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伊達政宗2⑤

 天正十三年(一五八五年) 八月二十四日。

 前日の大雨により一日遅れの小出森城攻略が始まった。


 西からは伊達成実を先鋒にした伊達精鋭衆、東からは田村清顕を先鋒とした田村軍が城を挟むように囲み、残りは本陣からの狼煙待つ状態となった。


「……降伏の使者が現れる様子はございませんな。それと聞いていたより数が多い。倍はおるのでは?」

「黒脛巾組が数を間違えたとは考えにくい。だとすれば、女子供も戦場に駆り立てたか」


「どう致しましょう。もう一度こちらから降伏の使者を向かわすというのは?」


 前情報で小出森城にいる兵の数は精々千ちょっとだったのだが。

 それに比べ、伊達軍は約八千。田村軍を入れれば万に近い数で包囲している。


 それでも数の違いは圧倒的。

 更に、小出森城は改修が全て終わっていない城のため、防御面でも不安が残る城でもある。


 力攻めひとつで簡単に陥落しそうと誰もが思うだろう。

 だが、それでも小出森城にいる大内定綱は降伏をしなかった。


「フン、今更詫びても遅いわ。この独眼竜を裏切った事をあの世に行っても後悔させねば気が済まん」

「では、予定通り」


「ああ、小十郎に城攻めを知らす狼煙と法螺貝を鳴らせと伝えよ! 小出森城を廃塵にしてやるのじゃ!」

「ははっ」


 政宗の号令で〝小出森城の戦い〟は始まった。

 西と東。小出森城を挟むように、伊達軍と田村軍の猛攻が開始される。


 高台から見下ろす政宗の目にもその戦況は圧倒的だった。

 あまりの数の違いに大内兵は圧倒され、後ろで待機する兵士達は戦意を失ったのか城の中に戻ってゆく。


「何が大内の智将じゃ。圧倒的数の前では知略なんぞ無力と知るがよい」


 次々と大内軍の守りが崩れていく。

 そして、予定よりも早く伊達軍は小出森城の門前近くまで侵攻を完了した。


「殿!」


 そんな時だ。

 片倉隊の伝令兵が政宗の下にやって来た。


「お前は小十郎のとこの……、どうした?」

「はっ、実は――」


 政宗は片倉隊の伝令兵から戦場の異変を聞く。


「カカシ……?」


 カカシである。戦場のいたるところに農業用のカカシが大量に設置されていたのだ。

 それこそが、大内兵が事前に調べた数より多く見えた元凶であった。


「大内定綱め、そんな事で儂が怯むと思っておったのか。……で、小十郎はなんと?」

 

