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キル・ゾーン  作者: 鴻江駿河
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第四話「鎮」

 さて、俺が女子トイレでわちゃわちゃしているうちにも戦闘を継続していた(いのり)の方の様子をお伝えしよう。禱という少女は、結構小柄な割には俺なんかよりもよっぽど強い。俺なんかより、というか普通にそこんじょそこいらの特殊部隊より強い。悲しいことに、第一空挺団とデルタフォースが束になって襲い掛かったことがあったが、かすり傷いくつか程度のけがで逆に制圧していた。そんな中学生女子いてたまるかよ。


 だが、こればっかりは現実である。三年生フロアを制圧し返した後、禱は四階に駆け上がる。四階は南側が一年生教室、北側が二年生教室になっている。どちらにも敵兵士がおり、階下の銃声を聞きつけて既に廊下に出て待ち構えていた。当然禱もそのことをわかっている。階段を駆け上がると俺みたいに引っ込むような臆病な真似はせず、ド正面から突っ込む。当然敵も禱めがけて銃を撃つ。禱は相手が銃を構えるよりも先に短機関銃を構え、敵が引き金を引くよりも早く引き金を引く。手前の敵から順番に倒れていくが、奥に控える兵士はそれに構わず禱めがけて銃を撃った。禱は飛んできた銃弾を教室の壁を蹴って回避し、空中で側転しながら冷静に敵を照準に捉えて引き金を引く。南棟と北棟を繋ぐ廊下の壁に一旦隠れるが、それも一瞬。身を低くしながら飛び出し、両手に持ったMP7で一気にケリをつける。左右を飛び交う銃弾を無視し、目の前の敵に向かって走る。スライディングしながら1-Bの前に立つ敵兵士二人の腹部に大量の銃弾を当て、その姿勢から地面に手をついて側転する。立ち上がりつつ回転し、弾の切れたMP7で兵士二人の頭を殴打する。北棟からも銃弾が飛んでくるようになる。禱はサブマシンガンを適当に後ろに放り投げ、教室側の廊下の壁に走りながらとりつき、そのまま壁を走る。1-C前の教室側に立っていた兵士の首を腕を伸ばしてひねり、持っているアサルトライフルを奪う。腰のホルスターから拳銃を取り出し、壁を蹴りながらもう一人の兵士に向けてそれを撃つ。片手で持つアサルトライフルで残りの六人を一気に掃討した。


 南棟がひと段落つく。北棟にいる兵士たちがこぞってこちらにやってこようとする。禱はアサルトライフルを捨てると、走りながら捨ててきたMP7を拾いに行く。敵兵士がやってくるのも相当早い。禱が何とか短機関銃の片方を拾い上げるとほぼ同時に敵もやってきた。禱は走りながら敵に向かう。空になったマガジンを捨て、それと同時に廊下の窓側の壁に張り付き、今度は上方向に走る。壁を登る間にリロードを終え、天井を横方向に走りながら敵に銃口を向け、引き金を引く。教室側の壁を蹴って側転しながら地面に降り立つ。自分に当たりかねない距離を銃弾がかすめていく中、冷静な判断力を保ったままこの動きをする禱は、相変わらず人間のやることをやっていない。

 四十発撃ち切るまでに半分程度を撃破する。禱はまた短機関銃を捨て、拳銃に持ち替える。まだマガジンに十五発も残っている。それを撃ってある程度のけん制と撃破を行いながら全力疾走で接近し、敵兵士の上をバク転しながら通り過ぎる。スカートの内側に手を入れ、ナイフ二本を取り出す。着地と同時に自分の正面側に立っていた兵士の身体をXに斬る。立ち上がりながら相手の顔を回し蹴りして倒す。禱の制服の内側に仕込んだ二挺のリベレーターで二人殺し、ナイフで残り四人の首を掻き切った。


「よし」


 禱はナイフを太もものホルスターに仕舞う。四階は制圧完了した。


「次、いくか……」


 禱はそう言うと落とした短機関銃を拾い上げた。








▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽








「お前マジか」


 俺は今、禱り二人で昇降口に立っている。やってきた百四十人強の殲滅を終え、死体の中に立っているのだが、俺は禱のあまりの強さに棒立ちしていた。


「一人だけ作品の世界観違うやん、俺とかランボーなのにお前だけマトリックスやん」


 ここにいた敵兵士の三分の一くらいは俺が殺したはずなのだが、禱は単身で残りの分を蹴散らしたのだ。その動きはあまりにも非現実的で、ワイヤーアクションで撮影してる映画のようだった。そういう意味で言えば思い切りマトリックスである。


