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変わった日常


最近の学校生活は順風満帆だ。


初めてできた彼氏ともうまくいっている。

周りからもイケメンと言われている野球部のエース。


硬派で誰の告白も受けなかった彼と付き合うことになったことは、彼の意向もあって特に隠してはいない。元々人望のあった彼と友達の多かった私だ。今や、みんなが祝福してくれて学校のベストカップルと言われているくらい。


登校するときもお昼も下校も部活が終わるのを待って一緒にいた。そんな私に彼も気を使って優しくしてくれる。何も不満はない、あるはずがなかった。


ただ一つ、気になっていることを除けば……




「ねぇ日向、ジュース買いに行かない? 喉かわいちゃって」

「ん~僕はいいかな。それより谷口君と行ってきなよ。あわよくば奢ってもらっちゃいなよ」


「日向~。移動教室だよ、早く行こう」

「僕ちょっとトイレ行くから行ってて、男子トイレにまでついてこないでよ~」


「日向。今日の放課後、一緒に野球部終わるの待ってない? 一人だと暇でさぁ」

「ちょ、頑張りなよ! 出来たてホヤホヤカップルだろ!」



受け答えとか、態度とかは普通で今までと変わりはない。ないんだけど、日向は何かしら理由をつけて私の誘いを断るようになった。


初めは彼氏が出来て少しの間、かまわなかったことを根に持ってるのかとも思ったけど、会ったら話しかけてくるし冗談も普通に言う。本当に態度は平常のときのままで、怒ってたり、すねてたりしてることはないみたいだった。


私の気のせいなのかもしれない。それでもやっぱり気になる私は彼氏にも相談してみることにした。


「でさぁ、最近日向の付き合いが悪いんだよね。どう思う?」

「どう思うって、態度は普通なんだよな? 遠慮してくれてるとかじゃないか?」

「え~あの日向が? 私が誘うとすぐに、いいよ! って言うあの日向が?」

「いや、俺はよく知らないからな、心配しすぎなんじゃないか。少し過保護な気もするぞ、ただの幼馴染なんだろ」

「ただのって! 生まれてから今まで一緒にいたんだよ! いつもと違ったら普通に心配になるでしょ!」

「……悪かったよ」

「あ、いや、こっちこそごめん」


彼氏に相談したのは失敗だった。日向とは面識がないのだ、いつもと違うと言われてもうまく伝わらないのも仕方ない。この件は彼氏には相談しないように気を付けないと。


日向を「ただの幼馴染」と言われるのは、何故かイライラして我慢できなかった。




それから数日後、


「悪い、今日は部活の後で試合に向けた大事なミーティングがあっていつもより遅くなるんだ。流石に悪いから先に帰っててくれ」


そう言われた私は了承して先に帰ることにした。久しぶりの自由な時間だ。日向を誘って甘い物でも食べに行こうかな。そういえば、駅前のカフェで新しいケーキが出ていたっけ、彼氏は甘い物があまり好きじゃないみたいで、なかなか一緒には行ってくれないから最近はご無沙汰だった。その点、日向なら二つ返事でついてきてくれる。今日は久しぶりに食べまくるぞ!


「いや~なんか彼氏さんに悪いから遠慮しておくよ」


すっかり浮かれていた私は思いもしなかった日向の返事に一瞬本気で意味が分からなかった。え、なんて? 行かないってこと?


「え、何で? 気にしなくていいでしょ」

「いやいや、気にするでしょうよ」

「いやいや、日向だよ。ないない、ないでしょそんな感じにはさ」

「ちょ、酷いな。涼香がそうでも、彼氏さんがどう思うかはわかんないでしょ?」

「そ、それは……」

「それに、今日は僕も予定があるし、だから遠慮しておくよ。そろそろ行かないと、それじゃあね」


「待った待った! 最近の日向なんか変じゃない? なんで私の誘い全部断るの? 怒ってんの?」


日向に誘いを断られて動揺した私は、すぐに帰ろうとする日向を慌てて呼び止める。なんで私と一緒にいてくれないの? 私たちはいつも一緒だったのに、そんな感情がイライラとして私の口調に現れる。日向もそれを感じたようで、慌てたように振り返る。



「えぇえ? 怒ってないって。僕はただ、谷口君のことよく知らないからさ、どんなこと気にするのか知らないからだよ。だから、一応気を付けてるだけなの」

「そ、そうなの?」

「うん。今ふたりは付き合いたてで大事な時でしょ、あまり変に刺激したくないじゃん。涼香のためにもさ」

「う、そっか、ごめん。そこまで考えてくれてたなんて……」

「いいって、それに今日は本当に予定があるからタイミング悪かったのは謝るよ」

「いや、こっちこそゴメン。私、自分のことしか考えてなかった」

「気にしないでよ。それより大丈夫? なんかイライラしてた? うまくやれてる?」

「だ、大丈夫大丈夫! 心配かけちゃってごめんね。なんか元気出てきたから」

「そう? それならよかった! じゃ、今日はもう行くね」

「うん! また今度、スイーツ巡りしようね!」



日向は手を振ってそのまま教室から出て行った。

誘いを断られて残されたけれど、日向と久しぶりにしっかりと話をしたおかげで、気分は晴れやかだった。


この頃、毎日何かが足りないと感じていた部分が満たされたように感じた。最近おかしいと感じていた日向は、私にできた彼氏に気を遣っていただけのようだ。

少し考えてみればもっともだった。私とは違って接点のないふたり、優しい日向の性格からしたら、彼氏に気を遣って遠慮することは普通に考えられた。


まったく、昔から人のことを優先しちゃうんだから、私がついていないと何かしら損をしそうで怖い。ふふ、気を遣いすぎなんだから。


私は安心して一人帰りの準備をして立ち上がる。


そうだ、今度彼氏に会ってもらおう、それで日向に気を遣う必要はないんだよと伝えれば、前みたいに戻るだろう。そしたらまた駅前のカフェに誘ってスイーツを食べに行くんだ。最近遊んでなかったから日向も喜ぶでしょ。


なんて考えながらふと窓の外を見る。


その瞬間、私の思考は止まってしまった。



窓から見える通学路には先ほど用事があると教室を出ていった日向が見えた。


クラスの厄介者、倉木 真弓と一緒に楽しそうに歩く日向が……

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