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キル・ゾーン  作者: 鴻江駿河
3/29

第三話「撃」

 禱はどうやら何かをかぎつけたようだ。


「うるさすぎる……いくらなんでも……」


 禱の姿勢から、俺はとんでもない事態が発生したことは理解できた。


「まさか」


「多分、そのまさか」


 禱は警戒心を露わにして呟く。禱は、自らの置かれた状況を理解し、それに対処する方法を考える力は人一倍強い。それゆえに、この状況もどれくらいマズいか理解できているのだろう。他の生徒たちは困惑しきりだ。


「いったい、何が……」


 学校のあちらこちらで、耳が聞こえずいまだに叫んでいる声や、それをなだめる声が聞こえる。天は聞こえるらしく、混乱した表情をしている。禱は窓からベランダに出て、新宿駅の方向を見る。そちらを見ると、灰色の煙が空高く上がっていた。


「おいウソだろ」


 俺は呻いた。他の生徒たちも、駅が爆破されたという状況を見て記憶を呼び覚ましたらしい。


「三年前と同じ……」


 クラスの女子の誰かが呟いた。クラスの全員が新宿駅の方向を見ていると、三機の航空機が低空侵入して新宿駅に何かを落とした。


「また耳塞ぐか?」


「多分大丈夫。あれはただの……」


 五秒ほどしたときだろうか。新宿駅で巨大な爆炎が立ちあがった。


「燃料気化爆弾だから」


 爆発による爆風か、暖かい風がふっと教室を横切った。


「はい!席について!」


 担任が教室に飛び込みざま言う。生徒たちは三年前の記憶からかさっさと自分の席に戻る。だが、未だ黒い煙が見える新宿駅を気にしている様子だ。だが、先生が口を開いた瞬間生徒の注目はそちらに集まった。


「先ほど、新宿駅が爆破されたとの情報が入りました。学校側で対応を検討中ですので、皆さんは一旦自分の席に座って落ち着いて待っていてください」


 担任がそういうと、クラスメイト達は急に怖い顔になる。あの事件の記憶が脳に焼き付いているのだろう。


「三年前と同じことになる可能性が高いです。次失う県はどこなのか、まだだれにもわかりません……」


「多分、宣戦布告を聞くまでのこともないですよ」


 禱が言う。禱は既に通学鞄を机の上に置いている。準備万端らしい。


「な、なんですか?赤間さん」


 と担任が問うが、禱は耳を貸さずに廊下に出る。そして廊下の窓を全開にして、校門のあたりを見る。俺も彼女の後に続いてそこを見た。


「どうやら、本丸を占拠するつもりのようで」


 担任も覗き込み、目を見開く。そこにはトラックが六台無造作に停車しており、そこから銃を持った兵士が次々に降車してきていた。


「あ、あれは……」


「静かに」


 禱は首を引っ込め、教室に戻る。


「他の先生方に、『何があっても抵抗せずに降参』するように伝えてください」


「でも、あれは……」


「自衛隊じゃない。恐らく境界線を警備している部隊は全滅したでしょう。強行突破してわざわざお迎えに上がってくれたわけです。ありがたいことに」


「て、敵だってことですか?」


 禱は担任を無視して通学鞄の中に手を突っ込む。俺も自分の通学鞄を開ける。


「だったら、どうすれば……」


「だから、他の先生方に『決して抵抗せず、大人しく降参する』ように言ってください。それが助かるための最善手ですから」


「そうですよ、先生。禱の言うことだけは聞いておいた方がいいです。一人も生徒を殺したくないなら、ね」


 俺と禱の脅しに屈したらしい担任は、震えながらうなずき、教室備え付けの電話を取る。話しながら、俺と禱はカバンの背中側にある四桁ロックを解除して、中に仕舞ってあるものを確認する。


