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連判状を追え!②

 あれから数日経った。

 私がひとりになったタイミングを見計らい、忍びのずんが姿を現した。


「おかえり……って、ソイツ等……誰?」


 ずんと一緒に現れたのは全身黒装束のふたりの漢。ずんと同じ黒の忍び服と黒の脛あてを付けた男の忍びだった。


「この方々は政宗様の忍び軍団『黒脛巾組(くろはばきぐみ)』の組頭・柳原戸兵衛(とへえ)様と世瀬(よせ)蔵人(くらんど)ッス。実は今回姫様から与えられた任を黒脛巾組にも手伝ってもらったんスよ」


 黒脛巾組……か。確か政宗が最近になって作ったって言ってたな。

 ずんもその組織に入れるかと聞いたら、「好きにしろ」って言われたんだっけ。結局、ずんは私直属にしたんだけど。


「お初にお目にかかります、姫様。拙者、黒脛巾組組頭の柳原戸兵衛と申します。そしてこちらが……」

「……。世瀬……蔵人……」


「……挨拶が遅れ申し訳ございませんでした。若には身内といえど露出は控えよ、と申しつかっておられますれば」


 と、筋肉質な忍びである柳原戸兵衛という漢が説明してくれた。

 もうひとりの世瀬蔵人というネクラっぽい忍びはジッと私を見ているだけ。顔もそうだけど、凄く不気味だ。


 それを見た柳原戸兵衛はため息をつく。

 元々こういう性格なため人前に出したくなかったのかもしれない。まぁ気持ちはわからなくもない。さっきから不気味な視線が感じるからだ。


「き、気にしないでください。コイツは元々こういう漢なのです。決して悪意があるわけでは……」

「ま、まぁ……それは良いから。それで……黒なんちゃら組のリーダーふたりがずんと一緒に現れたってことはそれなりに深刻な話ってわけだ……」


「ずん? ……ああ、姫様はお打の事をそう呼んでおられるのですね。はい、詳しい話はお打から……」


 私がずんに任せていた仕事とは、義姫とその子供・小次郎の調査だ。

 光秀が言っていた『獅子身中の虫』という言葉。それは間違いなくこのふたりを指している。


 ずんは数日間ふたりの行動を追った結果を報告してくれた。


「……政宗廃嫡計画?」

「はい。おそらく首謀者は義姫様、それを先導しているのが村田城城主・村田宗殖(むねふゆ)殿っス。聞いた話だと、村田殿は若の初陣でも一悶着あったみたいなので若派の人間を良くは思っていないのかもしれないっスね」


