偉大な父 前編⑥
「呼んだ?」
「ああ、呼んだ呼んだ! お前にも改めて義継殿を紹介しておこうと思っての!」
「……ええ、別にいいよ。この前にも米沢城で会ってるし」
「そんな冷たい事を申すな。儂もなーんか足らんと思っておったのじゃが、この席には華がなくてのう。これから盟友ともなられる義継殿へ、政宗の代わりにお前から酒を振舞ってやってくれ」
「だから、私はホステスじゃないんだけど」
「じゃからその〝ほすてす〟とは何じゃ?」
侍女みたいなもんじゃない、とひと言返しておく。
とはいえ、大殿からの頼みなので仕方がない。
私は酒を手に取ると、作り笑顔の畠山義継に酒をドバドバと注いだ。
「おっとっと!」
畠山義継の盃に並々と酒を注いでやった。あと数滴でも酒が入ったら盃から酒が溢れそうだ。
「これ愛姫! そんな乱暴な注ぎ方があるか!」
「コイツが余計な事をしなかったら小出森城の結果はまた違っていたのかも。だけど、それはもう過ぎた話。だからこれでチャラにしてやるって言ってんのよ」
私は決してあの光景を忘れない。
この世は戦国時代。理不尽な戦いだってあるし、納得出来ない結果だってある。
納得してくれ。と、言われればそこまでだが、私は残念ながらそこまでサバサバした性格ではない。
とはいってもいつまでも引きずる訳にもいかない。
だから、私は私なりのやり方で決着を付けるのだ。
「その酒は小出森城で死んだみんなの魂。一滴でも溢してみろ、その薄汚いネズミ面を地獄に送ってやんよ」
「――ひっ!」
ガタガタ、と盃を持つ畠山義継の手が震える。
ゆっくり、ゆっくり……。両目を限界まで開き集中しながら、畠山義継は盃に入った酒を一滴も残さずに飲み干した。
その姿を見て自然にため息が出た。
これで許してしまって本当に良いのか……と。どうせだったら溢してくれたほうが楽だったのかもしれない。
「……え?」
畠山義継は疑問の声を上げた。
「何?」
「いえ……、これはいったい……」
「アンタの酒がなくなったから注いでるんじゃない。何か文句あんの?」
「い、いえ! 有難く頂戴致しまする!」
並々にはもう注がない。
それを見て大殿も安心したような顔をする。
「良かったのう義継殿。愛姫が許したという事は、政宗が許したに同じぞ」
私はそんなつもりではないのだが……まぁいいか。
もうこれで終わりにしよう。これ以上は……。
そう私は心の中で終わりにした。無理矢理、小出森城の戦いという物語を完結させてしまったのだ。
だが、今思えばこれは私がこの世を生きて最大の油断であり、最大の汚点でもあり、私の開いた最悪な物語の始まりだった事をまだ知らない。




