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キル・ゾーン  作者: 鴻江駿河
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第八話「害」

 その後、地下三階で合流し、二十五人ばかしぶっ殺してから出口から堂々と脱出した。


「へえ、ここって表向き保育園の格好をしてたのね」


 外に出てはじめてこの施設の外観を知った。元々別に出口はあったのだが、ここいらを制圧したときにちょうど保育園の真下にあることをいいことにカモフラージュ代わりにしたのだろう。保育園は中身をぶっこ抜かれてエレベーターを設置させられていた。子供たちを育む施設で生物兵器とか育んでたのか、恐ろしいな。


「このトラックどこで拾ってきたんだ?」


 駐車場に止まっているトラックを見て誠が言う。ちなみに、先ほどまで四人だったのが合流するだけ合流した結果十人にまで増えている。増えすぎだろ。


「ウラル375D、エンジンをディーゼルに改造済みの敵さんが使ってるやつだよ。わざわざそれ乗って弾薬箱届けに来てくれたから助かった」


「兵士を弾薬箱扱いするな」


 未黒ほどではないが身長の低い、黒い長髪に赤い瞳の少女が放った発言に誠が突っ込む。身長はおおよそ百五十センチくらいだろうか。未黒より十センチくらいは高い。未黒が低身長なので、まあ、どんぐりの背比べというやつなのだろうが。


「とりあえずさっさと出たほうがいい。じき増援が来るぞ」


 と、この中だと一番身長が高い男が言うので全員でトラックに乗って脱出した。脱出に手を貸したのは男二、女三の割合だ。


「あのさ、俺が聞いてた限りだと男二:女二の割合だったはずなんだけど。そこの子誰?」


 俺は誰に言うでもなく訊いた。


「あー、それを解説するついでに改めて自己紹介もするか。そっちも予定にない人間が何人か混じってるし」


 そう言うと、この中で二番目に身長の高い男が自己紹介を始めた。


「俺は司 柊(つかさ しゅう)だ。多分言ったと思うが元々向こう側の人間だ。裏切りまくって今ここにいるがこれ以上裏切る予定はない」


「何でこんな元敵側の人間が多いのさこの集団」


 俺は思わず呟いた。俺も誠も、追加でこいつまで元敵側と来た。もう不安要素しかないよこの集団。


赤間 禱(あかま いのり)。私の名前は全部司君がつけてくれた。元々は人体実験の被検体」


 もっとヤバいのがいた。危険性が高すぎるぞ、こいつ。てか、なんで司は禱の名付け親(ゴッドファーザー)になってるんだ。


「えーっと、で、運転席に座ってる方が八弥 徹(はちや とおる)。助手席に座ってるのが御影 楓華(みかげ ふうか)。どちらも敵陣中央突破して群馬から東京まで逃げのびてきた生存者(サバイバー)だ」


 二年前の事件以降、特に群馬から生きて逃げられた人のことをサバイバーと呼ぶようになった。で、今運転席に座っている二人はどうやらサバイバーの中でもかなり本気でサバイブしてきた二人らしい。事前に聞いてはいたがここまで普通の少年少女然としているのを見るとその話が本当なんだか疑わしくなってくる。


岩永 敦司(いわなが あつし)。無駄に二年間もあそこに閉じ込められてた」


「あ、私は秋山 瑞希(あきやま みずき)、敦司君のいとこだよ」


 と、俺の右隣りにいる少女が言う。こいつは俺なんかより酷い状況下に二年間もいたのに平然としている本物の狂人だ。ロクな食事も与えられなかったはずなのにお肌ピチピチなのは一体どういう現象なのだ。


「あ、こっちは涼風 未黒(すずかぜ みくろ)。色々不明だけど少なくとも心配のいらない存在だよ」


 俺は左隣に隠れるように座っている未黒を軽く紹介した。正直不明な点が多すぎてどう説明していいやらわからなかった。まあ、こう説明しておけば一切問題ないだろう。未黒はこんな閉鎖空間に男と一緒にいることがよほど怖いのか必死に闇に溶け込もうとしていた。幸いなことに服も髪も黒いので結構カモフラージュになってる。