「3-Cです、多分何か入ってきたと思いますが、抵抗せずに大人しく降参するようにしてください……対処ですか、それは……」


 俺と禱は閉まってあるものを机の上に置く。それを見て担任はぎょっとした表情をした。


「こちらに、銃が二挺ありますので……」


 随分と判断が早かった。俺と禱は仕舞ってあるマガジンを四本、百連ドラムマガジンを一つ取り出し、さらに拳銃も取り出してマガジン三本も取り出す。


「それは、いったい……」


「MP7サブマシンガンと同じ弾薬を使う自動拳銃です」


「ご安心を、合法ルートで入手したものですから法に問われることはありません」


「撃たなければの話ですが」


 そう言いながら俺と禱は百連ドラムマガジンを挿入する。撃つ準備は万端だ。拳銃にもマガジンを挿入して腰のホルスターに収める。禱は両方の太ももにナイフホルスターを装備し、二本のナイフを装備する。この学校の制服では、スカートの下に体操服のハーフパンツを履くのだが、禱はその半パンのところにナイフホルスターを装備した。スカートによって隠れるので隠し武器的に使えるという算段なのだろう。


「まあ、もう法律もクソもないでしょうからちゃっちゃとやります」


 俺はそう言うと、教室の後ろの方に行く。


「あの、ちょっと席をお借りしても?」


 一列目の一番後ろに座っている少女に訊く。確か去年は隣のクラスで、名前は加河 歌野(かがわ うたの)と言ったはずだ。


「あ、はい……」


 歌野はびくびくしながら席を立つ。


「俺の席にでもどうぞ、爆薬とかは仕込んでないから安心してもらって」


「わかりました……」


 歌野はびくびくしながら俺の席に向かった。そりゃ怖いよな、こんな急にクラスメイトが短機関銃取り出して迫ってきたら。しかも、敵が表敬訪問までしてきてる状況下でビビらないほうがおかしい。俺と禱はもう慣れた。


「で、あとは……」


 担任が恐る恐る禱に訊く。


「机の下に隠れて貰えればいいかな」


 禱は足を組み、廊下側に銃口を向けながら言う。担任がうんともすんとも言わぬうちにクラスメイト全員が一斉に机の下に潜る。まるで避難訓練かと思えるほど一斉に動いたのでなかなか面白い見た目になった。ギャグみたいにほぼ同時に動くんだもんそりゃ見た目的にめちゃくちゃ面白いよ。


「で、どうする?」


 俺は禱に訊く。


「多分私をお出迎えするためにこんなに来てる。使用したトラックは恐らくウラル-375D。連中が主に使ってるトラックだから分かる。最大輸送できる兵員数は二十四、それが六台止まったってことは無駄に百四十四人、三個小隊規模でやってきたことになるよ、基本的に一個小隊四十人だから。一個小隊を三十人とすれば一個中隊でやってきたことになる」


「大人気だな、そんなんだからあんなにセキュリティのがっちりしたマンションに住まわされるんだよ」


「申し訳ないね」


 禱は目を閉じている。敵が今どこにいるかを気配で察知しているのだろう。


「別に何人で来たところで構わない。全員殺すだけ。敵はこの教室以外の教室を占拠して、ここを孤立させるつもりらしい。クラスメイトでも人質にするのかね」


「多分な。さてどうする?」


「殺すだけ。ここにたかが一個中隊でやってきたことを後悔させてやろう」


 その後はしばらく黙って待っていた。禱はちょいちょい状況を呟くので、それに合わせてタイミングを図る。


「来る」


 禱はそう呟くと、目を開いた。


「三十人はいるよ」


「わかった」


 確かに、廊下に響く靴の量が尋常じゃない。よほど熱心なファンの皆様なのだろう、だが学校にまで押しかけてサインをもらおうとするのはいただけない。ぜひとも正当な手順を踏んで、サインをもらいに来てほしいものだ。でなきゃそいつらの腹をナイフで切ってサインを書いてやることになる。

 敵は、扉を少しだけ開けて何かを投げ込んだ。俺はそれの正体をすぐに察して目を閉じて耳をふさいだ。数秒後、パンというデカい音と共になかなか見ないほど眩しい閃光が教室中にぶち撒かれる。不意にフラッシュバンを投げ込まれたことで対応できなかったクラスメイト達が悲鳴を上げる。俺はすぐに耳をふさぐ指を放し、目を開いた。敵は扉を蹴破り中に入ってくる。本当に三十人いる雰囲気だ。


