って……、だから私の娘なんです! ハイ!」

「ど、奴隷商から逃げた子供……?」


 警戒のあまり刀を抜きそうになった男達であったが、喜多の機転により動きを止める。

 ってかいつの間に私は奴隷商から逃げ出した子供になったんだ。おかげで余計なステータスがひとつ追加されてしまった。


「そ、そうか、確かに値打ちのありそうな女だしな。すまねぇ、変な事を聞いちまって……」

「オホホホ、気にしなくて大丈夫です! よく言われますので!」


 ピンチをなんとか切り抜ける。危ない危ない、もう少しで斬られてしまうところだった。

 ……ちょっと待て。何でコイツ等は私に反応したんだろう。自国なんだからその国の姫がウロウロしててもおかしくないだろう。いや、おかしいっちゃおかしいんだけどさ。


 それに松森城に使いで行ったって言ってたか。コイツ等……ちょっと怪しいなぁ。


「ねぇねぇ、アンタ達松森城で用事を済ませて来たんでしょ? 用事って何?」

「いやいやお嬢ちゃん、それは秘密だ」


「ふーん。でもさぁ自称商人なのに荷物少なすぎない? 明らかに移動に特化した感じだよね」


 ギクリッと身体を跳ね上げる商人達。益々怪しいなぁ。


「なななな何言ってんだよ。俺達はただ国分の旦那に大事な書状を届ける使いを任されただけで――」

「ば、馬鹿っ⁉」


 うっかり内容を喋った男の口をもうひとりが塞ぐ。

 国分の旦那ってのは国分盛重の事か。それに大事な書状って……。


「書状を届けるだけなら飛脚衆を使えばよかろう。それに護衛のために脇差を所持するだけなら分かるが、刀や弓などと……随分と念入りに準備をしておるのじゃのう。まるでその書状は奪われるとまずい……みたいな」


 左月の探りは確信を突いていた。

 男達の顔色は益々悪くなり、脂汗が止まらなくなっている。


「あっ吹雪も止んだか。じゃあそろそろ俺達行くわ……。アンタ等はゆっくりしていけよ」


 さっさとトンズラしようと荷物を急いでまとめ出て行こうとする男達。

 残念ながら外はまだ吹雪だ、ここはまだゆっくりしていってもらおう。


「爺、喜多さん。よろしく」


 私の掛け声と同時に喜多が刀を、左月が槍を抜き男達を挟み撃ちにする。


「ホントは隠して探るつもりだったけど、もうそんな心配ないね」


 素性をばらさないために着こんでいた厚着を取っ払う。

 フゥー、流石に室内は熱いわ。次からは服を脱いでもばれない様にしっかり変装しよう。


「白銀の(ころも)に蓮紋、それに桃色の髪⁉ お前は――」

「天下無双の愛姫ちゃんよ。さぁアンタ達が大事に持ってる書状……いや、政宗を廃嫡させる連判状。さっさと出してもらおうじゃない」


「す、既にバレておったと⁉」

「うん、バレちゃってた」


 男は観念したのか胸元に手を入れる。

 取り出したのは連判状……ではなく縄の巻き付いた黒い球体だった。


「ほ、焙烙玉(ほうろくだま)⁉」

「この連判状だけは絶対に渡せねー! 姫様諸共ここでまとめて砕け散ってやるわ!」


 三人の内ふたりが左月と喜多に斬りかかり、中央のひとりは焙烙玉に火を付けようとする。

 ちなみに焙烙玉とは手投げ爆弾の事だ。


「んぎゃああぁぁ――!」


 ふたりが左月と喜多に斬られると同時に、中央の男の火種を持った右手がボロボロの内壁にめり込んだ。

 間一髪、焙烙玉に火を付ける瞬間に私の左脚が男の右手を捉える。


「ててて手が――!」

「あっぶな……。死ぬならひとりで死んでよね」


 私は悲鳴を上げている男を無視し、胸元に隠してあった巻物を奪い取り左月に渡す。


「こ、これは……」


 左月は表情を歪めた。

 おそらくそこには政宗の廃嫡に同意する家臣の名前がズラリと書かれているのだろう。中には付き合いの長い家臣もいるはずだ。


「国分殿、山家(やんべ)殿、布施(ふせ)殿、それに村田殿。間違いなく各々の直筆……、これは間違いなく連判状じゃ……」

「だってさ。アンタ……これをいったい誰の命令で――」


 男からの返答はない。いや、呼吸すら感じられない。

 男は既に舌を噛み千切って息絶えていたのだ。

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