第4話 開発アドバイザー
父に案内された部屋は広くて天井も高く、色々な配線やファンの音、いかにも機械的な匂いのする場所だ。
僕とテンカさんはその広い部屋の中央に置かれた開発中と思われる物に興味を示しまくっていた。
タケシ「父さん、これってロボット!?」
テンカ「てかコレ、あのハードバンクのパッペー君にそっくり」
僕たちの目にした物は人型をしたロボットで、とある携帯電話会社が販売しているAIロボット パッペー君にそっくりだった。
ただ、パッペー君には足がないが、ここのロボットには足があり、2足で直立している。そして、パッペー君よりもやや大きい印象だ。
父「そう、見せたかったのはコレなんだ。実はパッペー君もハードバンクさんとウチの共同開発なんだよ。ハードバンクからAIのシステム、ウチからはカメラを通したセンサーやロボット本体の可動部とかね。今回は新たに2足歩行のバランスセンサーを入れたり、燃料電池を新しく搭載したりしてるんだ」
タケシ「車メーカーだと思ってたけど、ロボットも作るんだね」
父「もちろんメインは自動車だけど、ウチは航空機やタンカー、潜水艦とかも作ってるんだよ。最近は関連子会社からエナジードリンクも発売されたんだぞ」
テンカ「触ってみても良いですか!」嬉しそうにテンカさんが父に問いかけた
どうぞどうぞと父がテンカさんをロボットの前に案内する。
するとロボットはテンカさんに顔を向け軽く右手を上げ
ロボット「ドウモ、コンニチハ!ハジメテ オアイ スルカタデスネー」と喋り出した
テンカ「キャー!超カワイイ!ヤバスギ!」
手を差し出すと握手もしてくれるし、音楽を流すと結構本格的に踊り出す。
ロボットの色々な動作を見て僕たちはテンションアゲアゲだ。
ひと通りロボットの動きを見たあと、僕は父に質問した。
タケシ「何でコレを僕たちに見せたの?」
すると父は開発室のアシスタントに何かを持って来るように指示を出した。
するとアシスタントの方が何かを台車にのせて僕たちの前まで持ってきた。
台車に乗っている物を見るとそれが何なのかすぐに想像はついた。
VRゴーグル、センサーのような物がついた手袋、そしてシューズと膝パット、肘パット
明らかにロボットを遠隔操作するための装置だ
タカシ「遠隔操作?」
僕が言うとすぐに父は「正解!」と、人差し指指を立てた
テンカ「ギャハハ!超スゴイ!アタシ付けてみたい!」
するとアシスタントの方が丁寧にテンカさんに遠隔操作の装置を装着してくれた。
テンカ「おおおおお!マジスゴイ!」
テンカさんが上を向くとロボットも上を見るし、手を振ると同じようにロボットも手を振る。もちろん、足を動かすと歩き出す。
テンカ「ギャハハ!超楽しい!マジで欲しい!」
驚いたのはここからだった。父が部屋の端に置かれているバーベルを指差し、持ち上げて見るようにテンカさんに声をかけた。
バーベルには30キロの版が2つ付いており、軸が20キロあるはずなので合計80キロになるバーベルだ。
テンカさんはロボットを操作してバーベルの前に行き、かがんでロボットにバーベルを掴ませた。
VRゴーグルを着けて何も掴んでいないテンカさんを見ると少し笑えてくる。
テンカさんがゆっくりとバーベルを持ち上げる動作をすると、ロボットからギュイイイイイ!と大きめの駆動音がなり、見事に80キロのバーベルを持ち上げた!
テンカ「ギャーハハ!マジスゴイ!わたし最強!」
見ただけでもこのロボットのポテンシャルは非常に高い。工場とかの作業だけでなく、介護や医療など、用途の幅が広いのは確実だ。
凄く完成度は高い、ただ、同時に不安になる点もあった。
それはロボット自体のポテンシャルではなく、操作する側の操作性の問題だ。
VRゴーグルを着けた事のある人なら解ると思うが、コレは長時間の作業に向かない。
実際、テンカさんも10分ロボットを動かしただけで休憩を申し出た。三半規管が違和感を覚え気分が悪くなるからだ。
それに加え、手の動作、足の動作を繰り返すのも長時間となるとシンドイ。
そう思っていると父が話し出した
父「実はこのロボットの操作性にはまだ納得いってないんだ。」
タケシ「そうだろうね」
僕は思っていた問題点を父に話してみた。
ウンウンと頷き、父は話し始めた。
父「実はタケシ達のニューヨークでのゲームの試合を観ていたんだが、驚いた事が沢山あったんだ」
父は開発室のパソコンの前に座りモニターに映像を出した。僕たちのニューヨークでの試合映像だ。
父「まず、ゲームのリアルさにとても驚いたよ、最近のゲームは本当に良く出来てる。このゲームの中では、プレイヤーに対してあらゆる再現が施されているね。音の発信源だったり、太陽や街灯などの光の向き、そして放った銃弾に重力落下の設定までされている。」
試合の映像を進めながら父は話し続ける
父「そして何より1番驚いたのは、ゲームを操作している人達だ。歩く、走る、見ているカメラの向き、武器の照準などの細やかな動きを全て、マウスとキーボードでやっているじゃないか!」
父は少し興奮気味にイカれてると言わんばかりの表情を僕たちに見せた。
確かにトッププロゲーマーのマウスとキーボードさばきは多少イカれている…というか普通ではない。
父「父さん達は何でも最先端の物を詰め込んできた。だからセンサーやVRを使ったよりリアルな再現をこのロボットに反映してきたんだ。だけど、タケシ達の試合を見て父さんは猛烈に反省したよ。」
父は目の前のパソコンのマウスとキーボードを手に持ち僕たちに見せた
父「この2つでロボットを操作できるなら最高だ。それが利用者、ユーザーのためってもんだ!操作性に関してはこのロボットには退化が必要だ」
父は、なんてこったいと言わんばかりの表情で天を仰いだ
父「そこでなんだけど、タケシやテンカさんの持つゲームのキャラクターの操作感を、このロボットに反映させてみたいんだ…どうかな、少し手伝ってくれないか?」
ようやく僕とテンカさんはここに呼ばれた理由を理解した。
めちゃくちゃ面白そうだし、何となく世の中のためにもなりそうだと感じ、僕とテンカさんはロボット開発のアドバイザーとして父からの提案を受け入れた。
ただ、このロボット開発は…
このあと僕とテンカさんが思いもしない方向に進んで行く事になる
つづく