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ネレウスの乙女

作者: 春野紗久
掲載日:2022/09/30

:「ネレウスの乙女」 作・春野紗久

メープル:(伸びをする)ん〜、いい朝っ!

メープル:今日は雲ひとつない快晴!お散歩日和ね!

メープル:今日はこのままゆっくりしたい……

0:ノックの音

メープル:ところだったんだけどなぁ……

シルフィ:(部屋の前で扉越しに)お嬢様。起きていらっしゃいますでしょうか?

メープル:ええ、起きてるわ。ちょうど目が覚めたところよ。

シルフィ:朝食の用意が出来ております。お着替えが済み次第、ダイニングルームへお越し下さい。

メープル:わかったわ。

シルフィ:本日は予定が多くございますので、なるべく早くお越し下さい。

メープル:わかってる、すぐに行くから。準備、お願いね。

シルフィ:かしこまりました。失礼致します。

0:シルフィが去る。

メープル:あーあ、今日も一日中布教活動…

メープル:勝手に「メープル教」なんてものが作られた上に、その教祖にまで祭り上げられて……こんな生活、望んでなかったんだけどなぁ……

メープル:あのとき聞こえた主の声なんて、誰にも伝えなければよかったわ……

メープル:あーでも伝えなかったら伝えなかったで多くの命が失われてただろうからきっと後悔する······

メープル:……私はジャンヌ・ダルクのようにはなれない······

メープル:そんな勇気、私にはないのだから……

メープルN:そう、私にはいつからか、主からの『啓示』が聞こえるようになった。

メープルN:思い返してみれば小さい頃からなにか特別な声が聞こえていた気もする。

メープルN:その内容は様々だった。

メープルN:

メープルN:あるときは火事、

メープルN:あるときは洪水、

メープルN:あるときは争い、

メープルN:またあるときは……誰かの死。

メープルN:

メープルN:もちろん、全てが不幸なものだけだったわけではない。

メープルN:

メープルN:あるときは穀物の豊作の知らせ、

メープルN:あるときはこの先ある災難への対策、

メープルN:あるときは長年続いた争い事の終結、

メープルN:あるときは新たな生命の息吹。

メープルN:

メープルN:全ての知らせが来るというわけではないけれども、確かな幸福もまたそこにはあった。

メープルN:

メープルN:そんな主からの啓示も、だんだんと頻度が減ってきている。

メープルN:それが良い事なのか悪い事なのかは、私には分からない。

0:ダイニングルーム・食事前

アルグナー:よぉメープル嬢、おはよーさん。

メープル:おはようございます。ん〜!いい匂いね!

アルグナー:そりゃあ今日は忙しいって言ってたからな!しっかり食べて体力つけておいてもらわなきゃ。

メープル:ふふっ、そんなお気遣いして頂かなくてもいいのに。

アルグナー:いやいや、もしそれでぶっ倒れでもしたら「料理長は教祖様に何食わせてるんだー!」って信者達からクレームが殺到するだろうよ。

メープル:その時は私が弁明致しますわ。

アルグナー:ありがとさん。

アルグナー:あぁ、あといい加減敬語はよしてくれよ。あくまでお嬢が雇い主なんだからさ。

メープル:いえ、アルグナー様は以前父の専属の護衛であり、親友でもあったのですから。それにもうこちらの方が慣れてますし、遠慮なさらず。

アルグナー:おぉ、そうかい?

シルフィ:「おお、そうかい?」じゃないわよ。まったく…

アルグナー:なんだ?シルフィ。

シルフィ:アルグナー?貴方はもう少し言葉に気をつけてください。メープル様がそうおっしゃったからと言っても、あくまで貴方はこの屋敷の使用人の一人に過ぎないのですから。

アルグナー:へいへい。

メープル:シ、シルフィ?いいのよ?そんなに厳しく言わなくても……私が言ったことなのですから…

シルフィ:いいえ!いい加減はっきりして頂かなければ他の使用人たちに示しが……

アルグナー:(途中から被せて)なぁシルフィ、早く料理運んでくれねぇか?せっかくの料理が冷めちまうよ。それに、今日は時間もねぇんじゃねえの?

