第15話 DAY4 黒い影
僕たちが戦地を離れて一晩が明けていた。
ここは地中海に浮かぶ島キプロス
横240キロ、縦100キロという大きさの島だが世界の富裕層が移住してくるほど最近では急速な経済成長を遂げている。
僕たちがオスプレイで到着した空港やリゾートホテルにオフィスビル群が、安全な地域に来たんだという安心感を僕たちに与えていた。
あの戦場からオスプレイで数時間しか離れていないのに、その差は天と地よりも差がある。
テンカさんが運ばれた病院もかなり設備が整っており、かなり先進的な医療が行われている。
テンカさんは病院に運ばれてすぐに手術室へ入り輸血と傷の手当てを受け一命を取り止めた。
上村「タケシさん、良かったですね。テンカさんは命に別状は無いようで」
タケシ「はい、まだ意識は戻っていませんが本当に助かりました。ありがとうございます!」
上村さんはキプロスの在日大使館員の人で僕たちがキプロスに到着してすぐ、ワタリさんからの要請を受けて僕たちのサポートをしてくれた。
病院での手続きやメンバーの宿泊先を手際良く進めてくれた。
上村「タケシさんの頭の傷はどうですか?」
タケシ「はい、痛み止めを飲んでいますが出血も止まって良くなりました。骨にも異常は無いようですし」
上村「それは良かったですね。でも、無理せずに今は安静にした下さいね」
僕と上村さんが話していると、看護婦さんが遠くから呼びかけた
看護婦「ヘイ!カモン!カモン‼︎」
手招きをされ駆けつけるとテンカさんが目を開けているのが見えた
タケシ「テンカさん!」
僕は大きな声を出し駆け寄った
テンカ「タ…タケシ…私、助かった、、、、」
タケシ「テンカさん!良かった!意識が戻った!」
僕は飛び跳ねるように喜んだが、テンカさんは安堵感から泣き出した
テンカ「うぇぇええん…あたし、、、車に乗せられて、、、さらわれて、、、、思いっきりビンタされた、、、」
ヒックヒックと泣きながらテンカは話した
タケシ「そのあと腹部を銃で撃たれたんです…でももう大丈夫ですよ!助かったんです!」
テンカ「お腹を、、、撃たれた、、、イタタタタタ‼︎」
テンカは手術した脇腹を触り思い出したように痛がった
上村「意識が戻って良かったですね。しばらく安静が必要ですが、容態が安定したらすぐに日本へ帰国する準備を整えますので」
タケシ「ありがとうございます。僕、他のみんなにも伝えて来ます!」
テンカ「いや!どこにも行かないで…お願い、、、ちょとひとりにしないで…」
僕が病室から出ようとするとすぐにテンカさんが引き止めた
当然の気持ちだ。知らない土地で拉致された直後のテンカさんにはひとりになる恐怖は大きい…
上村「私が皆さんに伝えて来ます。タケシさんはテンカさんの側にいてあげて下さい」
タケシ「本当にいろいろ、ありがとうございます、、」
上村さんは笑顔でスマホを片手に病室を出ていった
テンカ「なんかゴメン、、、」
タケシ「いえ、僕こそすみません、、、気を配れなくて」
テンカ「タケシ、頭の傷大丈夫?」
僕の頭の包帯を見てテンカさんが言った
タケシ「僕は全然大丈夫ですよ、」
テンカ「あの時、、スマホのカメラの中でタケシが何かで殴られたの見て、、、、そんで驚いて、、、そしたら後ろからガバッと掴まれて、、、」
タケシ「皆ですぐにテンカさんを乗せた車を追いかけたんです。ロボットを使って救出しました」
テンカさんは手首をおでこに当てながら振り返り、思い出していた
テンカ「ゴメンね、、、私が外に出ようって言ったから、、、皆んなに迷惑かけちゃった、、、」
タケシ「テンカさんは何も悪くないですよ!悪いのはヤツらだ、、、やり方が汚いし許せないです」
僕とテンカさんが話していると担当の医師と思われる人が看護婦と共に入って来た。
英語でわからなかったが、感じからすると、外で待ってるように言われた様子だった
タケシ「ドアの前に居ますから」
テンカさんがウンウンと頷くのを見て僕は病室から出た。
病室から出ると廊下の向こうからクドウさんが歩いてきた
クドウ「タケシさん!」
タケシ「クドウさん!こっちに来てくれたんですね!」
クドウ「はい、皆さんを見送ったあと空港まで戻ってそのままキプロスまで来ました。ロボットや装備品もキプロスの空港にありますよ」
タケシ「本当に色々ありがとうございます」
クドウ「いえいえ、とんでもない、、、あの後、色々あったので報告したいのですが、今、宜しいでしょうか?」
タケシ「はい、大丈夫です」
僕が言うと病室から医師が出てきた
医師「ベリーベリーグッド!」
医師は僕に微笑みかけ親指を立ててグッドを繰り返し立ち去った
タケシ「クドウさん、中で話しましょう」
