理由
「信用してたにしたって、怪しさ満載には違いないだろ。そんなに金が必要なのかよ」
そういえば和宮くんにもそこは説明してなかった。
「私の両親って優しいの」
「?」
「だから、授業料も、生活費も、家賃も払ってくれてた。勉強に集中できるようにって」
「なら金の心配はいらないだろ。それとも何か? 遊ぶ金が欲しかったのか?」
「友達と遊ぶお金は、生活費を切り詰めて捻出してたよ。長期休暇にはバイトしようとも思ってたんだけど」
「それより先にお金が必要になった?」
「そう。……お母さんが、骨折しちゃって。パートの仕事を休まなきゃいけなくなったんだって。私の生活費とかはそこから出してくれてたから、こうなったら自分で稼ごうと思って」
「だからって、もっとまともなバイトもあるだろ」
「勉強に集中しなさい、っていうのはお母さんたちの口癖だったから。長く拘束される仕事は本末転倒だなって思ってたの」
「そこに俺の提案があって、渡りに船だったってこと?」
「そういうこと。提示してくれた分で目標金額に届くし、拘束時間は短いし、いいことづくめだったから」
正直とてもありがたい。肉体労働でも深夜労働でもなく、たった1時間で1万円。法外の報酬だ。
「だから、このバイト、受けたいと思うんだけど……その、シュウさんがどうしても嫌とかなら……」
「シュウでいい」
「え?」
「さん付けとかむず痒い。お前セイと同い年なんだから俺とも同い年だろ。呼び捨てでいい」
そう言われても、会って1時間も経たないひとを、許可されたからっていきなり呼び捨てはハードルが高い。
「シュウくん……でもいい?」
「……まあ、いい」
「じゃあ俺のことも、名前で呼んでよ」
にこにこと、和宮くんが言い出す。
二人とも『和宮』なのはひっかかっていたし、拒否する理由もないので頷く。
「じゃあこれからはセイくんって呼ぶね」
「うん、よろしく」
それで、バイトの件はシュウくん的にはどうなんだろう。
そう思って、改めてシュウくんを見ると――。
(もしかして、眠い?)
不機嫌そうな顔は顔なんだけど、見ようによっては眠そうにも見える。
心なしかぼんやりしている隙を見て、私はセイくんに耳打ちした。
「もしかして、シュウくん、眠い……?」
「うん、シュウは眠いと不機嫌そうな顔になるんだ。あれは不機嫌3:眠い7くらいかな」
これ、私の声がどうとかじゃなく、単純に寝不足がたたって眠いんじゃないのかな、と思いつつ、シュウくんを観察する。
目の下のクマが濃い。不健康そうに白いのは、ひきこもりだっていうだけじゃなく、寝不足だからじゃないだろうか。こうしてみると、顔はセイくんとそっくりだけど、雰囲気は全然違う。
「シュウくん、眠いなら、部屋に戻って寝て?」
迷った挙句にそう言うと、ハッと意識を戻したシュウくんが、「……いや、」と歯切れ悪そうに返事をする。
「もう、シュウ。高月さんについていてもらいたいならそう言わなきゃ」
「いや誰もンなこと言ってねぇだろうが」
でも結局、セイくんの押しに負けて、私とシュウくんは2人そろってシュウくんの部屋に突っ込まれたのだった。