シルフィ:くっ、……すみませんメープル様、料理をお運び致しますのでお席でお待ちください。

アルグナー:ほれ、はよ来い。

シルフィ:わかってるわよ。

メープル:ふふっ、仲良い♪

0:ダイニングルーム・食事中

シルフィ:………ということで、本日は三本の演説の後、昼食をとり二本の演説を。演説の内容ですが、前回の『啓示』を参考にした内容のものをこちらで用意してありますので移動中にお目を通しておいてください。また、昼食についてですが、本日は布教活動をしていた七つの使節団のうち、四つの使節団が帰還致しますのでその活動報告を兼ねさせていただきます。

メープル:………

シルフィ:お嬢様?聞いていらっしゃいますか?

メープル:うん、聞いてるわ。

シルフィ:それでは朝食を摂ったあとすぐに支度をして……

メープル:(遮って)シルフィっ!

シルフィ:……なんでございましょう?

メープル:それって……それって本当に私がしなくてはならないことなのでしょうか?啓示が聞こえると言っても不定期ですし、最近の内容もこれと言ってこの先の脅威となるものもありません。なら……

シルフィ:……お言葉ですがお嬢様。啓示を聞くことが出来るのはお嬢様しか居ないのです。この国の人々を救えるのはお嬢様だけなのです。

メープル:そう、よね。

メープル:(小声で)こんな力、なければよかったのに……

シルフィ:しかしながらお嬢様、その力で多くの民が救われた。多くの被害を事前に防げた。それがどれだけ重大なことなのか、ちゃんとご自身でも自覚してください。

シルフィ:冗談でも「なければよかった」などとは…!

アルグナー:(遮って)シルフィ、

シルフィ:アルグナー、貴方からも…

アルグナー:……一回落ち着け。せっかくの料理が冷めて不味くなっちまう。そういう話は移動中とかにしろ。

シルフィ:……分かりました。申し訳ございません。

シルフィ:お嬢様、大変失礼いたしました。

メープル:いいのよ、私がわがまま言ったのが原因なんだし……

アルグナー:…お嬢、

メープル:……はい、

アルグナー:無理、すんなよ。

メープル:お気遣いありがとうございます。

0:数時間後

メープル:疲れた〜

メープル:あーもー予定より何時間オーバー?

メープル:結局午後のティータイム削られちゃったし……いつまでこんなことを続けなきゃいけないのかしら……

アルフォンス:今日も一日大変だったみたいだね。

メープル:アルフォンス様!?すみません、気づけなくてお待たせてしてしまったようで……

アルフォンス:ううん、今来たところだから。

アルフォンス:それにしても今日は人多いけどなんかあったのか?

メープル:今日は少々会合がありまして。

アルフォンス:ってことはあれが使節団ってやつ?

メープル:はい、今日は七つの使節団のうち四つの使節団が帰って来てまして。

アルフォンス:なるほど。警備が厳しいわけだ。

アルフォンス:あんまり長居は出来ないな。

メープル:そうですね。これだけ人が集まっているのだから見つかるわけにはいけないので。

アルフォンス:あぁ、タイミングを見計らって外に出なくては……

0:シルフィがドアを叩く。

シルフィ:お嬢様?

アルフォンス:っ!

0:シルフィが扉を開く。

シルフィ:っ!?お嬢様!お下がりくださいっ!

0:シルフィがナイフを投擲する。

アルフォンス:ぐっ!!!

0:アルフォンスの足にナイフが突き刺さる。

メープル:!?アルフォンス様っ!

0:アルフォンスが窓から外の庭園に落ちる。

メープル:アルフォンス様っ!!

シルフィ:逃がしたか……

メープル:なんてことを……

シルフィ:お嬢様、ご安心ください。すぐに兵を向かわせますので……

アルグナー:いや、その必要はない。

シルフィ:アルグナー……?どうしてここに?それに「その必要はない」って……?

アルグナー:どうしてって、おまえさんが紅茶を運んでたからそのお供にってことでちょっとした茶菓子を持ってきたんだよ。

アルグナー:それと……今の侵入者は俺が追ってくる。

シルフィ:危険です!貴方より武装している兵を向かわせた方が……

アルグナー:おっと、俺がどういった経緯でここに務めてるのか、忘れたか?

シルフィ:……それでは、よろしくお願いします。

アルグナー:あいよ、ちょっくら行ってくるわ。

シルフィ:警備を強化せねばならないようですね。お嬢様、以後お気をつけください。

メープル:……………

0:庭園

アルフォンス:いってー。あークッソ、あの距離で当てに来んのかよ……

アルフォンス:避けてなければ致命傷だったな、あれ……

0:アルフォンス、立ち上がろうとする。

アルフォンス:いっ、…とっさに避けてこの有り様……

アルフォンス:しばらくは登れないなぁ……

アルグナー:よぉ、そこの坊っちゃん。

アルフォンス:っ!?誰だ!?

