表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/121

初陣を掴めっ!④

 その後、私は残り二か月間みっちりと小十郎から小太刀の使い方、そして実戦でのレクチャーを受けた。

 政宗の傅役を任されているだけの事はあり丁寧で細かく、そして鬼のような熱意で私に教えてくれた。流石に政宗ほど厳しくはないにしろ、女である私に手加減など一切なかった。


 まぁ手加減などしてもらっては困る。私には時間がないのだから。

 そんな鬼指導のおかげか私のセンスが良かったのか、来たる喜多と戦える最後の期日までに小太刀をとりあえず使いこなせるようにはなったのだ。


 そして年が過ぎた天正九年(一五八一年) 二月。

 輝宗や左月、そして小太刀の使い方を指南してくれた小十郎が見守る中、私は喜多との最後の模擬戦を行うため道場で対面する。


 これで私が喜多から一本取れば念願の戦に同行出来るのだが、負ければ約束通りつまらない姫らしい生活が待っている。つまりここで負けてしまったら私、愛姫が主役の真戦国物語は幕を閉じてしまうわけで、一言で言えば正常の時間軸に戻ってしまうというわけだ。


 過去に行ってもその時代に干渉してはならない。

 偉人がそう言っていたのか、それとも通称『ドク』ことエメット・ブラウン博士がそれっぽい事を言っていたのか、誰でも一度は耳にした事がある言葉だ。


 理由としては、そこで起こした出来事が未来に大きく影響するからだ。

 本来あったものが無くなり、無いものが存在する。それらは遺伝するように引き継がれていき、本来の時間軸とは違う外れたパラレルワールドを作ってしまうとか。


 逆に変えられない派も存在する。

 過去に行って一悶着起こそうとしても不思議な力が作用しているのか必ず妨害を受け、その時代へ干渉出来ないようになっているとか。過去とは唯一人間が干渉出来ないもの。仮に干渉出来たとしても、未来では名前が違うだけで同じ物、同じ思想を持った人間が同じ立ち位置に存在しているだけらしい。


 ここまで話すと過去へ行ける前提になっているが、大多数の意見としてそもそも過去には行けないがほとんどだろう。

 過去に行けないのであれば今を変える事は出来ない。今が変えられないのであれば未来は変われない。それが普通なのだ。


 だが、今の私が置かれている状況はどう解釈出来るのだろう。

 輪廻転生? それともタイムスリップ?


 昔、私のおばあちゃんが「ご先祖様は有名な武将と結婚したお姫様だったんだよ」と言っていたのを思い出した。

 もしかしたらタイムリープって可能性は……ないか。おばあちゃんは当時ちょっとボケが入っていたし、そもそも話自体が胡散臭い。父親は現実主義者だったので知ってても話さなかっただろう。


 まぁとりあえず何が言いたいかというと、私が目の前にいる喜多を負かす事が出来れば間違いなく史実にはないストーリーが始まるという事だ。私ひとり参戦した所でどう変わるかなんてわからないが、少なくとも私が戦場にいた事は歴史に残るだろう。伊達には戦姫がいたと語り継がれるのだ。


 それが歴史に名を遺すほどの人物だったのか、それともただのお荷物だったのか。どういうカタチで歴史に残せるかと考えるとワクワクが止まらない。私が歴史を変えた第一号になるかもと考えるとドキドキが収まらない。

 ヤンキー達とポカスカ殴り合っていた緊張感以上のものがそこ()にあると考えるだけで、私はこの勝負……絶対に負けられないのだ!


