赤月さん、幼馴染に心配される。
「──はぁ!? それで大上の奴と友達になったの!?」
「こ、声が大きいよ、ことちゃん……」
親友でもあり、幼馴染でもある「ことちゃん」こと、山峰小虎ちゃんが食堂のテーブルを両手で叩きながら中腰になりつつ叫びます。
ことちゃんが中腰で立った瞬間、頭の天辺に一つにまとめて結んでいる黒いポニーテールがゆらりと揺れました。
いつ見ても黒真珠のように綺麗な黒髪ですね。そして、立った瞬間に見えるスタイルの良さに羨ましさを感じます。
今、私達が座っている場所は食堂の端のテーブルの一つなので、目立たない場所なのですが普段から声が大きいことちゃんの叫びに周囲の人達からの視線が流れてきます。
「ほら、小虎。座らないと余計に目立つよ。千穂は目立つのが苦手なんだから」
そう言って、ことちゃんを諫めてくれるのは同じく親友で幼馴染の「白ちゃん」こと、冬木真白君です。
本人は女の子のような名前と、中性的なお顔をあまり好きではないみたいですが、儚さが残る王子様のような容姿です。
「ああ、悪いな……」
ことちゃんは頭を掻きながら、私の真正面の席へと座ります。白ちゃんもやっと座ったと言わんばかりに溜息を吐きつつ、昼食の親子丼を食べ始めました。
「ことちゃん、とりあえず食べないと、せっかくのラーメンが伸びちゃうよ?」
「そうだな。……いや、ラーメンのことは、今はいい。千穂、確か大上……大上伊織のことを避けていただろう? 何でわざわざ友達になったんだ?」
おや、ラーメンが大好きなことちゃんが、ラーメンを置いておいて話を続けるなんて珍しいですね。
「えっと、大上君に……こ、恋人になりたいと迫られまして」
「なぁにぃ~!?」
ばきっと言う激しい音とともに、ことちゃんが持っていた割り箸が中央から真っ二つに折れてしまいます。
これは新しい割り箸を貰って来ないと、もう使えないようですね。
「なので、これ以上迫られても困るので、とりあえずお友達として接してもらうことにしたんです」
本当は大上君に食べたいと言われたことは黙っておいた方が良いでしょう。
でなければ、ことちゃんの表情が更に怒りの鬼と化してしまいます。
小さい頃からずっと一緒に居てくれる、ことちゃんと白ちゃんは同い年なのですが私の姉と兄のような幼馴染なのです。
以前、小学生だった頃の私がいじめっ子から泥団子を投げつけられた際には、ことちゃんは一人で上級生達を千切っては投げて、そしてとどめを刺すように白ちゃんがいじめっ子の上級生達の恥ずかしい話を周囲に言いふらして、社会的に抹殺していました。どんな内容だったのか、私には教えてくれませんでしたが。
つまり、二人を怒らせると周囲の被害が拡大してしまうのです。
別に大上君を庇っているわけではありませんが、あの人がことちゃんに殴り飛ばされるのは見たくはないので、黙っておこうと思います。
それに、ことちゃんは武道を習っているので、あまり余計な怪我をさせたくはないのもあります。
「千穂は優しいねぇ。僕達に任せておけば、彼のことを社会的に抹殺したのに」
白ちゃんは冷笑の王子と呼びたくなるような黒い笑みを浮かべています。
普段は涼しげな面立ちをしているのですが、黒いことや怪しいことを考えている時の白ちゃんの表情はあまり直視したくはないですね。
「……すぐに実力行使に出るから、二人には頼りたくはなかったんです。それにお互いに学部も違いますし」
ことちゃんは高校の時に推薦を貰って体育学部に入っていますし、白ちゃんは経済経営学部です。
私は二人とは別の歴史学部に入っています。余談ですが、どうやら大上君も私と同じ歴史学部のようです。
「だから、こうやって被っている授業を取って、お昼も一緒に食べているんでしょう。お互いの身にあったことを話し合えるように」
「そうそう。それに、あまり会う頻度が少なくなると小虎が寂しがって、千穂の摂取不足で動かなくなっちゃうからねぇ」
「わ、私のことは良いのよ! ……そりゃあ、学部が違うから、授業は一週間に数講義しか被らないけれど」
学部が違うのに、一緒に受けられる講義を数講義も見つけてくる時点で十分凄いと思います。
ですが、必須単位に入っている講義はちゃんと取っているのでしょうか。でなければ、卒業単位に足りなくて、卒業出来なくなってしまいますよ。
ことちゃんは新しい割り箸を近くに設置してある箸入れから一本取って、今度は綺麗に割ります。そろそろ食べないと、ラーメンが伸びてしまいますからね。
私もさっそく割り箸を割ってから、今日のお昼ご飯である日替わり定食のハンバーグを頂くとしましょう。