僕はクドウさんをテンカさんの病室に案内した
テンカ「あ、クドウさん!」
クドウ「テンカさん!本当に元気そうで良かった!一時はどうなるかと思いましたが、、、本当に良かった」
テンカ「ご迷惑おかけして、、.命まで助けてもらって、、、本当にありがとうございます、、、」
クドウ「ハハハ!いえいえ、テンカさんが生きていてくれて本当に嬉しいです!」
クドウさんは笑顔で病室の椅子に座った。
タケシ「僕たちがオスプレイに乗ったあとに色々あったんですか?」
クドウ「はい。まずは、あの弾道ミサイルの情報なのですが、ロボットが捉えた映像を解析して詳細なデータを米軍にわたしたいのですが、宜しいでしょうか?」
タケシ「はい、全然構いません」
クドウ「ありがとうございます。あれはとても貴重な情報で今後のISML討伐に大きく関わると思います。おそらく、あれはロシア経由で北朝鮮から流れて来たと思われるミサイルです」
タケシ「北朝鮮から!?」
クドウ「まだ確定ではありませんが、北朝鮮はテロ支援国家と疑われています。あのミサイルのルートを抑える事が出来たら私達の功績はとても大きな物になります」
テンカ「あの工場にそんなものあったんだね…」
タケシ「ショウさんが天狗のように鼻を伸ばしそうな話しですね」
クドウ「それと、モトジャさんが回収した敵のリーダーと思われる人物のスマートフォンですが、現在解析にかけています。対人関係が明らかになればもっと色々な事がわかるかも知れません」
タケシ「なるほど、さすがモトジャさんあのドタバタの中で冷静な判断事をしてますね」
クドウ「また何かわかったらお伝えしますので。テンカさんもお体をお大事に、早く日本に帰れるといいですね」
クドウは椅子から立ち上がりタケシとテンカに握手をして病室を出た。
テンカ「色々大変だったけどさ、、たくさん人助け出来たみたいで良かったね」
タケシ「そうですね、、、。正義感というか、テンカさんが以前に言ったように、人助けは自分の心を救う力があると思います。それが命がけであればあるほど、、。でも、だからこそ、もう大切な人を危険な目に合わせたくないなって思いますよ…」
テンカ「ごめんね、、、私のせいで、、、せっかく人助け出来たのにぶち壊しだね…」
タケシ「謝らないで下さい、、、守れなかった自分も悪いですから。でももう、テンカさんを危険な目に合わせないですよ。絶対に」
テンカ「ウフフ、、、私、タケシの大切な人なの?」
タケシは顔を赤くしながら黙った
ナツミ「テンカー‼︎テンカ‼︎いきしてる!?」
ドタバタと走ってチームのメンバーが入ってきた
ショウ「おおおおお!目が覚めてる!ガハハ最高!」
ユウ「いやー良かった良かった!」
僕たちは病室の中で全員が生きている事を心から喜んだ
一方その頃
〜日本 東京都 首相官邸 記者室〜
大泉総理「この度は、日本の皆様に大変なのご心配をおかけ致しました。水面下の交渉を粘り強く続けた結果、拉致された自衛官は解放され、現在日本に向かっております」
記者「今後の自衛隊派遣はどうするお考えなんですか!このまま続けるつもりですか!?」
大泉総理「現在、派遣した全自衛隊員の撤退を指示しております。今後については安全を確認して検討する次第です」
記者「安全なら行かせるんですか!?誰が安全と決めるんですか!!」
記者「死者が出ていますが、誰がどう責任を取るのですか!?現政権で施行された自衛隊派遣法は正しいのですか!?」
次々と記者から総理大臣やめろと言わんばかりの質問が飛び、大泉総理は世論に追い詰められていた。
大泉総理「今回、自衛隊員の死者が出た責任は、自衛隊最高指揮官である私の責任であります。現政権の是非を問う為にも、一度、衆議院を解散し、総選挙にて国民の皆様の声を聞かせて頂きたいと思います」
今回の自衛隊襲撃事件で、完全に悪とされた大泉政権は解散せざるを得ない状況へと追い込まれ、テレビや雑誌、ネット上ではこの問題が大きく取り上げられていた。
一部報道では、身代金に何十億円も税金から支払ったなど、何が真実かわからないほど報道は加熱していた。
〜地中海 キプロス 〜
テンカさんが意識を取り戻し、安堵感の中にも早く日本に帰りたい僕たちの気持ちをよそに、新たな問題は浮上していた。
その日の夜、僕たちのチームはクドウさんの声かけによりフランス傭兵団の施設へ呼ばれた。
施設にはワタリさんも来ており、なんだか嫌な予感しかしなかった。
クドウ「皆さん、お呼び立てして申し訳ありません」
ショウ「何ですか!?また何かあったんですか!?」
クドウ「いえ、少しご報告したい事がありまして…」
ワタリ「私もまだ詳しくは聞いていないのですが、現政権に関わる事らしいので、この会議には総理もスカイプで出席されます」
