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第五話 写し見の忍び①

 政宗の初陣、陸奥国(むつのくに)伊具郡で合戦が始まり一か月。

 遂に、合戦を揺るがす大きな事件が起こる。


 小斎城城主である佐藤為信(ためのぶ)が相馬を見限り、伊達に寝返ってしまったのだ。

 裏で調略を進めていたのは勿論輝宗だが、佐藤為信は相馬家を恨んでいる所があり、義胤の奇襲策が失敗した知らせを聞くと輝宗の本陣に降伏と服従に関する文書を送ったのだ。


 佐藤為信の寝返りは相馬家を更に分断する。

 援軍に入っていた大内家と畠山家だが、戦況が不利だと判断すると掌を返したかのように戦場から離脱してしまったのだ。


 次々に起こる味方の離反に義胤本隊も一時撤退を開始。

 丸森城に兵を残し、数名だけで居城である小高城へ帰って行った。


 そして形勢を優位に進める我が伊達軍は、遂に丸森城を包囲。

 しかし、敵も籠城戦に切り替えたため戦況は膠着状態に移行する事となる。


「……殿、いかがなさいましょう。やはりここは一気に力攻めでも……」

「駄目じゃ。丸森城は祖父・稙宗公の隠居城、出来る事なら無傷で手に入れたい」


「そうは言ってもですなぁ……」


 輝宗と家臣との間で意見が割れているようだ。

 まぁお互いの言いたい事は分かる。丸森城を囲んだのは良いものの、ここ数日全く動きがないからだ。


 輝宗に意見を言っている家臣達は今回の戦で武功を上げていない奴だ。

 そのため、強行突破してでも成果が欲しいのだろう。


 逆に輝宗はおじいちゃんの隠居していた城だから無理に攻めたくないの一点張り。

 それに、無理に攻めて兵を失う事も恐れているのだろう。籠城相手に攻める側は圧倒的に不利なのにも関わらず、丸森城は山城である。道幅も狭いため余計に不利なのだ。


「全く、埒が明かんのう……」


 私の隣でボソッと小声で呟く政宗。


「アンタはどっち派なの?」

「どっち派とは……父上の意見と武功を焦っておる阿呆共の事か?」


「うん」

「……正直どちらでもないのう」


 どちらでもない?

 どういう意味だろうか。私は政宗に尋ねた。


「そのまんまの意味じゃ。儂なら撤退するかのう」

「撤退⁉ 折角城が落とせそうなのに見逃すってわけ⁉」


「あーいや、正確には一時的な撤退じゃ。あの程度の城にあれだけの兵を残していったのじゃ、恐らく儂等の知らぬ補給路があるのやしれぬ。それに……」

「それに?」


「去年は米が例年より不作だった故、儂等が必ず田植え時期に撤退すると読んでいるのかもしれんな」


 どちらにせよ、籠城戦を選んだ相馬は正しい。と、政宗は言う。

 確かに今回の戦が始まる前に、輝宗はどんなに戦が長引いてもでも六月までには帰ると言っていた。それは田植えがあるからだったようだ。


「田植えの時期を逃せば国衆の指揮は下がる。それならいっそさっさと帰って、田植えを終えたら再度出陣した方が利口よ」

「……それもそうね」


 馬鹿かと思ったら、案外皆の事を考えている。

 意外や意外。生意気な政宗からそんな言葉が出てくるとは思わなかったため関心するしかない。


「まぁ後は父上達が決める事よ。それより愛、ちと付き合え」


 そう言うと、政宗は本陣の外に向かって歩いて行く。

 アイツから私を誘うなんて珍しい。屋敷ではそんな事一度もなかったのに。


 私は政宗を追い、本陣を後にした。


 ――――――――――


 到着したのは本陣から少し離れた、木や岩などの障害物が全くない平坦な場所。

 立って話すのも難儀だと言い腰を下ろす政宗に、私も同様に草の上に腰を下ろす。政宗と二人きりで話をするなんて初めての事だ。


「そういえば、傷のほうはもう大丈夫か?」

「傷? あぁ、これか。うん、もう大丈夫。痛みももう無いし、順調に回復してると思う」


 包帯に似た薄い布でグルグル巻きにされた患部を擦りながら、私はそう答える。

 その時の記憶は眠っていたので無いのだが、私が政宗に抱き抱えられ本陣へ帰還した時は、そりゃもう大騒ぎだったらしい。


 特に酷かったのは左月。

 麓の部隊として出陣していたのにも関わらず義胤を山道に通してしまった事。そしてその結果私が怪我をしてしまった事に責任を感じたのか、負い目を感じ皆の前で腹を切ろうとしたらしい。その後左月を静まらせるのは大変だったようだ。目が覚めてからもウザいくらい大変だったが。


「そうか……、それは良かったのう」

「……うん」


「ああ、それと……」

「??」


「……義胤をあそこで足止めした件、見事じゃった。一門譜代のほとんどはお前の身勝手な行動を咎めておったが、むしろ儂等は義胤を本陣に近づけさせなかったお前と喜多の働きは十分評価しておる」

「え……ああ……うん、ありがと……。そっかそっか、エフフォーがねぇ……」


「え、えふ……ほ?」


 驚いた。

 あの政宗が、生意気ですぐ人を馬鹿にするような漢が私を褒めているのだ。明日は槍でも降るのかもしれない。


 儂等というのは政宗隊の事だろう。

 政宗の他に小十郎、伊達実元(さねもと)の息子・成実(しげざね)、左月の息子・鬼庭綱元などといった、伊達三傑(さんけつ)と呼ばれるメンバーの事だ。


 政宗を含めれば丁度四人。

 私は伊達三傑なんて呼び名は憶えにくいため、とある人気漫画から取り、彼らをまとめてエフフォーと呼んでいる。


「まぁ正直侮っておった。本場の戦場を見れば女であるお前は縮こまり、震えて動けなくなるお荷物だと……儂等は正直思っておったからのう」

「むっ……」


「じゃが予想に反して、お前は儂の期待を良い意味で裏切った。口だけじゃない、少なくともあの場所ではお前の存在が指揮を高めたのじゃ」


 政宗はこちらを振り向くと私の両肩を掴んだ。

 ガッシリと、真剣な眼差しで私を見つめた。


「お前は言うたな。『伊達で天下を取る』と」

「い、言ったよ……」


「その言葉は……今でも嘘偽りはないか?」

「な、ないよ!」


「ならお前の力は儂が使う。今はまだその時ではないが、儂がお前に最高の舞台を与えてやるわ!」

「……政宗」


「儂を裏切るな! 儂と共に戦え! 儂の傍におれ! さすれば、儂がお前に天下を見せてやるわ!」

「お、おう……」


 政宗の気迫についつい普段使わないような言葉が出てしまった。

 おうってなんだよ、おうって。


 でも何だろう、このドキドキは。

 わからない。緊張とか不安だとか、そういう感覚じゃない。


 私の知らない、体験した事のない感覚。

 胸がキュッってなるような、心臓が熱くなるような感覚。


「じゃから愛よ、お前は一足先に城へ帰れ」

「……え?」

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