赤月さん、大上君に縋られる。
雑炊を食べ終わった大上君はかなり満足気な表情をしていました。味を気に入ってもらえたようで良かったです。
やはり、自分が作ったものを美味しいと言ってもらえると、とても作り甲斐があるので。
「では、残った分の雑炊は電子レンジで温めやすいように小分けにしておきますので」
「ありがとう、赤月さん」
大上君は風邪用の薬をごくんっ、と白湯で飲み込んでから、ふにゃりと笑います。
この風邪薬がどのくらいの効果を発揮してくれるのかは分かりませんが、大上君の表情は少し辛そうなので、早く効能が効いて欲しいですね。
「あとはゆっくりと寝て下さいね。あっ、先程、スポーツドリンクを買っていたので、そちらを枕元に置いておきますので……」
「──赤月さん」
気付けば、大上君は私の腕をぎゅっと握っていました。
同い年で、男の子で、私よりも背が高いのに、それなのに大上君はまるで小動物のように小さく縮こまってから、立ち上がりかけていた私を真っすぐと見つめてきます。
「……帰っちゃうの?」
「……えっ」
呟かれた言葉にはどこか縋るような感情が込められていました。
「赤月さん、もう……帰る、の?」
「それは……」
「嫌だ。……帰らないでよ、赤月さん」
ぎゅっと、大上君は空いていた方の手で私の服の裾を握ってきます。小さな子どもが親を頼っている姿にも見えて、私は思わず、ごくりと唾を飲み込んでしまいました。
「えっと、あの……」
私の右腕を握っている手からは熱い温度が伝わってきます。
先程よりも熱が上がっているようで、私ははっと顔を上げてから、大上君の様子を確認し直しました。彼の顔はやはり真っ赤で、今にもゆで上がってしまいそうでした。
「……大上君、熱が上がって来ていますよ。とにかく、ベッドに……」
「どこにも行かない?」
大上君は浅く呼吸し始めています。これは相当、熱が高い状態のようです。
確か、冷蔵庫に熱さましのシートが冷やされていたはずなので、それを取りに行こうと立ち上がりかけた時でした。
ぐいっと引っ張られるような感覚が私を襲い、立ち上がるつもりが尻餅を付いてしまいました。
「っ……。あの、大上君……?」
尻餅を付かせた本人はふるふると首を横に振っているだけです。
熱によって、どうやら大上君は子どもらしくなってしまっているようですね。
一人暮らしで初めて病にかかったとなれば、誰しも不安になるでしょう。
「……大丈夫ですよ」
私は中腰になってから、大上君と向き合います。
「大上君の熱が下がるまで、傍にいます。だから、今は身体を休めましょう」
「……」
「私は、どこにも行きません。ちゃんと、見ていますから」
私が穏やかな声色でそう告げると大上君は少しだけ不安そうな表情でこくりと頷き返しました。
「それでは、冷蔵庫から熱さましのシートを持ってきますので、待っていて下さいね」
「……うん」
大上君は何とか納得してくれたようです。私は待っていて欲しいと告げてから、立ち上がりました。
そして、冷蔵庫から熱さましのシートを取り出している時でした。
──ピンポーン。
大上君の部屋のチャイムが鳴ったので、家主の代わりに扉の覗き穴から玄関の外を覗いてみると、そこには何と白ちゃんとことちゃんがいるではありませんか。
驚いた私はすぐに扉を開けてから、確認します。扉を開けた先にはやはり、本物の二人が立っていました。
「白ちゃん、ことちゃん! どうして、ここに……?」
恐らく、白ちゃん辺りが大上君の家の住所を知っていたのでしょうが、何故二人がここにいるのでしょうか。
私は突然現れた二人に向けて首を傾げました。