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彼を寝かしつけるだけの簡単なお仕事  作者: 空月


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5/5

そしておやすみ




「え、えーと……どうしようか、シュウくん」


「……セイのあの様子じゃ、あんたがオレを寝かしつけるか1時間経つまで帰さねぇだろうな」


「だよね……」



 会ったばかりの人と部屋に二人きり。なんとも奇妙な状況だ。

 部屋を見回してみる。こざっぱりした感じだけど、ある1点だけ乱雑だった。机の周りだ。



「セイくんが、締め切りとか仕事とか言ってたけど、お仕事してるの?」


「ああ。イラストレーターってやつ。駆け出しだけどな」


「えっ、すごいね!」


「別にすごくねぇよ。大学行かねぇんなら働くのは普通だろ」



 それはそうだけど、私の周りは進学した人ばっかりだったので、同い年で働いているというのはすごいなぁと思うのだ。



「あ、シュウくん、シュウくん、とりあえずベッドに寝て」


「は?」


「眠いんでしょ? 私のことは気にしなくていいから、眠れそうなら寝ていいよ」


「今のでちょっと眠気ぶっとんだけどな。……まあいいや、確かに限界だ。寝る」



 そう言って布団に潜り込むシュウくん。

 人が寝るところを見るなんて、修学旅行ぶりだろうか。



「……あいつの策に乗るのはちょっと癪だけど。なんか話せよ。お前の声、落ち着く」



 ちょっとどきりとする。お母さんの声に似てるんだから、そういう意味での言葉なのに。



「ええっと……シュウくんはなんで眠れなくなったの?」


「仕事の締め切りが重なって、無理してるうちにリズムが崩れた。そしたらなんか眠れなくなったんだよ。別にストレスがどうとかじゃない」



 私にも徹夜の経験くらいある。徹夜明けのハイで眠れないという経験もある。あれが長引いているようなものだろうか。



「そうだ、そこの棚。一番下の右端に、古い絵本があるだろ。それでも読めば」


「絵本?」



 言われて、探してみる。確かにあった。大事に扱ってきたんだろうな、とわかる保存状態のよさ。だけど中身は、手作りのようだった。



「母さんが作った。同じのをセイも持ってる。読み聞かせは、寝かしつけの定番だろ」



 そう言われて、固辞する理由もない。

 私は本を開いて、読み聞かせを始めた。



「むかしむかし、あるところに、なかよしのきょうだいがいました。……」



 本の内容は、仲良しの兄弟2人が、旅人が訪ねてきたのをきっかけに、外の世界へ飛び出す冒険譚だった。

 兄弟のモデルはセイくんとシュウくんなんだろう。あたたかみのあるイラストとともに紡がれる物語は読んでいる私もわくわくして、夢中になって読み進めてしまった。



「そうしてまた、きょうだいは、なかよくひびをすごしたのでした。おしまい。…………あれ?」



 やりきった達成感とともに締めの言葉を口にして、気付く。

 すぅすぅと気持ちよさそうな寝息が聞こえていることに。



「本当に寝ちゃった……」



 顔を覗き込んでみると、寝顔は思ったより幼く見える。安らかな顔で、悪夢を見ているとかはなさそうだ。


 起こさないようにそっと動いて、部屋の扉を開く。と、そこにはセイくんがいた。



「寝た?」


「うん、寝たよ」



 2人で囁き合って、笑い合う。

 セイくんは『お兄ちゃん』の顔をしていた。同じ顔なのに、不思議。


 そうしてその日は、おいしいお茶とお菓子をごちそうになって、報酬をいただいて。結局残り2日も勤めさせてもらうことになった。




 それから、シュウくんが仕事で無理をして同じようなことになるたびにお呼ばれすることになったりするのだけど、それはまた別の話だ。




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