「急にバク転したりするしほんとお前すげえな、会ったときそんなだったっけ?」


「最近見た」


「何を?」


「マトリックス」


「全部?」


「うん」


「影響されてそれできるようになったの?」


「うん」


「お前、ほんとに人間じゃねえな……生身でマネできるものじゃねえぞあれは」


 少なくとも、一般の人間は何の手助けもなしに壁を走ったり天井までバク転したりできない。禱が特殊すぎるって言うのもあると思うけど、ここまで人間離れしてたっけなあ……


「まあ、何はともあれお疲れ、インドラ」


「ありがと」


 禱は女子中学生の禱に戻る。俺の知っていた"いつもの"禱から、"今の"禱に。俺は、今の禱もいいと思うけどな。でもやっぱり、いつもの禱の方が俺にとっては見慣れてるし、それなりに一緒にいたからやっぱ違和感あるわ、JC禱。


「とりあえず……どうしよう」


 俺は呟く。とりあえず突っ込んできたのを皆殺しにしたまではいいが、そのあとのことを考えていなかった。


「とりあえず遠藤に連絡。あと、八弥たちにも。どうせスマホ持ってるでしょ」


「了解」


 俺は禱の言葉にそう答え、さっさと教室に戻っていく。教室に戻ると、クラスメイト達がかなり不安げな表情で席に座っていた。


「ただいまぁ!」


 俺はかなり明るい声であいさつをしたが、誰も返さない。そりゃそうだよな、いきなりクラスメイトが短機関銃持っていきなりやってきた敵兵士ぶっ殺してたんだから怖いよな。俺がもしお前らの立場だったら怖すぎて漏らしてる気がする。


「とりあえずもう何も恐れるものはないから安心して」


 禱がそう言うと、


「いや何よりもお前らが怖いよ」


 と久々の登場になる天が言った。


「まあ安心しろ、誰も殺す気はない」


 とりあえず俺もそうは言ったものの、信用されている気がしない。なぜかと言えば、俺も禱も敵から鹵獲(ろかく)したアサルトライフルを持てるだけ持って、さらに身体の方々(ほうぼう)に血をつけているのだ。これを見て「ああ、こいつらは大丈夫だ、信頼できる」とか言えないだろう。一年一緒に過ごしたクラスメイトの正体がこれではさすがに飲み込み切れないだろう。


「とりあえず先生、生徒たちは一回体育館に集めるようにしてください。何かしら防御策を講じます。それと、大量の段ボールとか何かしらの箱用意しておいてください」


「え、あ、はい」


 俺が担任にそう言うと、担任はそそくさと職員室に向かった。俺と禱は自分の机に戻ると、通学鞄を取り上げ、短機関銃と同じところに隠してあった旧型の携帯を取り出す。折りたたむタイプのやつだ。通話くらいにしか使用しないからこんな古いものになっている。


「俺が遠藤にかける」


「じゃあ私は八弥(はちや)たちに」


 そう言って二人して携帯を開き、連絡帳からそれぞれ相手を探して電話をかけた。さすがに教室内で電話するのもどうかと思ったので廊下に出て会話した。


「あ、御影(みかげ)ちゃん?」


 どうやら禱は御影の方に電話をかけたらしい。


「どう?そっちは」


〈どう?じゃないよ!〉


 電話越しにも聞こえるほどの大きな声で御影は怒鳴っている。一方、沿道の方はさっぱり電話に出る雰囲気がない。なんとなく想像できる、きっと対応に追われていて出る暇がないのだろう。一方で、御影の方も想像ができる。思わず大きな声で言い返し、なんとなく雰囲気が気まずくなって静かにしたのだろう。向こうは念願の高校入学初日、それなのにいきなり爆破テロ発生で教室待機を命じられるとは可哀そうなものだ。