 これまでの侵攻があまりに順調すぎると。それと小出森城の守兵共のほとんどは戦う意思が薄くすぐに逃げ出すため、それも怪しい。

 小十郎は城近くまで誘われているのではないかと疑っており、一度撤退し、もう一度調べを入れるべきではないか。


 と、伝令兵は伝えた。


「城は目前ぞ、それを見逃して一度退くなど……」


 さっさと攻めて終わらせてやろう。勿論、それが政宗の本音である。

 だが、あの小十郎が危険だと警鐘を鳴らしている。自身の右眼ともいえる小十郎がだ。


「……、お前もか」


 閉じた右眼がピクリと疼く。

 悪意を見破る【竜ノ眼】。それもこれ以上は危ないと、政宗の攻めっ気を抑えようとしているように感じたのだ。


 はぁ……、と一息吐く。

 仕方ない、と政宗は小十郎と自身の右眼を信じる事にした。


「しょうがない。一度撤退させ、再度調べを入れる。小十郎にはすぐ本陣に来るように――」


 政宗が伝令兵に言葉を伝えようとした、その時。

 上空から政宗の前にひとつの影が現れた。


「柳原か」


 政宗の前に現れたのは黒脛巾組の頭領の柳原戸兵衛(とへい)だった。

 何やら表情が芳しくない。


「どうした?」

「至急、兵をお引きください。このままでは挟撃の恐れが」


「お前もか。それと何を言っておる、いったい誰が挟撃なんぞ――」


 すると、戦場で異変が起きた。

 田村隊の後方を支援する片倉隊が反転していると思えば、どこかの隊と交戦に入っている。


 それだけではない。

 複数の鬨の声が聞こえると共に小出森城が開門し、中から大内兵が飛び出して来たのだ。


「何じゃ⁉ 小十郎達は今誰と戦っておる⁉」

「蘆名兵にございます」


「蘆名兵じゃと⁉」


 柳原戸兵衛は何故蘆名兵がここにいるのかを政宗に説明した。


「蘆名軍を指揮するは執権の金上(かながみ)盛備(もりはる)。それと一門の猪苗代(いなわしろ)盛胤(もりたね)もいる模様」

「数は⁉」


「およそ千五百から二千」

「そんな数の援軍が入っているのを今の今まで何故気付けんかった!」


「昨晩の大雨と濃霧が敵の気配を消してしまったかと」

「――!」


 政宗は昨日の左月の言葉を思い出した。

 日本の三大奇襲戦では常に雨が味方となり、劣勢と思われていた大名が大大名達を打ち破ったのだ。


 さっきの右眼の疼きも自分へ向けられた悪意ではない。

 政宗が自身の右眼と慕っている小十郎に向けられた悪意であると思えば合点がいく。


「となると、西は⁉ 愛はどうなっておる!」


 こっちに蘆名の伏兵がいたとなれば、反対の西側でも伏兵がいるはずである。

 そうなれば後方の愛姫隊が危ない。


「西には畠山軍、数はおよそ千。おそらく殿のいる東側に多くの兵を配置したのかと」

「んな事はどうでもよい! 愛はどうなっていると聞いておる!」


「姫様については同じく頭領の世瀬(よせ)蔵人(くらんど)が忍び衆を引き連れ警護へ向かいました。お打もおりますし問題なかろうかと」

「そ、そうか……」


 今の愛姫に不安の事があるとすれば、奇襲による不意打ち。

 戦闘面では心配していないものの、愛姫は女である。


 いくら愛姫が強いとはいえ、周りに喜多や左月が守っているとはいえ、どうしても心配になってしまうのだ。


「殿はどうなさいますか?」


 柳原戸兵衛の問いを、政宗は鼻で笑った。


「どうするか? 決まっておろう」


 政宗は刀を抜き、正面に突き付ける。


「政宗隊、出陣じゃ! 武器をを持て、鬨の声を上げよ! 蘆名軍に伊達武者の恐ろしさを刻み込んでやるのじゃ!」


 ――――――――――


 遂に、政宗本隊の動く法螺貝が鳴った。

 政宗本隊は本陣から飛び出すと、片倉隊を攻撃している蘆名隊の背後を捉える。


「あれが蘆名兵じゃ! 者共、儂に後れをとるでないぞ!」


 鬨の声と共に政宗隊が蘆名伏兵隊を攻めたてた。

 片倉隊と挟撃する形となってしまったため、蘆名軍の隊列は大きく乱れた。


「後ろから敵軍だぁぁ!」

「み、三日月の前立に漆黒の外套(がいとう)! ま、間違いねぇ……アイツは伊達の大将 伊達政宗だぁぁ!」


 自ら先頭を走る政宗隊の士気は非常に高い。

 その圧倒的なスケールに、蘆名兵はなすすべもなく倒れていく者、逃走する者が後を絶たない。


「フハハハハ、キサマ等の血をよこせ! この甲冑を更に濃く塗り上げてくれるわ!」


 荒々しい言葉には似合わない滑らかな動きで敵兵を次々に倒していく政宗。

 グネグネとまるで蛇が地面を這うように……いや、天空を舞う竜が如く不規則な動きで敵を翻弄する。


「りゅ、竜じゃ! こ、殺される!」

「ひぃぃ!」

 

 政宗の動き、気迫、そして圧倒的な強さに竜の残像を見る蘆名兵達。

 ものの数分で一帯の蘆名兵を全滅させると、政宗は片倉隊の家臣と合流した。


「殿、援軍かたじけない!」

「よいよい。それより小十郎はどこにおる?」


「はっ、小十郎様は現在蘆名の家臣 猪苗代と交戦中で……って殿後ろ‼」


 残党、討ち漏らしが残っていた。

 身体が傷だらけの蘆名兵三人が同時に政宗の背後から斬りかかる。


「もらったー‼」


 政宗もその気配には気づいていた。

 後ろを振り向くと共に、勢いで甲冑に纏った外套が大きく靡く。


「へ?」


 飛び掛かる蘆名兵の動きがピタリと止まった。

 それどころか三人の喉元はパックリと開き、紅い鮮血で足元を染めあげる。


「な……なんで……?」


 何故、自分達が血を流しているのか理解出来ない蘆名兵達。

 意識が遠のく中、倒れると同時に、政宗の外套からキラキラと光るモノを確認した。


「し……仕込み……刃……」

「竜の鱗はよう切れるであろう」


 政宗の質問に蘆名兵達が答える事はなかった。

 喉元をやられた事が致命的となり、三人はその場で倒れ息絶えた。


「で、小十郎は?」

「はい! 小十郎様は現在蘆名の猪苗代と交戦中です!」


「わかった。お主はこのまま他の隊にあたれ。儂が小十郎と合流する」

「ははっ!」


 政宗は片倉隊に指示を残すと、そのまま小十郎の戦う猪苗代隊に合流した。

 政宗が合流した事で猪苗代隊は劣勢となり、軍を撤退。


 これ以上の戦闘は分が悪いと感じたのか、蘆名奇襲隊の大将 金上盛備は全軍を撤退させ、自領の蘆名領へ戻って行った。

 しかし、政宗がそれを知るは二日後の事。政宗は作戦を変えるため、各将を本陣に呼び寄せるのだった。

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