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神様の国なのですね


「えーっと、ごめんなさい。僕はそのゲームを知らないんです」


「ゲーム?」


「あ、すみません。漫画かアニメの方でしたか?」


「どういうことでしょう?」


「あ、いや……もしキャラクターになりきっているのならすみません。大丈夫です、僕も人のことは言えませんからアルテイシアさんのお考えは尊重しますよ」


「はあ……それはどうもありがとうございます?」


 私にはこのやりとりの意味が解らなかったが、彼に見える戸惑いにも偽りや悪意と言った感情は認められなかった。即ち、私達は至って真面目に言葉を交わしたのだ。


 そこに理由の解らない行き違いが生じるのであれば、それは間違いなく私と彼の根本にある認識が異なっているからに他ならず、それに思い当たる節があるとすれば、原因は間違いなく私の方にあった。


 恐らく私は、ここではない他の世界からやって来たのだ。


「あの……太陽様?」


「あ、様はやめてください、僕なんかに。さんとか、呼び捨てでも良いですから」


「それでは……太陽さん」


「はい、なんでしょう?」


「幾つかお聞きしたいのですが、まず始めに、ここは何という国なのでしょうか?」


 彼は一瞬驚いたような顔をした後、困ったような顔をし、それでもすぐに優しい表情に戻った。


「ここは日本という国です」


 私は全てを理解した。何故、私が何ら疑念を抱くことなく使用している言語が知るはずも無い、聞いたことも無いこの国の名を戴いているのかを。


「やはりここは、神様の国なのですね……」


「ええっ!? ……そ、そう来たか」


「捨てる神あらば拾う神あり……太陽様、私を拾ってくださり、ありがとうございます」


 私は膝を折って彼に頭を下げた。今にして思えば、逃げて行った男性陣の方々も神々であったのだから私を物のように扱おうとしたのも当然のことだったのだ。そんな神々に対しあろうことか私は攻撃魔法を使用してしまった。


 私が自責の念に囚われていると、彼は更に一層困惑し、その足を乱した。


「あ、あの! だから様は止めてください!」


「しかし神様に対し敬意を表さぬことなど恐れ多く……」


「僕は神様じゃないですよ。だって貴女のことを何一つ知らないんですから!」


「お望みとあらば何度でも名乗りましょう。私の名はアルテイシア・ローズ……」


「ああもう、設定は良いですから!」


「は、それは大変失礼致しました」


 神様の機嫌を損ねてしまうことなど万死に値する。


「如何様にも、私めをご処分なさってください」


「はああぁぁ~……」


 恐れ多く頭を上げることさえ適わないが、彼はとうとう大きなため息を吐いたようだった。当然だ、手間隙を掛けて拾った人間が私のような厄介者だったのだから。


「頭を上げてください」


「はっ!」


 見上げれば、彼は大層困ったような顔をしていたのだが、少しだけ笑っていた。その笑いが自虐だったのか、呆れだったのか私には解らなかったが、ただ一つ解ったのは、それが嘲笑ではないということだった。


「見てくださいこのアパート。これが神様の家に見えますか?」


 そう言って彼が示したその先にあった建物は薄暗く、静寂で古びた外観をしていた。入り口には錆びた鉄の手摺りがあり、踏み板は少し歪んでいる。壁には文字の擦れた広告看板と思しき物が掛けられ、所々詰まった雨樋からは直接雨水が零れ落ちていた。


 そして同じ方向を向いて幾つも並べられた古めかしい木製の扉の一つを指差して、彼は言った。


「あれが僕の家です。一応掃除はしてますが、お嫌でなければ、どうぞ」


 私は想像もしていなかった。いや、それを口に出してしまうことは憚られる。その建物は私達が暮らしてきた屋敷と比べてすら、いや、どうにも筆舌に尽くし難い。


 私は改めて彼を見た。彼は笑っていた。


 その自分を卑下するような笑みの理由を、私は垣間見た気がした。


「ね? 僕は神様なんかじゃないんですよ」


 私は何故か、救われる思いがしたのに、彼に申し訳ない思いも抱いた。


「素敵なお家ですわね」


「それは良かった。すぐにお風呂も入れますね」


「何から何まで、ありがとうございます。太陽さん」


 私は、その小さな彼の一室に足を踏み入れた。


 玄関のすぐ先がそのままリビングとなっていて、その玄関ドアの脇には古くなって一部塗装の剥げた台所。しかしその水きり場の上には綺麗に洗われた食器が規則正しく並べられている。リビングの中心には四本足のテーブルが1つと椅子が2脚。その奥に食器棚が置かれているのは解るが、その他の金属製家具については私の知識から用途を判断することができなかった。


 玄関ドアから望むその部屋の奥には更に2つのドアがあり、片方は閉ざされ、片方は開いたままとなっていた。開いたままの部屋の先から光が差し込み、それが棒状の形となって辛うじてリビングを薄暗く保っていた。


 そんな中、何ら魔法の気配も無く、突如私の視界が明るくなった。それはテーブルの真上に吊るされた照明器具の輝きによるものだった。


「これは……魔法ですか?」


 彼は困ったように笑った。


「そうですね、僕にも細かいことは解りませんが電気と呼んでいます」


 彼はリビング奥の2部屋とは離れた位置にある、もう1つのドアの脇に取り付けられたパネル上のボタンを押したりと何やら操作を始めた。


「冷えたでしょう。こちらがバスルームです。お風呂はこれから湯を張りますが、先にシャワーを浴びててください。あ、鍵は閉まりますのでご安心を」


 そう言って彼はリビング奥にある2部屋のうち、閉ざされた方のドアを開け、中から1組の衣類を持ち出して来た。


「母の服なので、少し小さいかも知れませんが」


 私はふと疑問に思った。


「あの、お母様は?」


 彼はバツが悪そうに言った。


「先日他界しまして。今は僕一人で暮らしています……あ、すみません。騙すようなことをしたかった訳では無いのですが」


「いえ、こちらこそすみません。大変お辛いことを」


「どうぞお気になさらずに」


 そう言って彼はドアの奥の脱衣所にその母の服を置いた。


「お風呂から出る頃には暖かい飲み物でも用意しておきますね」


 彼は優しくそう言ってくれ、私をバスルームへと促した。


「あ、ありがとうございます……で、ですが、その……」


 残念なことに、厚意に甘えようにも私にはそのバスルームの使い方が全く解らなかった。


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