アルグナー:「誰だ」って、場所考えてみろ?この屋敷の使用人以外の奴がふらふらほっつき歩いてるわけねぇだろ?

アルフォンス:……なんだ、アルグナーか。

アルグナー:「なんだ」ってなんだよぉ?

アルグナー:そんな足しておいて。

アルグナー:あーあー、装備もあんな所に広げちゃって、俺以外の使用人だったら百パー捕まってるぜ?

アルフォンス:………

アルグナー:まっ、ここが木に囲まれた上から見えない場所ってのが唯一の救いだな。

アルフォンス:まったく、どうなってんだよ?あんな強い奴が居るなんて聞いてねぇぞ!?

アルグナー:あぁ、確かに言ってねぇな。

アルフォンス:戦闘になったらどう考えたって装備的にも不利じゃねぇか!

アルグナー:あぁ、そうだな。戦闘になればな。

アルフォンス:あ?何が言いたい?

アルグナー:おまえを雇ったときに与えた仕事はなんだ?暗殺か?護衛との戦闘か?違うよな?

アルグナー:「メープル・ライ・オータムの監視」。それがおまえに与えられた仕事だ。その対象との接触は命令してない。だろ?

アルフォンス:……わかってる。

アルグナー:それをどうすれば接触する展開になる?なんだ?あのお嬢様に惚れたのか?

アルフォンス:っ!?うるさい!!!

アルグナー:はぁ、ともかくだ。次はしくじるなよ?他の連中に先を越されちゃ意味がねぇ。

アルフォンス:……あぁ、気をつける。

メープルN:あれから三週間が経過した。

メープルN:あの一件からアルフォンス様は一度も来ていない。恐らくシルフィが負わせた怪我が原因。

メープルN:アルフォンス様が落ちた後アルグナー様が見に行ったところ居なかったって…

メープルN:無事に逃げられたのか、心配だなぁ…

メープル:はぁ、今日も来ない、かぁ……

メープル:アルフォンス様、元気にしてるかなぁ……

アルフォンス:どうしたんだい?そんな暗い顔をして。

メープル:わっ!アルフォンス様!?もー!びっくりさせないでくださいっ!

アルフォンス:おっと失礼、窓のノックくらいするべきだったかな。

メープル:そうですね。もっと気配があってくれてもよかったのに。

アルフォンス:いやいや、気配隠してないと巡回してる人たちにバレちゃうでしょ。この前のメイドみたいに。

メープル:そう…ですね。

アルフォンス:そうだよ笑

メープル:…その、あの時のお怪我はもう大丈夫なのでしょうか?

アルフォンス:まぁ、完治とまでは言えないけどこの通り、木を伝って三階のこの部屋にまで来れるところまでは治ったよ。

メープル:そうですか……

0:メープルが頭を下げる

メープル:先日は我が屋敷の使用人が大変無礼なことを致しました。申し訳ございませんでした。

アルフォンス:謝る必要なんてないよ。

メープル:しかし、そのような怪我を負わせたのは…

アルフォンス:ここは君の屋敷だ。本当だったら正面から訪ねなければならない。

アルフォンス:なのに、こうやって人目を避けて君に会いに来てる。それはもうただの侵入者だ。

アルフォンス:だから、君の使用人の方が正しい。

メープル:………

アルフォンス:よし、暗い話はこの辺にして、いつもみたいに……

0:ノックの音

アルフォンス:おっと、今日は話せそうにないね。

アルフォンス:それじゃあまた今度!

メープル:あっ…

0:アルフォンスが木を伝って庭園の方へ消えていく。

シルフィ:お嬢様、失礼致します。

0:シルフィがメープルの部屋に入る。

シルフィ:お嬢様、何やらお嬢様以外の何者かの声が聞こえたような気がしたのですが……

メープル:(頬を膨らませ)もう!シルフィはいつもいつもいいところで〜!

シルフィ:?お嬢様?

0:夜

アルグナー:小僧、新しい命令を追加する。

アルフォンス:あ?なんだ?

アルグナー:『現在の監視対象の抹殺』だ。

アルフォンス:……は……?

