赤月さん、地元の話を聞く。
食堂でそれぞれが食べたいものを購入してから、いつもの席へ向かうと、講義が終わったのが早かったのか、すでに白ちゃんとことちゃんが着席していました。
「やぁ、千穂。……ん?」
白ちゃんは一早く、私達に気付いたようですが、後ろから付いてくる来栖さんと奥村君に視線を向けると少しだけ首を傾げました。
白ちゃん、ことちゃんの隣に私が座り、その真正面に大上君達三人が座ります。
「初めまして、かな。歴史学部の人?」
「うん、そうなの。えっと、こちらが来栖結杏さんで、こちらが奥村高志君。同じ講義を取っていて、作業する班が一緒なの」
「一緒に食事を摂ろうと誘われたんだ。宜しく頼む」
「宜しく」
人見知りが激しい私が人の自己紹介をしていることがよほど嬉しいのか、ことちゃんは一瞬だけ嬉し泣きしそうな表情を浮かべましたが一秒で普通の表情へと戻っていました。器用です。
白ちゃんの方はあからさまに喜びの笑顔を浮かべています。
「そうなんだ。僕は経済経営学部に所属している冬木真白。千穂、じゃなかった……赤月の幼馴染だ」
「そして、同じく幼馴染の山峰小虎だ。ちなみに所属は体育学部だ!」
初対面の人に対して、通常ならば二人は余所行き用の笑顔を浮かべることはよくあるのですが、今回は心の底からの笑顔を浮かべているようです。
ほら、二人が笑顔過ぎて、来栖さん達が首を傾げているではありませんか。
「いやぁ、千穂にもついに伊織以外の友達が出来たんだね……。本当に良かったよ……」
ハンカチを取り出してから、白ちゃんは目元を押さえます。いえ、来栖さん達は同級生なだけで、まだ友達というわけではないのですが。
「千穂は人見知りが激しいけれど、とても優しい子なんだ。これからも、千穂のことを宜しくな!」
止めて下さい、ことちゃん。どうして私のことを紹介するような形で頼むんですか。幼馴染二人から歓迎と喜びオーラが出過ぎて、私は穴に入ってしまいたいです。
そんな光景を大上君はにこにこと楽しそうに眺めています。私の心情を察しているならば、この現状を止めて欲しいです。
「ほ、ほらっ。挨拶はそれくらいにしておかないと、せっかくのお昼ご飯が冷めてしまいますよ」
「そうだな」
「それじゃあ、いただきます!」
上手く話を逸らすことが出来ました。
いただきます、とそれぞれが呟いてから昼食を食べ始めます。
すると、話を聞いていた来栖さんが生姜焼き定食を食べながら、白ちゃんへと訊ねました。
「なるほど、三人は幼馴染なのか。どこの県から来たんだ?」
「僕達はすぐ隣の県だよ。でも、車がないと不便な田舎だから、大学入学と同時に一人暮らしすることにしたんだ」
「電車はありますが、駅までが遠いですからねぇ。家よりも田んぼと山の面積の方が広いくらいです」
地元のことを思い出しつつ、私達は遠い目をします。良くも悪くも田舎な場所なので、車がなければ生活出来ません。
バスも一応通っているので、学生や車を持っていない人、お年寄りなどはバスを多用している地域なのです。
「あー……。僕の地元も似たような感じだな」
身に覚えがあるのか、奥村君が野菜炒め定食を食べる手を一時的に止めてから、会話に入ってきました。
「奥村君は、出身はどこなの?」
大上君が訊ねると奥村君は眼鏡を少し上に上げてから答えました。
「九州だ。……こっちとは言葉と文化の違いがたまにあるから、戸惑うことが多いな」
「ああ、確かに色々と違いがあるな。私は関東出身なんだが、関東と関西では食文化に違いがあるから、よく比べては楽しんでいるよ」
うんうん、と頷きながら来栖さんは生姜焼きを綺麗な所作で食べ進めて行きます。一つ一つの動きが洗練されていて、ドラマのシーンを見ている気分になりますね。
ですが、学生ごとに色んな地域の話を聞くことが出来るのは楽しいですね。私は地元を離れることが中々なかったので、とても新鮮です。
せっかく大学生になったので、計画を立てて、どこか県外に遊びに行くのも楽しいかもしれません。そんなことを一人で密かに思いつつ、私は誰にも知られないように苦笑していました。