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博乱の八咫烏④

「ここを右に曲がって……、次の大通りを左……か」


 慣れない地図を片手に、私は米沢の町中を歩く。

 本当ならスマホに搭載された音声ナビ付の地図アプリで知らない場所でもスイスイと進むのだが、この時代にそんな便利な機械など存在しない。あるのは、たった一枚の筆で書かれた地図だけだ。


 この辺りに詳しい人間であるのなら、この地図でも問題はないと思う。

 だけど、私は違う。


 この時代に来て大体三年が経過したが、常に城下町へ出られるわけではないため、憶えられる範囲に限界がある。

 それに左月を筆頭に監視の目もある。危ない所には常に城の役人たちが目を光らせており、捕まってしまえば即城戻りだ。


 今では喜多付きなら外出を許可されているが、それでも一週間に一回と制限されている。

 ただでさえ外出出来ない週もあるというのに、これで地理を覚えろと言われても結構無理な話なのだ。


「ここ……?」


 何とか辿り着いた先で目にしたのは、巨大なお屋敷だった。

 入口の門には小判の絵が描かれており、屋根には木彫りの虎が堂々と二頭飾られている。招き猫ならぬ『招き虎』である。


 グルリと屋敷の外を外周してみたが、どうやら入り口は正門と裏口のふたつだけ。

 ただし、裏口に関しては正門と違い随分とこじんまりとした造りになっていた。鋼鉄製でお金がかかっていそうだが、多分日常ではほとんど利用していないのだろう。


 そして肝心の正門だが、ここは雇われの門兵らしき男達が立ち話をしていた。

 米沢城の門兵とは違い、随分と気が抜けている。主がその辺りに関しては甘々なのだろうか。


 一通りターゲットの住む屋敷の外側の偵察を終える。

 後は、お松の娘が屋敷の何処にいるかなのだが……。


「おい、お前」


 私の動きが怪しかったのか、門兵のひとりが近付き声を掛けられた。


「さっきからなんだ、ジロジロと。銭虎の旦那に用か何か?」

「いやぁ随分と立派なお屋敷だなぁと思ってね。お兄さん達もずっと立ちっぱじゃ大変でしょ? 誰か交代でもしてくれれば良いのにね」


「ああ、分かってくれるか。だけど、別に俺達も一日中あそこにいるわけじゃないぞ。夜になったら夜勤の奴と交代だ。こんなつまんねえ仕事一日中やってられるかよ」

「へぇ……夜にねぇ……。そうだ、ちょっとお兄さんに聞きたい事があるんだけど……」


 それから門兵は気が緩んだのか、私が屋敷の事を尋ねると話せる範囲で色々と話してくれた。

 城の役人とよくつるんでいる事。

 

