赤月さん、大上君に提案される。
私のことを気遣ってくれているのか、大上君はふいに話題を変えてきました。
「……随分と話は逸れたけれど、俺が赤月さんから欲しいものは赤月さんだけだから、今は特に欲しいものはないかな。それに、今日はこんなにも尽くしてもらっているからね、むしろ俺がお礼を言うべき立場だし」
にこにこと笑いながら、大上君は断ってきます。
とてもではないですが、リボンを巻いて、私をプレゼント、なんてそんなことは出来るわけがありません。
「……でも、白ちゃん達からの誕生日プレゼントは受け取るのに、私からのプレゼントは受け取ってくれないんですか」
「うっ……。だって、これ以上、君から貰うのは何だか申し訳なくって。……それに、俺に物を与えると、『赤月さんコレクション』の中に保管しちゃうよ? それでもいいの?」
「何ですか、『赤月さんコレクション』って!? 変なものを集めたりしていませんか!?」
思わず、背筋に冷たいものが流れていった気がしました。私が大上君にあげたものって何がありましたっけ。
頭の中で記憶を辿っていきますが、記憶に残っているほど大したものをあげた覚えはありません。ということは、小さいものでも保管しているということでしょうか。
私はつい、寝室のクローゼットの方に視線を向けてしまいました。あの戸を開けた先に「赤月さんコレクション」とやらはあるのでしょうか。
開けたいような、開けたくはないようなそんな気分です。
「嫌だなぁ、赤月さんから貰ったものを永久保存しているだけだよ。……さすがに食べ物や飲み物は無理だけれど」
つまり、保存方法が確立するならば、食べ物や飲み物も永久保存したいということでしょうか。やることに本気過ぎて、むしろ感心します。
「わぁ……。私の知らないうちに、コレクションされている恐ろしさ……」
しかし、何かを手渡しても結局コレクションされると考えると、やはり食べ物の方がプレゼントとしては無難かもしれませんね。
形には残りませんし、食べないと腐りますし。
「うーん……。形には残らない上に心のこもったプレゼントなんて、特に思いつきませんからね……」
私がふぅっと溜息を吐くと、大上君はきょとんとした表情から何故か満面の笑みを浮かべました。
「形には残らないけれど、俺が最大限に喜ぶプレゼントが一つだけあるよ」
「えっ。本当ですか?」
「うん。赤月さんが俺の頬に唇で触れるという、最高過ぎるプレゼントなんですけれど、いかかでしょうか! 簡単に言えば、口付けという行為なんですけれど!」
「……」
この人、本当はもう熱も完全に下がって元気な状態なのではと、つい思いました。
「ほら、形には残らないでしょう? 凄く良い提案だと思うのですが!」
「……それ、かなり勇気が必要な行為ではないでしょうか」
「そんなことないよ。外国では挨拶みたいなものじゃないか」
「ここは外国ではありません」
私が頬を膨らませながら反論すると大上君は苦笑しながら、私の手に指先を絡めてきます。
にこにこと笑っていた大上君の表情は途端に、色気らしきものが浮かんだように見えました。急に大人な表情を浮かべるの、止めて欲しいです。心臓に悪いので。
「それじゃあ、俺が赤月さんにしても良い?」
「へぁっ?」
「君に口付けさせてもらえるだけで、最高の誕生日プレゼントになるんだけれどなぁ……」
「うぐっ……。ずるいですよ、そういう風に言うのは……」
「赤月さんは押しに弱いから、責めればいけると思って」
「性格を分析されている気がします……」
私が唸るような声を上げると大上君はくすっと笑ってから、手を離しました。
「でも、暫くはお預けしておこうかな」
「え?」
「だって、そろそろ……」
そう言って、大上君の視線は閉じられた部屋の扉の方へと向けられます。
耳を澄ませば、扉の向こう側から白ちゃん達が会話している声が聞こえました。どうやら二人も目が覚めたようです。
「これ以上、この場所に君を引き止めたら、二人から鉄槌が下されそうだからね」
大上君は私にベッドから立ち上がるようにと促してきたため、私はゆっくりと腰を上げました。
「大上君は赤月さんをたべたい。」の本編に全く関係のないお話ですが、凄く久しぶりに短編を書いてみました。
あとで投稿しようと思っていますので、宜しければどうぞです。恋愛もののギャグです。