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異世界恋愛短編集

メイドと王子様は転生してもメイドと王子様でした

作者: 来留美

これはある国の昔、昔、大昔の話です。


その国では王子様がいました。


王子様はとても優しく、誰にでも好かれる王子様だったのです。


彼女1人を除いて。



「おい、桃。早くこっちに来い」


「分かりました。少し待って下さい。私にはたくさん仕事があるんですよ」


私は王子様のメイドの桃です。


本名は桃じゃないですよ。


この王子様につけられた名前なんです。


私が桃色の頬だったので桃になったそうです。


さっきも言いましたが彼は誰にでも好かれる王子様なんです。


私の前ではすっごく俺様ですが人前に出ると、それはもう完璧な王子様なんです。



「何ですか?」



私は仕事を片付け彼の元に近寄る。



「今日は肩」


「なっ、またですか? 私じゃなくてちゃんとプロにしてもらった方が疲れも取れますよ」


「早く」


「分かりました」



私は彼の肩を揉む。


彼は何かと私に命令するんです。


私じゃなくてもいいのに。



そんな彼と私が出逢ったのはまだ私達が小さい時でした。


私は1人で毎日生きる為に靴磨きをしながら稼いでいました。


そんな私の前に現れたのは小さな彼でした。



「お前の名前は今日から桃だ。俺と一緒に来い」



そして私は彼に拾われました。


そして私は一生、彼に尽くすと誓いメイドになりました。


私の前でだけ、彼はいつもの王子様ではありませんでした。


彼は私を彼専属のメイドにしました。


彼の身の回りは全て私が任されました。


それから月日が経っても私と彼はメイドと王子様の関係です。



小さかった私達はすっかり大人になりました。


それでも私達の関係はメイドと王子様です。


私は立派なメイドになりました。


そして彼も立派な王子様になりました。


私と彼は当たり前ですが身分は全然違います。


それでも彼は私をちょっとしたことで呼びつけるのです。


そして私に言います。



「やっぱり桃といると落ち着く」



と、私の頭を撫でながら。


彼は王子様としていろんな物を背負っています。


それは彼が生まれたときからです。


彼には心の安らぎがほしいのでしょう。


私がその安らぎになれるのなら私は喜んでなります。


彼は、生きるのがやっとの私をあの日、助けてくれたのだから。



「なあ、桃」



彼は私の頭を撫でながら私を呼ぶ。



「何ですか?」


「俺、もうすぐ結婚する歳になるだろ?」


「もう、そんな歳になられたのですね」


「結婚してもお前は俺の傍から離れないよな?」


「私はあなた専属のメイドなのでずっと離れませんよ」


「それならいいか。結婚しても」



彼は結婚が何を意味しているのか分かっているのでしょうか。


結婚すればいずれは子供ができて、私のことなんて忘れていくことを。



それから少しして彼に婚約者ができました。


隣の国の王女様です。


気品溢れる美しい女性でした。


婚約者の彼女は彼と一緒にいたいと申し出、

このお城に住むことになりました。


彼女は彼から離れようとしませんでした。


私は彼と2人きりになることが困難で彼のことが心配になりました。


彼は息抜きができていなかったからです。


そんな毎日を過ごしていた彼はとうとう、彼女から逃げて私の部屋へ来ました。



「ここはあなたが来るようなところではありませんよ。早く、お部屋へお戻り下さい」


「無理。疲れた。桃、いつもの」


「分かりました。終わったら部屋へお戻り下さいね」



私は彼に頭を撫でられる。



「やっぱり落ち着く」



彼は満足したのか少しして自室へと戻っていきました。




それから一週間ほどたった日、王女様は一度自国へとお帰りになりました。


その日はずっと彼は私を離してくれませんでした。



「今日お前は何もしなくていい。俺の傍にいろ」



私は彼の言葉の通り傍から離れませんでした。



彼は忙しそうに仕事を片付けていきました。


仕事が落ち着いたので私は席を立ち、ドアの方へ歩きます。