「「我が校へようこそ」」


 俺と禱は同時にそう言うと、入ってきた敵めがけて引き金を引いた。直後、銃口から凄まじい勢いで四・七ミリ弾が飛び出す。時速二千七百キロの速度を持って敵のボディアーマーを貫き、人体をめちゃくちゃにする。廊下と教室を隔てる壁にめちゃくちゃに穴をあけながら向こう側の敵兵士に次々銃弾が突き刺さる。ガラスの割れる音がする。敵は声を上げながら倒れていく。銃を構えて応戦しようとしたところで撃たれ、そのまま地面に倒れる。百連ドラムマガジンの中身はたった六秒で撃ち尽くした。だが、それで十分だった。

 撃ち尽くしてみると、廊下には死体の山が築かれていた。


「いいね、最高だ」


 俺はドラムマガジンを抜いて新たに四十連マガジンを挿入しつつ言う。禱はあくまで冷静に、敵兵士を観察している。


「まだ何匹か生きてるけど無意味。銃持ってないと思って舐めて来てる、こっちはボディアーマー付けてることを前提に装備整えたのに」


「まあ、こっちは防弾装備ゼロだけどな」


 俺と禱は立ち上がる。


「私はこの棟を制圧するから、司君は向こうの棟を制圧してきて」


「了解した。生きて帰れよ、インドラ」


 俺は禱にそう言う。禱は頷いた。二人で廊下に出、禱は隣の3-Bに、俺はそのまま廊下を行って左に曲がり、調理室内にいる敵兵士にご挨拶に向かった。セレクターをセミオートに設定し、扉を開けて中に入る。禱の解析によれば、各部屋に二人ずつ兵士がいるらしい。


「おはよう、いい天気だ。調子はどう?おなかが痛い、そうか、じゃあいい薬をやろう」


 敵兵士が驚いてきょとんとしているうちにその頭部めがけて銃弾を撃つ。素早く二人を処理すると、次は隣の被服室。恐らく隣でした銃声を警戒しているだろうから、こちらも素早く処理しないと。無駄口叩いてないでさっさとやろう。扉開けて、身体入れて、位置把握したら迷うことなく引き金を二度引く。これで完璧、文句なし。

 さて、一方禱は。3-Bに突撃し、同じようにセミオートに設定したMP7で敵を一瞬で射殺していた。どれくらい一瞬かと言えば、扉を開けて中に飛び込んで空中にいる間に処理したほどだ。いくらなんでも早すぎるだろお前、それは……


「よし」


 そう呟くと一瞬で教室から出て、さらにお隣の3-Aに突撃する。相変わらずのスピード感で次々制圧していった。俺は家庭科室二つを制圧した後、特別教室の並ぶ廊下に出る。


「おう」


 全教室に入っていたらしき敵兵士が一斉に出てきてお出迎えの準備を整えていた。俺はそれを見て大慌てで女子トイレの中に飛び込んだ。下心は一切ない、直線に飛んだらちょうどそこだったのだ。


「クソッ」


 通り過ぎた一瞬を見事に撃ち抜いてやろうとしたらしい十二挺のアサルトライフルの銃声が廊下に響く。せっかく改装工事をしたばかりだというのに床に穴が開いてしまった。


「マジかよ……」


 いくらなんでも十二人相手はきつい気がする。いくら敵陣中央突破を果たした人間とは言えど、こんな閉所で十二人相手はキツイ。しかもこいつらアレなんだろ……

 泣き言言っても何も始まりはしない。とりあえずセレクターをフルオートにして、こちらに寄ってくる敵に意識を向ける。腰のホルスターから拳銃を取り出して構える。軽く顔を出してみたら、即座に撃たれた。


「クソ、早いな」


 トイレの壁が破損している。正直今更トイレの壁如き気にしていても意味はないと思うが……


(どうする……馬鹿正直に正面から行ったところで数の暴力に負けるだけだ)


 考えている暇はない。相手はこちらに近づいてきている。よしわかった。

 俺は拳銃だけを出し、当たることを考えずに一発だけ撃った。当然でたらめなので弾は敵に当たらず、床に当たった様子だった。俺は撃った瞬間拳銃を引っ込め、そのまま女子トイレの奥に駆け込む。マジで下心はないからな、戦闘中は下心云々考えるほどの頭を残せない。適当に奥から二番目の個室の中に入った。鍵は開いていたので中に誰もいないだろうと思っていたら誰かいた。どうやら、朝のうちにトイレに行こうとやってきて、そのまま爆破テロが発生し、ここにとりあえず隠れていたのだろう。もしくは、俺と禱が百発も銃弾ぶっ放した音を聞いて怖くて帰れなくなったか。いずれにせよここにいるという事実に何ら変わりはない。