アルフォンス:おい待て、『現在の監視対象』ってことは……

アルグナー:メープル・ライ・オータムの抹殺だ。

アルフォンス:ふざけるな!?どうして彼女を!?

アルグナー:おいおい、忘れたか?俺が雇い主でおまえが……

アルフォンス:そんなことどうだっていいっ!なんで彼女を殺さなきゃならないんだ!?

アルグナー:そりゃ金があるからだよ。一族の財産と多額の活動資金がよ。そのためにあの小娘に協力してきてやったんだ。

アルフォンス:そんなこと……させないっ!

0:アルフォンスが剣を抜く。

アルグナー:ほぉ?お前に剣を教えたのが誰か、忘れたか?

0:アルグナーも続いて剣を抜く。

シルフィ:何者だ?

アルフォンス:!?

アルグナー:おっと、ナイスタイミング。

アルフォンス:この前のメイド……!

シルフィ:貴様……この前の侵入者か。どうしてこんなところに……

アルグナー:そうなんだよ、ふらっとほっつき歩いてたら偶然この侵入者と出くわしちまってよぉ。

アルグナー:この小僧の処理、頼めるか?

シルフィ:あぁ、そういうことか。そういうことなら……

アルフォンス:待ってくれ!俺じゃなくこいつを…!

シルフィ:はぁぁぁぁ!!!

0:刃が空を切る。

0:その刃が向かう先は………

アルフォンス:!?

アルグナー:おっと危ねぇ。どういうことだ?シルフィ?

シルフィ:悪いが貴様らの会話はずっと聞いていた。もちろん、ここ以外での会話も、だっ!

0:シルフィ、剣を振り下ろす。

アルグナー:おっと、盗み聞きとは趣味が悪いねぇ。だが目的は果たさせてもらうぜっ!

0:アルグナーがその場から立ち去ろうとする。が、シルフィの刃が再びアルグナーを狙う

シルフィ:はっ!

アルグナー:よっと、暴力的な女は嫌われるぜぇ?

シルフィ:女である以前に、私はメープル様を護る騎士だっ!

0:シルフィの剣をギリギリのところで躱す。

アルグナー:いやいや、女であることの方が先だろって、のっ!

0:アルグナーが剣を振るう。

アルグナー:そうそう。残念だがなぁ、今日この屋敷にいる使用人のうち、おまえと門番以外はこっち側でなぁ。俺が行かなくても勝手に死んでくれるぜぇ?

シルフィ:姑息なっ!

アルグナー:さぁどうする?今すぐ小娘の方に向おうとしたところで俺に背中を切られるか、それともここで切られるか、さぁ、選べよぉ!

シルフィ:くっ、

0:シルフィの視界にアルフォンスが映る。

シルフィ:っ!そこの少年!今すぐお嬢様の所へ走れ!

アルグナー:おっと、行かせると思ってるのかっ!

0:アルグナーがシルフィを振りほどこうと剣を振るう。

シルフィ:っ!こいつは私が止める。だからさっさと行けっ!

アルフォンス:あぁ、わかった!恩に着る!

0:アルフォンスがその場から立ち去る。

アルグナー:ほぅ、てっきりアイツに俺の相手をさせるもんかと思ったけどなぁ?

シルフィ:彼では貴様相手だと力不足でしょうからね。

シルフィ:それにあの目、信用に足りるかと。

アルグナー:そうかいそうかい。それじゃあここもさっさと終わらせなきゃなぁっ!

メープル:あら?なにやら騒がしいような……

アルフォンス:はぁ、はぁ、はぁ、ぶっ、無事か!?

メープル:アルフォンス様!?どうなさったのですか!?とりあえずお水を·····

アルフォンス:メープル!!今この屋敷はメープルを暗殺するための刺客たちで溢れてる!今すぐ逃げるぞ!

メープル:待ってください!暗殺するため?どういうことですか!?それにシルフィは!?アルグナー様は!?

アルフォンス:アルグナーは暗殺の首謀者だ!あのメイドはいまアルグナーを止めてくれてる!逃げるなら今しか……

アルグナー:逃がすと思ってんのか?小僧…!?

アルフォンス:なっ!?メイドは!?

アルグナー:さぁ?下でおねんねしてんじゃねえか?

シルフィ:(被せて)そんな訳ないでしょっ!!!

0:シルフィが剣を振り下ろす

アルグナー:おっと、まだ立てるのか。

シルフィ:ふぅ、一瞬落ちかけたけど何とかね。

アルグナー:逃げりゃ良かったのに。

シルフィ:えぇ、もちろん逃げるわよ?貴方を倒したら、ねっ!

