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赤月さん、来栖さんの隣に座る。

 

 講義が終わった後、私は先程の古文書学入門の講義で割り当てられた文章を現代語訳するために図書館に来ていました。


 大上君は先程、班分けされたメンバーと共に今後の発表についての準備があるため、図書館の中で分かれることになりました。

 本人はかなり不本意のようですが、準備が早く終われば班作業も早く終わると私が諭したことで少しだけやる気になっているようでした。


 どうやら、大上君の耳にも米沢さんの声が少しだけ届いていたようで、何か酷いことを言われなかったかと心配されました。

 内容までは聞き取れなかったようなので、詳細を伏せて、誤魔化しておくことにしました。


 ここで本当のことを言ってしまえば、米沢さんに対する大上君の印象は悪いものになってしまうので、言葉を濁しておいた方がいいだろうと思ったからです。


 恐らく、私と米沢さんの関係が良好になることはないでしょう。

 何といいますか、根本的な部分から相性が合わないということをお互いに感じてしまっている気がするので。


「……あれ?」


 図書館には辞書などがたくさん置いてあるので、ぜひ活用させてもらおうと思って来ていたのですが、他にも辞書を借りている人が多く居るようで、私が借りたい辞書は図書館の棚には置かれていませんでした。


「……仕方ありません。自力でやれるところまで、頑張りますか」


 私は溜息を吐きつつ、学習スペースの方へと向かいます。図書館の中には読書や勉強をする人が利用する机と椅子が並べられているスペースがあり、そこを学習スペースと呼んでいます。


 他にも映画などの動画を視聴することが出来る視聴覚スペースもあるようですが、私はまだ利用したことはありません。


 私が学習スペースの端の方の席に腰かけようとしていると、窓際の席に座っている来栖さんの姿が目に入ってきました。


 座っているだけなのに、絵画のような光景に見えて、私は思わず見とれてしまっていたようです。本当に綺麗な方ですね。


 私が呆けたまま動かなかったので、向けられる視線に気付いたのでしょう。それまで、机に向かっていた来栖さんは私の方へと頭を上げました。


「やぁ」


「先程ぶりです」


 淡々としている人ですが、特に人間が嫌いというわけではなく、素の性格のようです。あまり言葉を飾らない物言いをする方なので、どこか格好良さも感じます。


「……ああ、そうか。そういえば、私が借りている辞書を君も必要とするのだったな」


「え?」


 私は来栖さんの手元に視線を向けてみます。そこには私が必要としていた辞書が広げられていました。


「この辞書と同じものが他にも数冊程、図書館内には所蔵されているはずだが、全て借りられていたのかね?」


「そうみたいです。なので、自力で出来る範囲をやってみようと思っていまして」


「ふむ。それならば、一緒にこの辞書を使うといい」


「えっ……? ですが……」


 来栖さんは彼女が座っている席の隣をぽんぽんっと手で叩きます。まるで、ここに座ると良いと言っているようです。


「どうせ同じ文章を現代語訳しようとしていたんだ。それならば、協力しつつ教え合った方が効率は良いだろう」


 あまり感情が表情に出ない人のようですが、それでも言葉からは気遣いが窺えて、私は思わず口元を緩めてしまいました。


「ありがとうございます、来栖さん」


 いつのまにか笑みが浮かんでしまっていたようで、目の前の来栖さんは少し気まずげに視線を逸らしていきます。


「……ほら、隣の席に座ると良い。隣に座った方が、辞書が使いやすいだろうからな」


「はい。ありがとうございます」


 やはり、来栖さんはとても優しい方のようです。米沢さんの件は少し気にかかりますが、それでも来栖さんのような方が一緒の班なので密かに安堵してしまいました。

 

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