「きゃっ」


 と叫び声を上げかけたので、俺は少女の口を手で押さえた。


「頼むから黙っててくれ」


 俺は小声でそう頼んだ。少女は恐怖に満ちた表情で頷く。そりゃ怖いよな、短機関銃と拳銃持った同じ学年の男子が突然トイレに突っ込んでくるんだもん。いくらさっき銃声がしたからとか言っても飲み込める状況じゃない。俺は無言で相手がやってくるのを待った。少女は隅によって膝を抱えて縮こまっている。相手はトイレに入ってくると、個室一つ一つを開けつつ中を確認している。十二人で中に入ってきているわけがないと思うのでしばらく黙って見守る。トイレに並ぶ個室の数は計六つ、そう大して広いわけでもない個室をじっくりと検分しているらしく、えらくのんびりとこちらにやってきている。下心満載なのは向こうなのではないかと思ったが、そもそもあいつらに下心って存在するのだろうか。タマすらなさそうだぜ。

 さて俺がいるのは手前から数えて五つ目、奥から一個飛ばした個室だ。便器の上に立ってかがんでいる。この個室の扉は外開きだ。手元には銃、となれば成すべきことはただ一つ。相手が隣、つまり四つ目の個室の扉を開けた音がした瞬間、俺は個室から飛び出す。体の正面を出口に向けた格好で、片手にMP7、片手に拳銃を持った状態で扉を肘で叩き開け、居並ぶ敵兵士の頭部めがけて四・七ミリ弾を叩きこんだ。しっかりした防弾装備を着ないという油断をした敵兵士はなんの躊躇もなく脳髄を撃ち抜かれる。四十連マガジンと拳銃のマガジンを撃ち尽くすまでに全員が倒れた。


「何とかなった」


 俺は両方のマガジンをリリースし、銃を降ろした。少女は耳を覆ったまま恐る恐る立ち上がった。


「お、終わりましたか……?」


「多分」


 そんな言葉を交わしていたら、足元で倒れ伏していると思っていた兵士の一人が起き上がろうとしてきた。こちらに今撃てる一切の銃弾がないという予想のもと立ち上がったのだろう。隠し持っていたらしい小型の自動拳銃を向けてきた。


「油断は怠るな」


 俺はしれっと制服の内側に隠していた拳銃の引き金を引く。確実に頭部に当たるように角度を一瞬で調整し、手首のあたりまで伸びてきていた引き金代わりのレバーを引いた。制服の内側に仕込んだのはFP-45リベレーター、装弾数一発、射程距離数メートル。だがこういう状況においては非常に強力な武器になる。いかに実用性に乏しすぎる射程距離とはいえど、三十センチ定規で測れる距離では強力な四十五口径を撃ち出すただの拳銃になる。


「持っててよかったリベレーター、ありがとう、俺の二百円」


 俺はそう言うとそのありがたいリベレーターをトイレの奥の窓ガラスに向けてぶん投げ、窓ガラスごと外に放り捨てた。だってこれ二百円で製造できるんだぜ、俺が使ってたやつだって通販で買った金属板を張り合わせて作った奴だし。違法だけど。

 さて、いざ戦闘が終わると、十二人分の血液が流れ出ていることによるむせ返るほど濃厚な血の香りが女子トイレ中に満ちていた。そして女子トイレに堂々侵入しているという現実に帰ってきて、隣に恐怖の表情を浮かべる同じ学年の女子がいるという迫真の気まずさにようやく気が付く。


「あー、そうだな……」


 俺は何か言い訳を考えようと頭をひねった。だがそんなことよりさっさと殲滅することにしたので適当に済ませた。


「もし意地でも帰りたいならこの死体踏みつけてもいいぞ。人じゃないし」


 そう言って、ダッシュで出ていった。容赦なく死体を踏みつけて。

 ところで、面白い話がある。敵兵士の顔は皆まるで双子かのようにそっくりなのだ。

ブックマークでもしてください。お願いします、それでモチベが上がるんです。

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