タケシ「なんだか…大事な話しなんですね」
会議室の円卓の上座部分にモニターが設置され、大泉総理大臣が映し出された
クドウ「総理、ご出席ありがとうございます」
大泉総理「いえ、皆さんには本当に助けられました。改めて感謝申し上げます。助けられた自衛官の家族は大いに喜んでおります。」
タケシ「大分マスコミに叩かれているようですが…大丈夫なんですか?」
大泉総理「現政権は解散することになります。私の総理大臣としての役務はここまでのようです…」
皆の間に少し沈黙が流れた…
場を切り替えるようにクドウさんが話し出す
クドウ「実は今回お集まり頂いたのは、モトジャさんが回収した敵リーダーと思われる人物のスマートフォンに関してなんですが」
モトジャ「解析が済んだのですね」
クドウ「はい。全てではありませんが、重要な証拠が上がって来ました」
大泉総理「私にも関係のある内容なんですか?」
クドウ「はい。まず、このスマートフォンの持ち主ですが、生還した自衛官に持ち主の画像を見せたところ、ジョンと名乗る今回の事件のリーダー格の男である事がわかりました。」
ワタリ「自衛官を拉致した主導者ですね」
クドウ「はい。スマートフォンの通信記録には自衛隊襲撃前後に同一人物との通話が複数回行われています」
タケシ「まだ仲間とか親分がいるって事ですか?」
クドウ「実はこのスマートフォンにはこの人物との会話が全て録音されています。内容が結構驚きなのですが、電話の相手は日本人です」
ショウ「は!?日本人が親分!?」
クドウ「いえ、親分というよりは、、、自衛隊襲撃の依頼者が日本人という内容です」
大泉総理「それが本当であればかなり深刻な内容ですね…」
クドウ「電話の内容をまとめると、自衛隊を襲撃し、自衛官を拘束して犯行声明を出すこと、実施不可能な要求を出して殺害すること、そして成功報酬の内容です」
ワタリ「察するに、これは現政権転覆を狙った日本人によるテロリストを利用した事件という事になりますね。実現不可能な要求をして来た理由がやっとわかりました」
大泉総理「派遣した自衛隊が事故に合えば世論の圧力で私が辞めると踏んでの行為ということか…完全に踊らされたな」
その場に全員の怒りが立ち込めるのがわかった
タケシ「じゃあ、自衛隊員が危険目にあって、首を切られて、テンカさんが拉致されて危険な目に合ったのも、全部その日本人がやらかしたってことですか!」
クドウ「通話の内容から言って間違いありません」
ナツミ「でもさ、なんでそんな重要な会話が録音で残ってるの?なんかおかしくない?」
モトジャ「おそらく、事件終了後に録音データを利用してさらに金を巻き上げるつもりだったんでしょう。悪人がやりそうな事です」
クドウ「私もそう思います。」
ワタリ「問題は誰か?ということですね…政権転覆を狙っている時点で大分絞られますが」
大泉総理「犯人は私が解散の会見をして大笑いしているだろうな…」
クドウ「野党側の人間が大きく関わっているのは間違いないでしょうね。ジョンと通話していたのはその中間人物でしょう。」
ワタリ「通話の通信記録から相手がいる場所は解りますか?」
クドウ「通話の記録を辿るとジョンと話していた人物はドバイに滞在しているようですね。ドバイに滞在している日本人で、野党側の政治家と強く繋がっている人物。出入国履歴を調べれば大分絞られると思いますが」
ワタリ「そこは私の方で調べましょう。」
大泉総理「タケシくん、どうにか君たちにその男の確保をお願い出来ないだろうか?」
タケシ「そう来ると思っていましたが…」
ショウ「ドバイの警察とかじゃダメなんですか?」
大泉総理「敵とはいえ、日本の政治家がテロリストを利用して多額のお金を流したとなると、かなりマズイ事が多くなります。犯人は本当に大馬鹿者です。バレた時の事を考えもしていない」
ワタリ「隠密に拘束して、真犯人を吐かせる必要がありますね」
タケシ「わかりました。僕たちもそいつらが到底許せないのでこの話し受けさせて頂きます。その代わりなんですが」
ショウ「テンカは抜きだな」
タケシ「はい。今回は負傷しているテンカさんとナツミさん、モコさんを先に日本に帰還させて下さい」
ナツミ「え!私とモコも!?」
モトジャ「現状のロボットから20キロ圏内で活動するのは大変危険を伴います。女性には大変な任務です」
モコ「そうですね…」
トミィ「女性は帰還に賛成だな」
ワタリ「それでは、タケシさんドバイに飛んで頂けますか?怪しい人物をこちらでリストアップ致します」
タケシ「わかりました。すぐに出発します。」
こうして僕たちは、真犯人とジョンとの中間人物を探すためドバイへ向かう事になった。
つづく