東堂 誠(とうどう まこと)だ、敦司からはよく悪役っぽいネーミングだと言われてる。俺はそんなことないと思うんだけどな」


「私は楠 彩(くすのき あや)。死にそうになったところを助けられた」


 と、一人を除いて全員の名前と顔が判明した。


「さて、残るは」


 未黒のちょうど筋向いあたりに座っている、黒いコートを着た少女だった。AK系列と思われるブルパップ式のアサルトライフルを手に目を閉じて背筋を伸ばして座っている。視線を向けると、目を開けてこちらを見る。右目は陰になっていて見えていない。左目は明るい緑色をしている。髪はボブカットの紺色だ。未黒に負けず劣らず表情が表に出てきてないように感じる。真顔だ。若干睨み顔な気がする。


「あー……そいつはな」


 司が微妙な表情をしている。


「まだ名前がないんだ。また俺がゴッドファーザーになりそうな感じがしてる」


「お前全人類のゴッドファーザーになりかけてるやん」


 俺は思わず突っ込んだ。司はよほどネーミングセンスがあるのだろうか、こうも名付け親(ゴッドファーザー)になるのは凄い。


「そいつの説明は長くなる。先に現状を説明したほうがいい気がするぞ俺は」


 司は意地でもあの少女について話したくない様子だ。そこまで拒否するならば仕方がない。ここは譲って差し上げよう。


「どちらもある程度の情報は持っている。こちらからは死者数や攻撃に用いられた兵器に関する情報しかないが、そちらは詳細な被害状況を知っているのだろう?」


「急に知的になってきたな」


 俺の放った言葉に誠が突っ込む。一方の司たちは結構真面目な表情をしている。口を開いたのは禱だった。


「練馬区、板橋区は最初の侵攻ルートに組み込まれてたから一気に制圧された。爆撃に砲撃にとやりたいほうだいだったらしい。現時点でその二区だけで死者・行方不明者数は五万人を数えてる。さらにその下の一番西に位置する二区に関しては、爆撃を食らって七十六年ぶりに焼け野原になってる」


「それに関しては使われた爆弾はナパームだのサーモバリックだの白リンだのテルミットだの、焼夷弾に限っているあたり焼き払う気満々だったんだろうな。戦略爆撃機百二十機が動員されてる。ただそこまで被害がデカいとは知らなかった」


 俺は禱の情報に補足した。いったいどこから情報を得ていたのかと思われるだろうが、それはおいおい。


「一番北の他の三区は今なお永久に砲撃されてる。砲撃陣地を攻撃しに行ったヘリを確認したんだが、帰ってこない」


「連中の対空火力を甘く見てたか?」


「多分。以前、取り調べを受けたときに、もし攻撃するなら気を付けるように言っておいたのに無視した」


「そりゃ残念だ」


 戦闘機の数が不足気味な敵さん方は対空火力を異常なまでに上げている。M1992やZSU-57-4(五七ミリ機関砲四連装改造型)、またそれらに対空ミサイルを装備させた改造型などを大量に配備しており、下手に低空侵入しようものなら相手がどんな性能を持った機体であれ叩き落とされるらしい。恐らく攻撃ヘリで向かい、無事叩き落とされたのだろう。ぜひともその場で即死していて欲しい、もし捕まった時の処遇を知りたくない。もし本気で攻撃したいなら高高度から爆弾を大量に降り注がせるべきだっただろう。


「二〇三ミリ自走加農砲やら一五二ミリ自走榴弾砲、それと固定の一八〇ミリ加農砲や百五十二ミリ榴弾砲もかなりの数持ってる。どう甘く見積もっても、手持ち全部投入したんだろう。最悪、倉庫に仕舞ってある旧型まで引っ張り出してきてる可能性がある。砲撃だからある程度は逃げ切れるだろうが、全部終わった後の国土地理院の疲れが思いやられるな」


