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赤月さん、大上君を起こす。

 

「よし、準備が出来ました」


 私はふぅっと息を吐きつつ、腕捲りしていた袖を元へと戻します。


 二人分のお味噌汁、卵焼き、そしてご飯を炬燵の台の上へと並べてから、私はまだ眠ったままの大上君のもとへと行きました。大上君は布団の上ですやすやと気持ちよさそうに寝たままです。


 こうして眺めていると、本来の歳よりも数歳程、幼く見えますね。少しだけ可愛らしいです。


 ですが、このままにしておいてはせっかく作った朝ご飯が冷めてしまいますので、私は苦笑しつつも彼を起こすことにしました。


「大上君、大上君」


「んにゃ……」


「大上君、朝ですよ。おはようございます」


 私は肩をとんとんと叩いてから大上君を起こします。大上君はまだ寝言のような言葉にならない声を発しながら、ゆっくりと目を覚ましました。


「……ん? あれぇ……赤月、さん……?」


「そうですよ。ほら、朝ですよ。早く起きないと、朝ご飯が冷めてしまいますよ」


「朝ご飯……」


 まだ、ぼんやりとしているようで、大上君は目を何度か瞬かせてから──一気に見開きました。


「朝ご飯!?」


 まるで初めて見たと言わんばかりの勢いで、そう言ってから炬燵の台へと近づいてきます。


「……朝ご飯……」


 この人、さっきから「朝ご飯」しか言っていませんね。大丈夫でしょうか。


「えっ? えっ!? んんっ!?」


 言語も喋っていないようですね。本当に大丈夫でしょうか。


 すると、大上君は自分の両頬をぱぁんっと両手で叩きました。下ろされた手の下の頬には、くっきりと紅葉が刻まれています。

 どうやら、夢か現実かの確認をしたようですが、痛くはなかったのでしょうか。


「……夢じゃない」


「寝ぼけているんですか? ほら、お顔を洗って来てください」


 私がそう言って促しても、大上君はぱちくりと瞳を瞬かせて、炬燵の台の上に並べられている朝ご飯を凝視していました。


 ……そんなに凝視されると少し恥ずかしいですね。特に凝っている朝ご飯というわけではないので。至って普通の朝ご飯です。


「夢じゃない。夢の中で、赤月さんと添い寝して、最高の時間を過ごした上に、赤月さんが新妻みたいに台所に立って、俺のための朝ご飯を用意して、朝ですよって起こしてくれる夢を見ていたのに、これは夢ではなく現実だった……」


 息継ぎしないでよく喋れましたね。


 しかもかなり、現実と近しい夢ですが、まさか起きていたわけではありませんよね。もちろん、自ら墓穴を掘るように聞き返したりはしませんけれど。


「赤月さんが朝ご飯を作ってくれたの?」


 大上君の視線がやっと朝ご飯から私の方へと向きました。彼の瞳はきらきらと輝いていて、まるでご褒美を貰う前の子どものようにも見えます。


「そうですよ。……一応、大上君に朝ご飯を作っていいか、許可を取ったのですけれど、寝ぼけていて覚えていないようですね」


「うっ……。すごくいい夢を見ていたから、気付かなかったかも……」


 大上君は悔しそうな顔をしますが、すぐにすっと立ち上がって、洗面所の方へと向かいました。


 大上君が顔を洗っているうちに、私は急須に瞬間湯沸かし器で沸かしておいたお湯を注いでから、茶筒から適量の茶葉を入れます。

 そして時間を計ってから二人分の湯飲みにお茶を注いでいきました。


 ……あまり自覚はしていませんでしたが、確かに今の状況は何だか夫婦みたいですね。いえ、考えないようにしましょう。


 これは大上君にお世話になったので、そのお礼です。特に他の意味はありません。ただのお礼です。


 ですが、大上君に喜んでもらえると良いなぁという気持ちを持って、朝ご飯を作ったので、妙にくすぐったい感情が私の中で揺らめいていました。


 果たして、大上君は私が作った朝ご飯の味を気に入ってくれるでしょうか。

 少しだけ、緊張しますね。

 

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