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赤月さん、悪意を向けられる。

 

 すると、次々と学生達が教室の中へ入ってきたため、二人での会話はそこで中断されることになりました。

 学生達が揃った頃、始業のチャイムとともに梶原教授が教室の中へと入ってきます。


「今日から、班に分かれて作業を行う。また、班による発表をしてもらうが、内容によっては評価に関わるので、真剣に取り組むように」


「えー……?」


 梶原教授の言葉に不満そうな声を上げる学生もいましたが、教授は無視をしたまま話を続けます。


「数百年前の京都で実際に出されたお触れや司法の記録などを活字にしてまとめた『京都町触集成』を資料として使っていく。それぞれのページを担当する班を決めているので、今から配る用紙に目を通して、自分が所属する班を確認するように。来週には班ごとに現代語訳した部分とともに、そのお触れが出された当時の背景などを自分達で読み解き、調べ、考察したものを発表してもらうからな」


 梶原教授は印刷していた紙の枚数を数えながら、学生達へと配り始めました。

 教授が配布し終わってから、私はさっそく班分けされた用紙に目を通していきます。


「そんな……」


 そう呟いたのは私ではなく、大上君です。その理由は簡単で、きっと私と大上君が所属する班が別々だったからでしょう。


「残念でしたね、大上君」


「残念過ぎるから、一度、梶原教授に直訴しに行こうかな」


「本気で止めて下さい」


 中々、声が本気の声色に聞こえたので私は慌てて止めました。


「……冗談だよ。でも、本当に残念過ぎて、やる気が出ない……」


「が、頑張って下さい……」


 応援することしか出来ませんが、遠くから大上君と一緒の班になれたことを喜んでいる女の子の声がちらほら聞こえてきます。ほら、大上君と一緒の班になれて嬉しい子もいるみたいですよ。


「よーし、確認出来たか? それじゃあ各自、班ごとに指定された机に集まってくれ」


 梶原教授の声に大上君は私だけに見える角度で泣きそうな表情を浮かべました。


 私と大上君の班は別々な上に、座る席も少し遠のいているので、そのことに対する絶望だったのでしょう。ですが、これは決められたことなので仕方がないのです。


「それではまた、大上君」


「うぅ……。それじゃあ、またね……」


 かなりの落ち込み具合ですが、大丈夫でしょうか。小さくなった背中を見送りつつ、私も指定された机へと向かいます。


「えーっと、確かこっちの机のはず……」


 私の視線の先の席にはすでに同じ学年の男子学生が座っていました。前髪が長く、眼鏡をかけているので表情はよく見えませんが、私はとりあえず挨拶をすることにしました。


「……あの、同じ班の奥村君、でしょうか」


 私がおずおずと声をかけると、男子学生は顔を上げつつ、ついでに眼鏡も上げて、こくりと頷き返しました。


「そうだけれど、君は?」


「同じ班の赤月と申します。今日から、宜しくお願いします」


「……そう」


 奥村君──奥村(おくむら)高志(たかし)君はそれだけ返事を返してから、そっぽを向きました。

 まるで班作業に興味がないと言わんばかりの態度だったので、私はつい動揺してしまいました。


 どうしましょう。私も対人関係を新しく築いていくことは苦手な性質(たち)なので、このような場合はどうすればいいのか分かりません。


 奥村君も人間と接することが苦手な人なのかもしれないと勝手に自己解釈しつつ、私は彼の後ろの席へと座ることにしました。


「──はぁ、マジ最悪……」


 そんな声がすぐ近くで降って来た気がして、私は何となく顔を上げました。


「ただでさえ、大上君とは別の班になったのに、ぱっとしない感じの奴しかいないなんて、本当に運が無さすぎて泣けるんだけれど」


 とても棘のある言い方が、私の方へと向けられた気がして、思わず肩を震わせてしまいました。


「しかも、大上君に媚び売っている奴と一緒だし」


「……」


 ああ、これは紛れもなく私に直接向けられた悪意ですね。表情に出そうになってしまう感情を押えつつ、私は視線を悪意ある声の持ち主へと向けました。


 緩やかな茶色の髪をシュシュで一つにまとめて、大人のような綺麗な化粧を施している学生が腕を組みつつ、そこには立っていました。


 彼女の視線は私にはっきりと向けられており、気の強さが零れているような雰囲気を纏っていたため、思わず仰け反ってしまいました。


 梶原教授に渡されていた名簿には、割り当てられている残り二人の名前が載っていますが、一体どちらでしょうか。どちらも女の子の名前なので、分かりません。


 嫌味と敵意を含んだ表情を含めつつ、その人は私の斜め前の席へと座りました。心の中では別の班の人であって欲しいと願っていましたが、やはり同じ班の人だったようです。

 

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