第二十四話 黄泉がえりの僧、天海①
「そ……そんな……」
私は米沢に戻った後、喜多にこれまでの事を話した。
大殿が私と政宗の事を心配していた事。
畠山義継と面会し、大殿が捕らえられてしまった事。
私が代わりを務めたが、結果大殿が助けてくれた事。
そして……大殿が亡くなった事を。
「輝宗様が……お亡くなりに……」
その後の事ではあるが、大殿の遺体は小十郎の進言で小浜城近くの壽徳寺で火葬された。
本当なら伊達家ゆかりの資福寺で火葬されるべきなのだが、大殿の遺体をそこまで運んでしまっては敵の索敵に見つかってしまう可能性があるからだそうだ。
噂が広まれば離反する家臣達が出てくるかもしれない。
それを恐れて、小十郎はあえて壽徳寺で火葬を行い、遺骨のみ資福寺に送る事を提案した。
これには誰も異を唱える事はなかった。いや、するはずがなかった。
皆が大殿の弔い合戦に躍起となっていたし、とてもではないがそんな雰囲気ではなかった。
私は部隊の編成上、一度米沢に戻らなきゃならないため戻って来たが、その中でひとりだけ心配なヤツがいる。
それは遠藤基信だ。この漢だけは大殿が亡くなったショックで体調を崩してしまい、私と一緒に伊達領へ帰って来ている。
無理もない。遠藤基信は大殿の右腕として、左月同様に大殿の近くで働いていた漢だ。
大殿が亡くなった事で変な気を起こさなければ良いのだけど……。
「うう……」
喜多はすぐに大殿の死を受け入れた。
悪い冗談ではないかと聞いてくると思ったが、おそらくは私だから信じたのだ。彼女は私がふざけた冗談を言わないと知っているから。
「……申し訳ありません、姫様。少しだけひとりになるお時間を頂いてよろしいでしょうか?」
「……うん。少しと言わず好きなだけ。私もガラでもなく沢山泣いちゃった」
「はい。……それでは失礼します」
私から許可を得た事で、涙を堪えながら足早に自室に向かう喜多。
きっと彼女は私より多くの涙を流すだろう。
だって、喜多にとって大殿は……。
いや、これ以上はやめよう。そんな事を考えても大殿は戻って来ない。
私が今やらないといけない事は、喜多の代わりに愛姫隊の編成を整え、すぐに畠山の居城 二本松城攻めに参加する事だ。
「セ、センパイ……」
私はそのか細い声のもとに振り向いた。
私を〝センパイ〟呼びするのはひとりしかいない。猫御前だ。
「その吾輩……輝宗様が戦場で亡くなったと聞いて……。ほ、ほんとなのかの……」
うん。
と、私はひと言で答えた。
「そ、そんな……。輝宗様が……」
普段猫のようなヤツだけど、今は悲しみで涙が溢れそうになっている。
その後ろにいる普段無感情の付人 猪も輝宗の死で悲しんでいる主人に惻隠を隠しきれない。
「葬儀はいつなのじゃ? 場所は……資福寺かの?」
「細かいのは戦が終わってからだけど、火葬はもう終わってる。遺骨はこれから和尚の所に持ってく予定」
「そ、そうなのか……。戦終わりだというにセンパイも休めんのう」
「戦はまだ終わってない。和尚のとこ行ったら、私も政宗達のいる安達へ行くわ」
「ニャ⁉ い、戦⁉」
私の言葉に猫御前は驚きを隠しきれない様子だ。
「戦って……政宗様は何を考えているのじゃ! だって季節はもう……」
猫御前が驚いていたのは戦どうこうの問題ではなく、時期が関係している。
そう……、季節は秋が終わり冬の到来を告げ始めている。問題は雪なのだ。
「月を跨げば、早ければここ一帯は白く覆われるのじゃぞ!」
「わかってる。だけど……大殿を殺した畠山をこのままにしておいたら、来年の雪解けには援軍が入っちゃう。それだけはさせない」
「センパイは二本松城がどれだけ堅牢か解っておるのか!」
猫御前は私に二本松城の噂を話してくれた。
とは言っても、彼女は武人ではない。あくまで父親である飯坂宗康から聞いた事のある話だ。
小国である畠山がこれまで生き残ってきた理由。
また、二本松城がこれまで誰も攻め落とせなかった理由。
それは天然の要害が城を囲んでいるからだった。
「ちなみに、二本松城が別名で何と呼ばれておるか知っとるかの?」
「……さぁ」
「霞ヶ城じゃ」
二本松城。別名 霞ヶ城。その堅牢な理由は明らかになっていない。
しかし、攻め込んだほとんどの者が城の実態がつかめない事から、〝霞んで見える城〟……通称 霞ヶ城と呼ばれているらしい。
「霞んで見える城……。霧でも出るのかな」
「吾輩も父上から聞いただけじゃ。じゃが、何かしらのカラクリがある城である事は間違いないであろう」
「でも、それでも私は行かなきゃ。そうじゃないと大殿が報われない……」
「……そうか。まぁ吾輩には政宗様を止める権利はないからのう。ただ、気を付けてくれとしか言えんわ」
私は猫御前にお礼を言った。
二本松城の情報はあるに越したことはないからだ。
「吾輩にも何か出来る事はないだろうか。留守を守る……は大袈裟じゃが、吾輩も何かせんとな」
「じゃあ喜多をお願いしていいかな。大殿の事がショックだったみたいで……。あんな状態じゃ戦は無理だろうし、城にいてもろくな仕事も出来なさそうだし。そこんとこ猫に任せていいかな」
「うむ、任せておけ! そうと決まれば猪、お前が喜多の代わりに侍女頭代理を務めよ!」
猫御前のノリノリな指示に、侍女の猪は一歩下がり「かしこまりました」と言い残し、その場を去って行った。
相変わらず感情の読めない女だが、城が混乱している今では指示役に適任な女かもしれない。
「あっそうじゃ、そういえば昨日見かけぬ僧がセンパイを訪ねて来たぞ」
「僧?」
僧って聞くと思い当たるのはひとりしかいない。
だけど、何でアイツがここに? 豚丸の様子でも見に来たのかな。
「もしかして牛幻?」
「ぎゅう……げん……。いや、そんな名じゃなかった気がするぞ。たしか、てん……何とか」
「何で昨日の今日で忘れちゃうのよ……」
「いやいや、その僧は門兵と話してすぐに帰ってしまったそうじゃ。吾輩は猪から聞いただけじゃし」
牛幻じゃなきゃいったい誰だろう。私にはそれ以上わからなかった。
私は猫御前に別れを告げると、豚丸と愛姫隊を連れて宗乙和尚のいる資福寺に向かった。




