第5話 軍事転用
僕とテンカさんが父の会社でロボットの開発アドバイザーを始めて6カ月が経過した頃、新型パッペー君はマウスとキーボードからの操作で、いわゆるFPSやTPSと言ったゲームキャラクターの動きをかなり再現出来るようになっていた。
(FPS:TPS=シューティングゲームの種類で、ゲームの中で主人公の視点、もしくは第三者視点でゲーム中の世界や空間を任意で移動でき、武器もしくは素手などを用いて戦うアクションゲームのこと)
今までは、人間の動きと同じ動きをするという操作性だったが、僕とテンカさんからの提案で様々な変更を加えた。
まず、VRゴーグルでは無くモニター画面を見て操作するという事。
それから、視界に入った対象物を持つ、離す、等をワンボタンで行える様にする為、AIを使用し、物の形状に合わせた持ち方、置き方を何度も学習させた。
最近では、お箸を使って物を掴む(物で物を掴む)といった細やかな動きもワンボタンで出来るようになった。
関節はモーター駆動以外に油圧式を併用する事により
静かに歩く、静かに走る、とにかく速く走る、など細かな操作が出来る。
油圧式の導入で垂直ジャンプは1メートル、建物の2階から飛び降りても手を付かずに着地が可能になった。
僕が開発に協力して1番思った事は、AIの学習能力と、学んだ事を再現する力が脅威的だという事だった。
(とあるロボット戦争映画が頭をよぎる)
もちろん、用途に応じては操作がマウスとキーボードでない方が良い場合もある。遠隔での医療行為などは、人間の目、手、足の感覚を使ったVRやセンサーグローブの方が良いだろう。
そんなこんなで、僕とテンカさんはロボットにかなりの愛着を持って開発を進めていた。
ある時、僕が御手洗いから開発室に戻る途中、思わず目を細める光景を見た。
パッペー君が廊下の自販機に小銭を入れてコーラを買っている…
パッペー君にこんな命令を出すのは世界に一人しかいない…
僕はパッペー君の後ろを歩いてついて行った。
テンカ「いや〜パッペー君、マジスゴイロボットになってきたよね〜」
開発室に戻ったパッペー君からテンカさんがコーラを受け取ってヨシヨシしている。
タケシ「ちょっとテンカさん、何ちゅう使い方してるんですか!」
テンカ「買い物よ買い物!買い物してくれるロボットなんて世界で何人が救われると思うのってコトなんだよねってコト!パッペーマジ最高!」
ハッハッハッ!と笑いながら見ていた父が話した
父「ここまで高い完成度に持ってこれるのは技術者としても嬉しいよ。会社の上層部もかなりの収益を見込んでいるし、開発費用も無限と言っていいくらい予算を貰っている」
何日かたったある日、
そんな新型ロボットに1番最初に興味を示し、見てみたいとコンタクトを取って来たのは、なんと防衛省だった。
つまり、自衛隊のお偉いさんがパッペー君を見たいとリクエストが来てるって事だ。
テンカ「パッペー君、兵器になるのかな…」
タケシ「いや、原発事故とか、人間が行けないところでの作業には持って来いの状態ですよ。僕が自衛隊なら絶対に導入しますね」
父「まあ、車だって用途は使うお客様次第だし、パッペー君には様々なニーズに対応力があるからね…不本意な使われ方をするかもしれないが…もし国から大量発注を受けて、大量生産となればコストダウンにも繋がって一般にも出回りやすくなる。」
何というか…開発チームの皆んながちょっとした不安を抱えながらパッペー君の今後を考え始めていた。
プレゼン当日、経産省の整備計画局というところから局長さんが開発室に足を運んで来た。
局長さん以外にも3人部下のような人を連れている。
ワタリ「どうも、整備計画局 局長のワタリと言います」
僕はガッチガチに緊張していた。
変な事をして話しがオジャンになるのを恐れてたからだ。