0:シルフィの剣がアルグナーを狙う。

アルグナー:うっ、避けきれねぇ……なんだ、それ。

シルフィ:何って見ればわかるでしょ?私のダーリンよ?

アルグナー:うわ、まためんどいのを持ってきたなぁ……

アルグナー:もしかして【剣姫】って呼ばれてたときの愛刀か?

シルフィ:えぇ、そうよ。ダーリンの錆になれることを光栄に思いなさい?はぁぁぁぁぁ!!!!

アルグナー:おいおい、さっきよりキレがいいじゃねえか?

シルフィ:そりゃダーリンだもん♪愛の力、とくと味わいなさいっ!

アルフォンス:ほら、メープル!今のうちに逃げるぞ!

メープル:わかりました。行きましょう。

0:メープルの部屋から廊下・階段を利用しつつ外に向かうが、大勢の使用人たちが道を塞いでいる。

メープル:まさか皆さまも…?

アルフォンス:(息を大きく吸って)聞け!ワズベルト・アルグナー一行によってメープル・ライ・オータムの暗殺が企てられた!聞くところによるとこの屋敷のほとんどのものがその手先だと聞く!それと無関係の者は去れ!残る者及び向かってくる者は全て斬る!

0:誰一人動く気配が無い。

アルフォンス:(溜め息)はぁ、全員斬るしかないのか……

アルグナー:ふぅ、なかなかに粘るねぇ。流石は【剣姫】、ブランクなんて感じねぇ腕だな。メイドなんかよりそこらの騎士団の方が向いてるんじゃねぇか?

シルフィ:残念、今はメープルお嬢様専属の騎士をやっておりますので。それに貴方こそ、現役を退いてる割には訛ってないわね?

アルグナー:そりゃ実力もあり、絶対寝返らねぇようなめんどくせぇメイドが居るから、なっ!

シルフィ:…目的は、

アルグナー:あぁ?

シルフィ:目的はなんだ?やはり金銭か?

アルグナー:その通り。一族の財産とメープル教の活動資金はかなりの額になる。が、今までに奪われるどころか、そういう手の者が来ることすらなかった。何故か分かるか?

シルフィ:なるほど、なっ!

0:シルフィがアルグナーを靴で蹴り飛ばし、距離を置く。

アルグナー:いっ、仕込みナイフか。

シルフィ:それではそういう手の者は全て貴方がたが追い払っていた、そういう解釈で宜しいですね?

アルグナー:あぁ、害虫どもに横取りされちゃたまんねぇからな。

アルグナー:その中に手配中の賞金首どもがゴロゴロ居やがったおかげでうちの雑魚どもにもそこそこいい装備を準備してやれた。残念ながらあのガキには勝てねぇだろうがな。

シルフィ:と、言いますと?

アルグナー:あの雑魚どもは自分の装備と腕を過信しちまってるところがある。

アルグナー:せいぜい足止めにはなってくれるだろうがな。

シルフィ:足止め、か。

アルグナー:あぁ、アイツらは所詮駒だ。消費するだけの兵に過ぎない。

シルフィ:………

アルグナー:ってことでシルフィ、おまえにはここで死んでもらう。

シルフィ:言い残すことは…

アルグナー:あぁ?

シルフィ:言い残すことは、ありませんね?

アルグナー:(笑い飛ばす)はっ、まさかこの状況でまだ勝てるとでも?

シルフィ:確かに他に誰かいればどういう状況になっていたかは分かりません。ですがこの場は一対一、「必殺の一撃」を使うのは一回限りでことが足りる。

アルグナー:何が言い…なっ!?

シルフィ:効き始めましたね。

アルグナー:(苦しみながら)まさか…神経毒…か…!?

シルフィ:えぇ。

アルグナー:…靴…か…?

シルフィ:はい。だから「必殺の一撃」。二度目は躱されるか靴を斬られるかして通じませんので。

アルグナー:この野郎…!

シルフィ:せめて信頼出来る仲間のひとりやふたり、作っておくべきでしたね。

シルフィ:それでは、お嬢様のところに戻りますので。さようなら。

0:シルフィがアルグナーの首を切断する。

シルフィ:貴方はいつから道を間違えたのか…お勤め、ご苦労様でした。

アルフォンス:はぁ、はぁ、はぁ、

メープル:アルフォンス様!ご無事ですか!?お怪我とかは……

アルフォンス:大丈夫、怪我はない。何とか片付いた。

アルフォンス:メープルこそ、怪我、ないか?