 屋敷に入っている女の事。

 最近若い用心棒を雇った事。……などだ。


 流石に長話が過ぎたのか、奥の門兵に呼び戻されてしまったので、男は自分の持ち場に戻ってしまった。


「なるほどねぇ。こりゃあ良い事聞けたわ」


 ――――――――――


 門兵との話をまとめよう。

 まずは、銭虎の悪事が城に届いていない件についてだ。


 これは銭虎が城の役人に口止め料を払い、飼いならしている可能性がある。

 しかも複数人。米沢の治安を担当している奴は全員調べ上げたほうが良いだろう。


 次は、屋敷の中にいる女達について。

 依頼人のお松の娘がいるかどうかは分からなかったが、銭虎の気に入った娘達はとある部屋で生活を共にしているらしい。


 それも雑に扱われているわけでもなく、生活はどちらかというと裕福に近いそうな。

 ただし、銭虎はすぐに飽きる性分らしく、興味がなくなった娘は捨てられるらしい。


 その後、その娘がどうなっているかは分からない。噂ではどこかの商人が買っているとか。

 そのため、皆嫌々ながらも銭虎の機嫌を損ねないように奉仕しているようだ。


 後は、若い用心棒について。

 元々金で雇っていた用心棒はいるのだが、最近になって追加で若い用心棒を雇ったらしい。


 これがかなりの癖者らしく、腕は申し分ないのだが、性格と趣味に難ありの訳アリ用心棒のようだ。

 なんでそんな奴を雇ったのか皆疑問だったのだが、それらのマイナス補正を含めて銭虎はその用心棒を能力を高くかっているらしいのだ。


 他にも色々教えてくれたが、とりあえず使えそうな情報はこんなところだろう。


「とりま、一度店に戻って作戦会議だわねー」


 そう考えながら帰る途中、とある店の前に人だかりが出来ていた。

 店の名前は『半丁大月』。この時代の限られた娯楽のひとつ、丁半博打を生業としている店だ。


 そんな人を選びそうな所で人だかりとは喧嘩でもあったのだろうか。

 人混みに紛れ込んで店内を覗いてみると、そこでは片方の肩を露出した男と黒髪の少年が言い争いをしていた。


「このクソガキ、博打で散々負けといて払う金がねぇとはどういう事だ!」

「オイラはイカサマするような店に払う金はないって言ってんだ! そうじゃねーと半が十回連続で出るか、バーカバーカ!」


「な……何を言うかっ!」


 博打屋でよくあるいざこざだ。

 大抵このパターンは客側が悪いのだが、十回連続で半……か。確率でいえば約千回に一回程度と言ったところ。確かにありえなそうな確率ではあるが……。


「これだ! このサイコロがいけないんだ!」


 黒髪の少年はそう叫ぶと、壺振りが先ほどまで使っていたサイコロに飛びつく。


「このガキ、何をする気だ⁉」


 少年の奇妙な行動に焦った壺振りが剥がしにかかる。それを見てか、店の店員ふたりも加勢した。

 三対一で少年に大人三人がかかるなんて大人げない。


「やめなさいアンタ等‼ 子供相手に大人三人とか恥ずかしくねーのか!」


 とても見ていられなかったため、私は喧嘩を止めるために店内へ飛び込んだ。


「何だテメー、女は引っ込んでろ!」

 

 止めるつもりはないか。なら、少々手荒になっちゃうけど。


「姉ちゃん! コレッ!」


 私の足元にサイコロがふたつ投げられた。偶然にも賽の目の合計は偶数となっている。

 三人に蹴られながらも、少年は私に先程奪った向かってサイコロを投げたのだ。


「そのサイコロはイカサマだ! 姉ちゃん頼む、そのサイコロを調べてくれ!」

「このクソガキ、まだそんな事を言うか!」


 男達の暴行は止まらない。イカサマだと言われたサイコロなんて目に入ってないのか、うずくまる少年をサッカーボールのように蹴り続ける。


「やめろって言ってんだろ! だったら今すぐこのサイコロを調べる、それなら文句ねーな!」


 私の叱責に、男達は乱暴を止めた。

 その内のひとり、片方の肩を露出した壺振りが私に近づいた。


「ほう、どうやって調べる気だ? 下手な動きでもしたら女といえど容赦せんぞ」

「どうって……こうやるのよ!」


 私は思いっきり、片足で少年から渡されたサイコロを踏みつけた。

 足を退けると、サイコロは白い粉を巻き散らしながら粉々に砕け散っていた。


「これって……」


 粉々になったサイコロの中から、私はひとつの黒い塊を拾い上げる。

 どうやら……これがイカサマの正体のようだ。


「おい、これって鉛よね? 何でこんなもんがサイコロの中に入ってんだ?」

「――なっ⁉ そんな馬鹿なっ⁉」


 鉛を仕込んだイカサマサイコロ。

 特定の出目の内部に鉛を仕込むことで、サイコロを投げた時に決まった出目が出るようにしていたのだ。


 壺振りの男が更に近づき、鉛を掴んだ私の指を確認する。

 賭場の空気も一変する。イカサマをしていたと皆が理解すると、その冷ややかな目は少年を暴行していた三人に向けられる。


「あ、ありえん! このガキ相手には使っていないはず……、この俺がそんな間違いを……」

「ああ? 何を使ったってー?」


「グ……。いや、何でもねぇ……」


 これ以上は失言になると思ったのか、壺振りはそれ以上反抗するのを止めた。

 この店は明らかにイカサマをしていた。それはこの男の態度や他の店員の様子を見れば明らかである。


 だが、どうもしっくりこない。

 壺振りは焦っているというよりも、どちらかといえば『してやられた』って感じだ。


 ないはずのイカサマサイコロがそこにはあり、仕組みをバラされ、いわれのない厄災を押し付けられた。そんな顔をしている。

 何でそんな顔をするのか分からないが、コイツ等にそんな顔をする権利なんてない。


 正々堂々としたギャンブルならまだしも、イカサマをして客を食い物にしていたんだ。

 バラされて当然。必然の報いである。


「もういいだろ。その子をさっさと解放しなさい」


 私の要求に困った表情を見せるが、壺振りの指示で乱暴を受けていた男の子は解放された。

 イカサマで得た金も返すように要求するが、返す金は無いと言う。


 どうやらこの子はツケで博打をしており、負けが込んだため、店側が一度請求を申し入れたが払える金が手元になかったそうだ。

 要は、この子は一文無しで博打をしていたのである。そりゃボコられて当然だ。


 私は一文無しの男の子を連れ、店の外に出た。

 結構派手にボコボコにされていたが、男の子はピンピンしている。大した怪我じゃなくて良かった。


 が、こんな所に子供が、ましてや一文無しが来る所ではない。

 私は男の子の耳にタコが出来るぐらい説教をしてやった。


「わかった? もうこんな所に来るんじゃないわよ」

「うん、気を付けるよ。そうだ、姉ちゃん名前は?」


「私は愛ひ……じゃなかった、愛華よ。……アンタは?」

「へへ、オイラの名は(からす)ってんだ。よろしくな、愛華姉ちゃん!」

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