 村田宗殖。

 ああ思い出した、小十郎が作戦を説明している時にやたらチクチクしていた奴かな。あのオッサンは小次郎擁立派の人間だったのか。


「……それで?」

「なんでも伊達家一門譜代から小次郎様を支持するよう内々の文書を作っているようで。多分、連判状(れんぱんじょう)かと思うっス……」


「連判状?」


 連判状とは思いを同じくする人が誓約のしるしとして自署し、判を押した連名の記された書状の事だ。

 と、柳原戸兵衛が簡潔に教えてくれた。


 つまり今回の場合、政宗を廃嫡し、弟の小次郎を次期伊達家の当主にするべきだ、と思う者の名前を集めているというわけだ。

 私がいた時代に例えると署名活動がそれに近いかな。


「だけど、そんなに政宗が当主になるのを嫌がる奴って多いわけ? 長男が当主になるのは仕来りみたいなもんって言ってたじゃん」


 そこまでは多くないっス。と、ずんは答えるが、連判状の真の狙いはどっちつかずの人間を取り込むためだと言う。

 政宗が当主となって伊達家が繫栄するのか、それとも衰退するのか、不安視する人間を取り込むことが出来ればその数は過半数を大いに超える可能性があるらしい。


 あくまで政宗を次期当主にすると言っているのは現当主である父・輝宗だ。

 反対派が多いのに無理矢理政宗に当主を譲ったりしたらそれこそ反乱が起こりかねない。


 身内同士の争いは二度と起こしてならない。

 そう言っていた輝宗の優しい心を突いた汚い作戦だが、外から見ればよく考えられた作戦だ。


「まぁ……一番の原因は政宗様と姫様なんスけど」

「は? 私も? 何で⁉」


「奥州統一だ。天下統一だ。って夫婦揃ってオラオラだったら、そりゃあ家臣達も不安がるっス。この辺りは伊達と縁戚の土地が多く、おかげ争いがほとんどなくここまで来たんスから」

「…………」


「それに自覚ないかもしれないっスが、姫様の影響は一国の正妻の域を既に超えてるっス。光秀様が姫様目当てで来た事が噂で広まって、ここ米沢だけでなく、周りの家臣や周辺国は見る目を変えてるっス。それも義姫様を焦らせた原因にもなってるっスよ」


 そんな事を喜多が言っていたのを思い出した。

 この辺りは十四代目当主・稙宗(たねむね)から進めてきた縁戚外交の結果から血縁者が非常に多いらしい。


 例えば私……いや、ここでは愛姫と言った方がわかりやすいか。

 愛姫の父である田村清顕、さらにその父である田村隆顕(たかあき)の奥さんは稙宗の娘。よって愛姫自身にも伊達家の血が流れているわけで。その結果、政宗と愛姫は血縁者同士の婚姻となっているわけだ。


 凄くややこしいが、奥州には伊達の血縁者が多く出回っている。ある意味、皆仲間みたいなものなのだ。

 それなのに本家である伊達家の次期当主が武断派。時代が時代のため支持するお家も多いが、今までの関係が崩れる可能性を心配しているお家もいるということだろう。


「わかった、わかった。まぁ結論言っちゃえば、義姫の近くにいるその村田宗殖って奴を黙らせればいいわけね!」

「……ちなみにどうやって黙らせるんスか?」


「そりゃーこうやってから……こうするでしょ!」


 顔を殴って態勢が崩れた所に蹴りを入れる。

 そんな動作をしたところ、ずんからはバツ印が飛ぶ。


「駄目っス駄目っス! 村田殿は小次郎様擁立派といえど伊達一門衆っス、そんな事がバレたら輝宗様も黙ってないっスよ!」

「いや、ここまでするつもりはないけどさ。でも、拒否られるなら力尽くでやるしかないじゃん。私考えるより先に動くタイプだから」


「ひ……姫様、大分性格が変わったっスね。わちきのよく知ってる優しい姫様はどこにいったのやら……」


 ずんは泣きながらそう訴えた。

 まるで人を野蛮人みたいに言いやがって。なんて失礼な忍びだ、私は十分優しいだろ。


「じゃなくて、証拠を押さえるっス! 思った思ってない、言った言わないで処罰するのではなく、確実となる謀反の証拠を押さえる。それが義姫様を黙らせる事が出来る唯一の方法っス!」

「……それが連判状ってわけ?」


「うっス! 戦準備に追われた忙しい時期を狙って近く必ず動きはあるはず。姫様にはその時を狙って動いてもらいたいんス!」

「まぁわかったわ。じゃあずんはそのまま黒脛巾組と一緒に働いてちょうだい。細かい指揮はそこのマッチョマンとネクラ男に任せる」


 御意。

 と、一言残すと三人の忍びはその場から一瞬で消えてしまった。


 伊達の今後を左右するかもしれない連判状と、どうしても小次郎を当主にした義姫のこだわり。その根源とはただの義姫の愛からなのだろうか。

 政宗が醜いから?


 小次郎が可愛いから?

 政宗が武断派だから?


 小次郎が逆の文治派だから?

 普段あまり深く考えない私だが、ここだけは自分の答えがまとまるまで考えてしまった。

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