メープル:私は大丈夫です。

メープル:それにしてもこの人数……ほとんどの者が寝返っていたのですね……

メープル:やはり……私に信用がないが故に……

アルフォンス:いや、コイツらは金に目が眩んだだけだ。君のせいじゃない。

メープル:…………

アルフォンス:気にするな。それよりまだ他にも潜んでるかもしれない。早く屋敷を出よう。

メープル:そうですね。具体的な人数までは分かりませんし。

アルフォンス:しかし……どこに逃げればいいのか……

メープル:と、言いますと?

アルフォンス:街のほうに逃げようにも連中がそっちで待機してるかもしれないし、かと言ってここに残るわけにも……

メープル:それなら街とは反対方向に位置するあの山はいかがでしょうか?登っていくと広大な草原が拡がっています。万が一追っ手が来たとしてもすぐに気づけるはずです。

アルフォンス:わかった。その山に行こう。

0:草原に到着

アルフォンス:よし、誰も居ないな。それにしてもよくこんな場所知ってたな。屋敷から近いって訳でもないのに。

メープル:小さい頃よくシルフィが連れてきてくれました。父が亡くなり、何か考え事をするときもここに……

アルフォンス:そうだったのか。

アルフォンス:とりあえず夜明けまでここに居るとして、そのあとはどうするべきか……

メープル:シルフィが来るまで待ちましょう。彼女ならきっとここに来るはずですから。

アルフォンス:そうだな。しばらくはここで……

0:メープルの周りだけ妙に明るくなる。

アルフォンス:なんだ!?何が起こって……

メープル:これは…おそらく主からの啓示です。少し離れたところで待っていてください。

アルフォンス:……わかった。

0:真っ白な世界。

メープル:主よ、なんなりとお申し付けください。

主:久しぶりね、メープル。こうして会うのも半年ぶりかしら?会うと言っても貴女の頭の中でだけどね。

メープル:はい。この半年間は主のお声のみでしたので。

主:ところで、今日はどうしてこうやって会いに来たと思う?

メープル:それは…使用人たちに見限られた私に何かしらの罰を…

主:違うわ。

メープル:…では、主のお言葉をお聴きした上で上手く物事に対処できなかった私を…

主:あーもー!そういうことじゃなくて!うーん、どこから説明すればいいのかなぁ?

メープル:と言いますと?

主:とりあえず、この先貴女に話しかけることはなくなります。

メープル:やはり、私なんかじゃ…

主:最後まで聴いて!

主:えっとね、もともと私の仕事は「こちら側に来れる素質を持った人間を導くこと」なの!要は神候補の教育係ね。そして貴女は一定水準まで到達した。だから残る私の仕事は一つだけなの。

メープル:その仕事とはどういったことなのでしょうか?

主:……千里眼の授与よ。

主:もちろんすぐに使えるって訳じゃないから残りの人生で使いこなせるようになった後、天界に行って神になるためのいろいろな教育を学んで、それで神として人々を導いてもらいたい。

メープル:千里眼!?それに……私が…神様に…?

主:えぇ。だから、はい。

0:主の両手がメープルの両目を覆う。

主:これからはその眼を育てていきなさい。そして、人々を導きなさい。これが私からの最後の言葉です。

メープル:…………

主:それじゃあね〜!

メープル:あっ…行ってしまった……

0:光が静まり、メープルの視界がもとの草原に戻っていく。

アルフォンス:大丈夫か?

メープル:えぇ、何とか。

シルフィ:お嬢様!やはりここにいらっしゃったのですね!

メープル:シルフィ、決めました。

シルフィ:お嬢様?

メープル:私は…これからは多くの人を導いていきます。より良い世界にするために。

シルフィ:お嬢様……わかりました。これからもお供させていただきます。

メープル:よろしくね。シルフィ。

0:数日後

アルフォンス:メープル。

メープル:アルフォンス様。もう発たれるのですか?

アルフォンス:あぁ、世話になったな。

メープル:少し、寂しくなります。

アルフォンス:大丈夫、近くに来ることがあれば立ち寄るから。

メープル:お気遣い、ありがとうございます。

アルフォンス:それじゃあ、またな。

メープル:はい。お気を付けて。

メープル:主の御加護があらんことを。

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