「さぁ、始めましょう!」


 私は相対した喜多に飛び込む。「始め!」の合図を待たずに、不意気味に、喜多の胸元目掛けて飛び込んだ。

 私の奇襲を読んでいたのか、喜多はバックステップで距離を調整すると持っていた稽古用の木槍で突いてくる。


 五月雨突き。あえて技名を付けるとそんな感じの突きが私を襲う。

 が、ここまではテンプレ。いつもの流れなのだ。


「だぁ――!」


 私は槍の棒部分、一般的に(つか)と呼ばれる部分を蹴飛ばし、喜多の攻撃を防ぐ。


「そして……ここまでもいつも通りですね、姫様」

「むぅ……」


「ここから先どう成長しているのか楽しみです!」


 喜多はそう言い放つと、再び槍の猛攻で私に襲い掛かる。

 突き、切り上げ、薙ぎ払い。槍で出来るすべての攻撃パターンを見せつけるかのように、近づこうとする私の動きに合わせるように武器を振り回す。


 私はいつもここで喜多に負ける。変幻自在に操る喜多の槍術の前に敗北しているのだ。

 現代に例えるとチアリーディング部が使う白い棒みたいにクルクルと、まるで槍を鉛筆かの如く軽々と自在に振り回すのだ。


 馬鹿力、怪力、超人類。

 そんなに筋肉質ではない喜多のどこにそんなパワーがあるのか毎回疑問に思う。もしかしたら既に人間をやめている化け物なのかもしれない。


「き……聞こえておりますよ、姫様……。随分と余裕があるようで……」


 こめかみ部分をピクピクと反応させ、引きつった笑いを見せる喜多。

 どこで心の声が漏れてしまったのかわからないが、喜多の攻撃がいつもより早い。どうやら火に油を注いでしまったらしい。こんなつもりじゃなかったのに。


「ちょ、ちょっと⁉ 最後くらい私に花を持たせていいいじゃない! 私絶対戦力になるよ⁉ 敵将いっぱい倒しちゃうよ⁉」

「そんな事を言っても駄目なものは駄目です! 姫様がいくら強くても、それ以上の武士(もののふ)が沢山いる危険な所なのです! それに負けてしまったらどんな事をされるか……。首を取られるだけじゃ済まないかもしれませんよ! そんな所に姫様を連れて行くなんてこの喜多が絶対許しまっ――せん!」


 喜多の容赦ない、無慈悲な攻撃は私に後ずさりを余儀なくさせる。

 このままではいずれ端っこに追いやられ負けてしまう、と思った私はここ二か月で使えるようになった秘密兵器を腰から引き抜く。


「…………っ」

「小太刀。足技一辺倒にならなかったのは良きご判断かと。姫様も考えましたね」


 私は握りしめた木製の小太刀で喜多に斬りかかる。余裕の表情をした、まだまだ楽しめそうと思っている私の侍女に側面から飛び掛かる。


「はぁぁ――!」

「惜しい!」


 槍を縦に構え、側面からの攻撃を防ぐ喜多。

 私はその一撃だけにとどまらずいたる所から攻撃を加える。


 が、見事に全て捌かれてしまう。私が二か月で会得した小太刀など話にならないと、わざと反撃もせず子供をあやすように、まるで猫じゃらしで動物と戯れるように私の攻撃をすべて受けきった。

 私は完全に喜多に遊ばれていたのだ。


「ハァハァ……、クッソー……」


 動き過ぎたせいで小袖と呼吸が乱れる。何回も弾かれているせいか手も痺れてきた。

 喜多も自分の弱点はわかっているようだ。私の攻撃を全て防ぎながらも、自身のデッドゾーンには絶対入れさせない。本当に私を勝たせるなんて微塵もないようだ。


「お見事でした、姫様。小太刀をこっそり練習していたのはわかっておりましたが、まさかここまで上達しているとは正直思ってもいませんでした。流石は田村清顕様の子、英明なところもお父上様譲りですね」

「なによ、もう勝った気⁉ 私はまだ負けてないっての!」


 挑発するように強気の姿勢を見せるが、喜多は首を横に振った。

 もう遊びは終わりだ、と彼女の顔から甘さが消え失せる。


「いいえ、もう姫様の負けです。折角練習した小太刀も通じない、得意の足技を使いたくても間合いに入れない。もう勝機など無いではありませんか」

「勝機が無いとか勝手に決めんな! まだ一本取ってないくせに勝利宣言なんて脇役のテンプレだっつーの!」


「はぁ……、口で言っても分からないようですね」


 喜多は構え直すと、最後の一撃とばかり今までの中で一番早い突きを繰り出した。鋭い突きは私の服を支えている帯をかすめる。

 間一髪で攻撃を躱した私は持っていた小太刀を喜多に向かって――投げる。


「――――っ!」


 弾いた。私の投げた小太刀を、サイドスロー気味から放った不意の一閃を超人的な反射神経で弾き飛ばした。

 並みの人間なら避けられない距離だったのに、本当にこの侍女は……。


 けれど、目的は達成出来た。


「――いない⁉」


 一瞬、私の投じた小太刀に目がいった瞬間に、私は自分の間合いに足を踏み込む。


「――後ろ!」


 喜多は目の前に私がいない事を確認すると急速に反転し、持っていた槍で大きく薙ぎ払う。

 その目にも留まらぬ薙ぎ払いは対象物を捉えた。


 ただし捉えたのは、もぬけの殻となった汗をたっぷり吸った訓練用の道着だった。


「――はっ⁉」


 喜多の首元に伸びる一本の脚。

 私は両手で大事な部分を隠しつつ後ろに回り込み、喜多の首にハイキックを入れる所で脚を止めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