そして僕の不安を大いに煽っている人物がいる。
テンカ「わぁ!ワタリさん!どうも〜テンカでーす!仲良くして下さいね!スゴーイ 局長って、高級官僚みたいですねキャハハッ!」
キャハハじゃねーよと思いながら僕は鬼の形相でテンカさんをガン見した。
それを見たテンカさんも、文句あんのか!と言わんばかりの目つきでガンを飛ばしてくる。
ワタリ「ハッハッハッ テンカさんお綺麗ですね、どうぞ宜しくお願いします」
局長さんと握手をしながらテンカさんは勝ち誇った表情で僕の方をみた(ムカつく)
父が中心となり、ロボットのデモンストレーションを開始した。
終始様々な質問が飛び、ワタリさん達も完成度の高さにかなり可能性を感じているのが見て取れた。
色々な話して行く中で、ワタリさんが思わぬ発言をし始めた。
ワタリ「なるほど、タケシくんとテンカさんはあのゲーム大会の優勝チームの方々でしたか。ニュース番組で観ましたよ」
テンカ「そうなんですよー!私たち、今世界一の腕前なんですよー!」
タカシ「まあ、あれはゲームですけどね、本当に戦略やメンタルが必要で世界一になるのは容易ではないんですよ」
褒められて調子に乗ってしまったと後で後悔した。
ワタリ「どうでしょう、このロボットを使ってタケシくんのチームで模擬戦をしてみませんか?」
タケシ「模擬戦?ですか?」
ワタリ「はい。自衛官の訓練施設ですが、占拠された建物を制圧するまでの模擬戦が行える場所があるのですが。」
タケシ「…(どうしよう何だか大変な事になってきたぞ)」
僕は言葉を出せず黙り込んでしまった…
模擬戦をやってしまうと災害救助ロボではなく 完全に軍事転用されてしまう…
テンカ「ワタリさーん!私たちメッチャ強いですよ!?大丈夫ですか?」
僕は唖然とした表情でテンカさんをガン見した。煽ってんじゃねーよ!という言葉が喉元を通り過ぎて口から出そうになった。
ワタリ「自衛隊関係者には僕が説明するよりも見て貰った方が早いですし、彼らも色々な可能性を感じる事が出来ると思うんです。どうでしょうタケシくん?」
タケシ「ワタリさんは…このロボットを兵器としてお考えでしょうか?」
ワタリさんはすぐに答えた。
ワタリ「兵器という言葉が適切かはわかりませんが、自衛隊員が死ななくても良いケースがある可能性があると考えています。タケシさんはそう思いませんか?」
タケシ「それはあると思いますが…」
ワタリさんは続けた
ワタリ「もちろん、このロボットは災害救助の面でもかなりの功績を期待できます。きっと無くてはならない物になるでしょう。本当に素晴らしい開発です」
タケシ「僕もそう思います」
ワタリ「そういった反面、現実として自衛官達は銃を装備しています。何故だかわかりますか?」
僕は少し考えて答えた
タケシ「国民を…守るためでしょうか…」
ワタリ「その通りです。私達は国民を守るために命をかけています。一方で、ひとりの自衛官の命も失いたくはない。そのために必要な装備があるのなら1機35億円の戦闘機でも導入するんですよ。命を守る命のために」
ワタリさんの話しは納得の行くものだった。僕たちは守られている。自衛官の命に…
このロボットで1つの命を守れるだけでも意味があると僕は感じた。
タケシ「わかりました。模擬戦、お受け致します。」
ワタリ「それでは日時を設定してご連絡差し上げますので、よろしくお願いします。今日はこの辺で失礼します。」
ワタリさんが帰ったあと、テンカさんが誤ってきた。
テンカ「なんかゴメン、、、ついノリで」
タケシ「いえ、これで良かったと思います。ユウとノラに連絡して模擬戦の準備をしましょう」
父「現状だとロボットの数が足りないな…急いで追加を製造しよう」
完全に歯車が回りだす。そんな感じだった…
つづく