〈こっちだって大変なんだから〉


「こっちの方が大変。今一個中隊規模で敵さんがお出迎えに上がった」


〈え?援護いる?いるなら走ってそっち行くけど〉


 そこで速攻援護する気になるあたり、こっちもこっちだが向こうも向こうだ。


「大丈夫、もう殲滅した」


〈よかったぁ〉


 もっと驚けよ。そしてこっちの電話は一向に出ない。おかけになった電話番号云々と言われた時点で切った。どうしろと。


「とりあえず、遠藤に連絡しようとしたらなんかダメっぽい」


 禱がちらりとこちらの方を見る。俺は禱に歩み寄って携帯を受け取り、その電話口に向かってただ一言言った。


「ダメです」


〈あ、そう?じゃあどうするの〉


「とりあえずここの生徒たちは体育館に避難させる。多分そこら辺の誰かが適当に防御してくれると思うからそれはそれとして、テロ現場に行きたい。通行手段ある?」


〈ある、大丈夫〉


「わかった。じゃあ今からそっち出てこっち来て」


〈わかった〉


「ちなみに聞くけどそれ違法?」


〈違法〉


「わかった」


 わかったじゃないが。禱は携帯をパタンと閉じた。俺は必死に連絡帳を漁って何かしら連絡の取れる上級官僚を探し出した。


「いた」


 少佐、という名前で登録されている番号にかける。この番号にかけることはほとんどなく、かけるのはよほどの時でしかないだろうと思っていた。今がその時だ。


「どうも」


〈はい〉


 あまり音質がいいというわけではないノイズの入りまくった声が聞こえてくる。いったいコイツ、どんなところで話してるんだ。


「至急応援よろしく。東京都新宿区」


〈了解〉


 場所の手がかりを一切得られないほど短い会話で電話は切れた。



 しばらくして。生徒たちは全員体育館に移動し、俺と禱は集まった段ボールの中に、鹵獲した銃とマガジンから弾をはじき出していた。銃からマガジンを抜き、そこに入っている弾を一発一発はじき出している。薬室に入っているのはコッキングレバー引いて排出した。


「これ結構集まるんじゃねえか?」


 俺は禱に言う。


「百四十四人来て、装填済みのマガジンがそれぞれ一本、予備が五本あって、一本は撃ち尽くしたと計算しても一本当たり三十発だから合計して二万発くらいにはなるね」


「そこそこ集まるか」


 いくつかの段ボールに分け、テープで蓋をし、玄関前まで持っていく。アサルトライフルも持てるだけかっさらっていった。玄関にはすでに頼んでいた傭兵らしき十人程度が集まっていた。俺ら二人が玄関から外に出るとそれに呼応するように校舎内に入っていった。あくまで無言な上、日本において民間人が持っていいレベルをはるかに超える装備を持っているあたり、ただものではないことだけはわかる。ただまあ、多分気にしても無駄なタイプのヤバい方々なので触れないでおこう。実力だけは確かなので、多分また一個中隊規模で襲撃されたところで切り抜けるだろう。だたひとつ、気がかりなのは全員がほぼ同年代の少女だということだ。まあ、野郎が派遣したことだしきっと実力は確かなのだろう。

 校門を抜けて外に出ると、道路を塞ぐような明らか迷惑な格好で軽乗用車が止まっていた。あの二人は十六歳のはずなので運転免許を取れないし、違法である。まあそんなこと気にしてられないか。


「なんちゅう止め方じゃ」


 俺は思わず呟いた。


「別にいいんじゃない?すでに法律を犯してるんだしもう問題ないレベルだよ」


「問題しかねーよ」


 俺と禱が軽乗用車に近づくと、勝手に扉が開く。


「どうも」


 俺と禱は後ろのトランクに集めた銃弾入りの段ボール箱を入れてから、二人で一緒に後部座席に収まった。前の席には八弥と御影が座っている。運転は八弥らしい。


「なんで運転できてんだ?」


 俺は八弥に質問した。八弥はキーを回しながら言う。


「俺はあそこから逃げ出す時、どうせ法律犯しても誰も文句言わないだろうと思って色々乗り回したんだ。だから慣れた」


「この車は?」


「近くの廃車工場からかっさらってきた。あとで返すさ」


 八弥はそう言うとアクセルを踏む。こんな斜めに止めておいて、そこからまっすぐにして発信するくらいの腕前はあるらしい。多少は期待してもいいかな?


「じゃいくぞ!」


 そう言うと一気にアクセルを踏み込む。あまりにも急発進したのでシートベルトを着けていなかった俺は顔面を運転席にぶつけかけた。禱はあの急発進でも微動だにしない。どうなってんだお前の体幹、異常だろ。

 八弥がスマホでルート検索しながらそれに沿って車を動かす。遠藤の運転に比べて左右のぶれが大きいし、反対車線に飛び出しかけている。これ、ほんとに慣れてんだよな?都道三〇五号線をそこそこの速度で安定性皆無の運転を続ける車は、とりあえず無事に新宿駅に向かっているらしい。街の人々も野次馬根性発揮して新宿駅に向かったり、道端で話したりしている様子がある。救急車のサイレンけたたましく隣を通り、大通りに出た瞬間えげつないほどの渋滞に巻き込まれた。


「おいどうするこれ」


「徒歩で行くしかないでしょ」


 八弥と御影が会話している。


「車は?」


「置いていく。そこに駐車場があるから停めて行こう」


 そう言って八弥は近くのコインパーキングに車を停める。一階は満車、二階も満車、屋上も満車であった。どうやら逃げてきた人々の車などが積み重なっているらしく、そもそも駐車エリアから外れたところに止まっていたりする。俺は当時の混乱ぶりを知らないから何とも言えないが、今回は被害が被害なためにこんなことになっているのだろう。最終的に一階の適当なところに停めたらしい。


「よし行くぞ」


 そう言って、八弥と御影は車を降りる。俺と禱も車を降り、大急ぎで人の流れに逆らうようにして新宿駅へと向かった。

執筆も大急ぎです。出来があまりよろしくないがとりあえず上げとく

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