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看板娘は少女を拾う  作者: 有坂加紙
第六章 看板娘は、
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エルシア その8

 この手紙を読む貴方へ


 私の不安が現実となった時のために、この手紙を記しておきます。読んでいるのが、私から隠し場所を聞いた方だという前提で話をしますが、念のため最初からお伝えしておきます。


 私は幸せ者です。それだけは間違いなく断言できます。

 幸せとは何か、自分で決められることができるよう育ててもらいました。幸せになるために、周りの人達にこれでもかというほど、助けてもらいました。


 結果として私は、育ててくれたこの町に、見守ってくれた人に、心から感謝することができます。これを幸せと言わずして、何と言うのでしょう。

 そのことを踏まえて読んでいただけると幸いです。まだ打つ手が残されていることに、私は感謝すらしているのですから。


 私は、カーライル王国第十七代国王ヴィガード・ベル・エスト・カーライルと、現宰相の妹、リリエラ・アリアスティーネ・アイゼンべルグとの間に生まれた子です。

 幼少期の記憶はほとんどありませんが、母が正妃でも側妃でもなかったことから、かつて私は忌み子として幽閉されていたそうです。


 状況が変わったのは私が五歳の時。

 詳しい経緯は私も知らず、数少ない記憶から推測するしかありません。ですから、ここに書くことは避けます。


 覚えているのは、若い男に切り殺される母の姿と、その直前に王印をもらったこと。それから、母が殺される直前、剣を持つ男に言っていたのを聞いた言葉。


 ”あんな忌み子はもう捨てた。今頃は野たれ死んでいるか、人買いに捕らわれて王都にはいないだろう”。


 その一部始終を、私はすぐ隣の倉庫の扉の隙間から見ていました。そこから考えるに、母の言葉は恐らく真実とはったりの半々だったのかもしれません。

 ですが、その言葉の通り私はすぐに王都を離れました。もっとも連れは人攫いではなく、母付きの侍女だった記憶があります。


 その後は皆さんが知る通りです。私はこれまで孤児として生きてきました。


 確かに母は既に亡くなっております。しかし父は存命です。年を重ねるうちに、私はそれがどういうことか、考えるようになりました。


 私の成長は恐怖と共にありました。

 怖かった。母のように殺されたくなかった。死にたくなかった。


 忌み子である以上、私の存在は政略の駒どころか、火種になりかねないことは承知しています。本来であれば、死んでいた方が国にとって有益ですらある人間なのです。

 それがあまりに怖くて、夜中に何度も飛び起きては孤児院の院長先生に抱きしめてもらいましたし、一人で暮らし始めた後もずっと恐怖は変わりませんでした。


 変わることができたのは、つい最近です。


 私は、とある少女を拾いました。

 彼女は人ならざる力を持つ、ただの女の子でした。


 魔物の襲撃で町が危険に陥った時、彼女はとにかく何とかしなきゃと思ったそうです。本人にその時のことを聞いても、必死でよく覚えていないと言いますが、ギルドの医務室で寝ていたあの子が「怖い、助けて」と(うな)されたことを、私は知っています。


 それを見ていたら思うようになったのです。この子を守ってあげたいと。

 私が抱える血筋の問題とは違いますが、(おおやけ)になれば最後という点では、私と彼女に変わりはありません。力を見せつけた彼女のことを、今もなお沢山の大人が狙っています。

 

 残念ながら平民として生きる以上、私にできることには限界があります。

 近い将来、私は追い詰められて、最後の手段に出ざるを得ないはずです。そうなれば、私はここにはいられなくなります。現に従兄であるアルフレッドをはじめ、一部の人間には隠し通すことができませんでしたし、おそらくはそう長く持ちそうないと思っています。


 ですから、これを読む貴方にお願いです。


 どうかケトを、私の大切な妹を、守ってください。


 ケトを守るために、私は王都でできる限りのことをするつもりです。この忌むべき血筋を使って、後見になるなり、護衛をつけるなりはして見せます。王都での私の地盤が固まれば、金銭面での援助も行うつもりです。


 でも、私にはもうケトの心が守れなくなります。

 だから、私が傷つけてしまうであろう、泣かせてしまうであろうケトの隣に、どうか寄り添ってあげてください。手を握ってあげてください。一人では生きていけないあの子を支えてあげて欲しいのです。


 孤児院のダリア院長にお願いはしてありますから、あの子が衣食住に困ることはないはずです。ケトのご両親が彼女に持たせたお金と、私の貯金もそこにありますから、好きに使ってください。


 これがどれほど身勝手なお願いか、理解はしているつもりです。

 でも私の力では限界なのです。私にはできないことなのです。


 それがどれほど悔しく、情けないことか。

 ケトに恨まれても良い。憎まれたって良い。

 でも、あの子が絶望することだけは、絶対に許容できません。


 これを読んでいる貴方へ。

 どうか、ケトを助けて。それが私の最後のお願いです。


 願わくば、貴方と彼女に、幸運のあらんことを。




 カーライル王国 第二王女

 エルシア・アリアスティーネ・エスト・カーライル

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