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赤月さん、プレゼントを考える。

 

 寝室で眠っている大上君の邪魔をしないようにしているのか、白ちゃんとことちゃんはリビングで各々が持参したものを炬燵の上へと広げていました。


 いつの間にか、大上君に食べさせていた雑炊の鍋やお椀などは台所の方へと片付けてくれていたようです。


 二人はそれぞれが持っているレポートに向けて、何か文章を綴っているようでした。

 恐らく、提出期限が近いレポートなのでしょう。情報処理が上手い白ちゃんは簡単そうにレポートを書いていますが、ことちゃんの方は頭を抱えながらレポートを書いているようでした。


「……それで、二人は一体いつまでここに居る気なのでしょうか」


 私がおずおずと気になっていた質問をすると、レポートに向けていた視線を二人は同時に私の方へと向けました。


「そりゃあ、千穂が居るまでだ」


「……」


 ことちゃんからは曇りなき瞳で真っすぐに告げられました。想定内でしたが、やはりそのつもりで来たのですね。


「とりあえず、伊織の熱が下がるまで居るつもりだけれどね。……でないと、千穂も心配で自分の家には帰れないだろう?」


「うっ……」


 さすがは白ちゃん、何でもお見通しのようですね。確かに高い熱が出ている大上君を放置して、家に帰るのは心苦しいと思っていたので、その通りです。


「だから、熱が下がるまではお邪魔していようと思ってね。……あ、僕達、夕食も別で買ってきてあるから、一緒に食べない? もちろん、千穂の分もあるよ」


「長く居据わる気満々じゃないですか」


 私は苦笑しつつ、炬燵へと足を入れながら、二人の真ん中の位置へと腰を下ろしました。


「しかし、誕生日に風邪を引くなんて、運が悪い奴だなぁ」


 ことちゃんはレポートのお供として、買って来ていたのか、ポテトチップスの袋を開けつつ、寝室の扉を見つめています。


「そうだな。もし、これで元気だったならば、おめでとうと言いながら、ケーキを顔面にお見舞いしたのに……」


 ぼそりと白ちゃんが呟いていますが、それって本当に仲が良い友達に対してする行為ではないと思います。


「それで、千穂は伊織に何のプレゼントをしたの?」


「え?」


「ん?」


 白ちゃんに訊ねられて気付きましたが、そういえば私は大上君に何もプレゼントしていませんでしたね。


 いえ、大上君が元気だったならば、ケーキを買って来ようと思ったのですが、今の大上君には食べる元気などないので、買うのは勿体ないでしょう。


「……まだ、何も。実は今日が大上君の誕生日だと知ったのは、ほんの数時間前だったので……」


「え、そうだったの? ……そういえば、教えていなかったね」


 白ちゃんはどこか気まずそうに肩を竦めています。どうやら、白ちゃんは大上君の誕生日を元々知っていたようですが、私に教えることを忘れていたようです。


「何がいいと思います? 大上君への誕生日プレゼント」


「うーん……。やっぱり、実用的なものかなぁ」


「白ちゃんはいつも実用的なものですよね。とても助かりますけれど」


「相手にとって必要な実用的なものを探すのが好きなんだよね。……でも、そっか。千穂は伊織にプレゼントを渡していなかったんだね」


「はい……」


 白ちゃんもどのようなプレゼントがいいのか、考えてくれているようです。すると話を聞いていたのか、ことちゃんがばっとレポートから顔を上げました。


「私は千穂から貰えるものなら、何でも嬉しいぞ! 何たって、千穂が私のために一生懸命に考えて、心を込めて贈ってくれるものだからな!」


 隣の部屋で寝ている大上君のことを気遣っているのか、ことちゃんは小声でそう言いました。


「自分のことを考えて、時間をかけて、そしてその中から選ばれた一つを貰って、嬉しくないわけがないだろう。だから、きっと大上だって、千穂から貰ったものは何でも嬉しいはずだ」


「そう、かな……?」


「そうだとも。……まあ、本音を言えば千穂の心がこもった物を大上に一つとして、手に渡したくはないけれどな」


 とても自信ありげにことちゃんはそう言い切りましたが、最後に呟いた言葉はあまり聞き取れませんでした。


 私が選んだものを大上君は喜んでくれる。それって、とても嬉しいことだと思います。

 でも、同時に照れてしまいますね。


「ちなみに、私としておすすめなのは『たこ焼きタワー』だ。山のようなたこ焼き……じゅる……」


「それは小虎が欲しいものだろう……」


「美味しいものは誰だって喜ぶに決まっている」


「美味しいもの……」


 考えてみれば、私は大上君の好きな食べ物も知りませんね。たこ焼きは彼の得意料理ですが、誕生日プレゼントでたこ焼きを渡しても喜びは──いえ、大上君ならば、喜びそうですね。


 私は腕を組んで、「うーん……」と唸りながら考えます。


「……まあ、そんなに深く考えなくてもいいと思うよ。小虎なんて、丸絞り林檎ジュースだし」


「むっ。林檎ジュースは素手で絞った方が、鮮度が高くて美味しいんだぞ、多分!」


 小声で言い合いを始める二人を私は苦笑しながら見ていました。


 どんなものをプレゼントしても、きっと大上君は喜んでくれるのでしょう。

 でも、もしあげることが出来るのならば、熱で苦しんでいる大上君の苦痛を和らげられるものが良いなぁ、なんてことを考えていました。

 

 

昨日は更新出来なかったので、今日はあと一話分、更新する予定です。

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