「何処に行くんだ? 今日は俺の傍から離れるなって言っただろ?」


「ちょっと休憩しましょうか? 私がお茶を淹れてくるので」


「いらない。俺はお前だけでいい」



彼は真剣な眼差しで私に言いました。



「私はあなたのメイドですよ? メイドはあなたの為に動きます」


「どういう意味?」


「そのままの意味です。あなたが傍にいろと言えばいます。あなたの命令は絶対です」


「何それ? それなら俺の言うことを何でも聞いてくれるんだな」


「はい。それがあなた専属のメイドの仕事です」


「そう。それじゃあそのまま動くな」


「はい」



彼は私へ近づき私の胸元のリボンを外す。



「なっ、何を?」


「動くな」



彼は何を考えているのか分からない。


私に何を求めているのか分からない。


私は彼が怖くなりました。



「震えてる」



彼はそう言って私の手を握る。



「ごめん。俺は桃が…………」



彼は苦しそうに顔を歪め言おうとした言葉を飲み込みました。


そして彼は私の聞きたくない言葉を口にしました。



「もう、桃を俺の専属のメイドにするのやめるよ」



私の体は固まりました。


彼の専属のメイドをやめたくないと体が叫んでいます。


嫌なのに私は彼の命令に背くことはできません。



「分かりました」



私はやっと動く体で自室へと戻りました。



それから彼は結婚しました。


それはそれはもう、大きな式でした。


私は彼が結婚した日にメイドを辞め、小さな村に引っ越しました。


村の人達はとても優しく私はすぐ、村に馴染みました。


この小さな村にも王子様の噂は流れてきました。


王子様には赤ちゃんができたそうです。


それは元気な男の子だそうです。


私はその日の夜、涙を流しました。


私は今頃、気付いたのです。


王子様が好きだと。


でも、それはもう遅かったのです。


私は彼のことを忘れようと毎日過ごしました。


王子様への気持ちは少しずつ失くなっていきました。


そして私も結婚しました。


可愛い女の子を生みました。


私は夫と子供と幸せに暮らしました。


そして、私の人生は終わり、何十年も何百年も過ぎていきました。




誰も私達のことなんて知らない時代。




「ハッピーハロウィン」


女の子達が叫ぶ。


私はハロウィンパーティーに参加中。


みんないろんな仮装をしている。


ナースに医者、

アリスにウサギ、

女性ポリスに警察官、

巫女に神主


そして私はメイド服。



「桃は今年もメイドなの?」


「そうだよ。お気に入りなの」


「でも毎年思うけど似合ってるよね」


「そう?私、前世はメイドだったのかも」



友達とそんな話をしていたとき、私は1人の人に目を奪われた。


彼は王子様の服装をしている。


彼も私と同じで私を見ている。


私達はお互いに近づく。


自分でも分からないが何故かドキドキと鼓動が早くなっていた。


彼の目を見つめる。


彼も私の目を見つめている。


目が離せない。



「「やっと会えた」」



私達は口を揃えて言った。


私達は一度も会ったことはないはず。


なぜこんな言葉が出たのか分からない。


彼も自分の言葉に驚いている様子だった。



「君の名前は桃?」


「はい。なぜ知ってるんですか?」


「分からないけど君を見たとき、頬っぺが桃色で名前は桃かなって思ったんだ」


「今時、そんなナンパのセリフ言う人いないですよ」


「ナンパじゃなくて。俺は君を昔から知っているような感じがしたんだ」


「私もそんなふうに感じました」


「俺達って出逢う」



「「運命」」



また口を揃えて言った。


私達は2人で笑い合った。



メイドと王子様は転生しても

偽物のメイドと偽物の王子様でした。

読んで頂きありがとうございます。

気持ちに気付くのが遅かったメイドはどんな思いで結婚をし、出産をしたのか。

メイドはちゃんと今を生きて、次の人生を繋いだ。

その結果が現在の桃に繋がるように書きました。

みなさんにはどう響きましたか?

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