 恐らく、攻撃開始から今の時間までずっと全体に砲撃を食らっているのなら多少なりとも地形が変わってしまうだろう。少なくとも等高線は描きなおす羽目になるはずだ。頑張ってくれ。


「他の地域はどうなってるの?」


 秋山が訊く。答えたのは司だった。


「都心七区は無事。他は無事に占拠されてる。避難民たちが一気になだれ込んできて今その対処に追われてる」


「どれくらいいるの?」


「五百万前後」


「意外と少ないんだね」


 秋山は拍子抜けたような表情をする。


「人口が九百万くらいいるのにその……五十五パーセントくらいしか逃げてきてないんだ」


「なんとか無事な区に向けて首都高を使って逃げようとしたらしい。その時点での死者数はせいぜい十八万人。あまりの渋滞につっかえてるところを敵が攻撃にやってきて、爆弾を投下したり機銃掃射を行ったりして民間人を虐殺した。結果、行方不明者を除くと既に百万人近くが死んでる。五百万って言っても、未だに首都高につっかえてる人も多いから、死者はまだまだ増えるよ」


「無事にたどり着いたのは?」


「攻撃開始から十時間たった今で二百万。三百万を切り捨てるかどうかは国が判断することで、俺らが判断することじゃねえ」


 司はどう見てもヤケクソ気味だ。恐らくここまで攻め込むのが早いとは思わなかったのだろう。


「連中は、爆撃によって防衛隊に損害を与えた後、戦車を用いて激しい攻撃を加え、穴をあけた。そしてそこから一気に兵士を突入させ、兵站などを叩いていた。あんまりにも早すぎるもんで間違ってナチスドイツが侵攻してきたのかと」


「まったくだ」


 恐らく電撃戦のことを言っているのだろう。ここまで超スピードで侵攻されるなど誰も思ってもみなかった。二年前は、占領する大きさがいくら違うとはいえども、全土を占領するまでに半年ほどかかっており、恐らく国もそれをもとに占領するのには一か月かかると考えて防衛プランを立てたのだろう。しかし、相手の兵力はそれを大幅に上回っていた。


「四十五万、か……」


 俺は敵兵力の数を思い出して呟いた。


「マズいのは、これが全軍兵士の総数じゃなくて陸軍兵士の総数ってことだよな」


「今の第一師団が一万六千三百人しかいないことを考えると相当な兵力差だよな。二十八個師団分の兵力を持っていると考えると末恐ろしい」


「アメリカ軍の末端兵力が四十八万だもんな……いくら単体が弱いからと言ってもやりすぎだろう」


 俺と誠と司が立て続けに喋る。それを継いで禱が俺に訊いた。


「実際に今侵攻するのに使われてる師団数っていくつ?」


「陸軍は三十個師団中八個師団だ。歩兵が二万四千、戦車が九百六十、榴弾砲が二百門、対空機関砲が四連装六十四基になる。空軍は五個飛行大隊、戦闘機だけで二百四十機だ。他は予備役、または本格的な反撃が始まった時のために温存しているんだろう」


 俺は思い出しつつ答えた。禱はそれを聞くと何か考え事をしている様子だった。


「あ、あの」


 あまりにわけのわからない会話に困惑して黙っていた彩が手を上げる。


「四十五万人兵士がいるって聞いたんですけど、何でそんな数いるんですか?テロリストなのに……」


「いい質問ですねぇ」


 ここにいる全員、未黒を除けばほぼ全員本職であるため、一般人の考えを提供してくれるのはありがたい。


「それはちょうど向こうの正体不明少女の説明にもつながるんだ、いい流れを作ってくれてありがとな」


 司は彩にそう言った。

高評価とかブックマークとかお願いします。あとTwitterのフォローも頼みます。以上のことがあるとものすごいやる気になるんです、私って。


@Kounoe_Suruga

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