赤月さん、大上君にあやされる。
「──それじゃあ、電気を消すよ?」
「はい。おやすみなさいです」
結局、私は大上君の寝室の隣の部屋、リビングに布団を敷いて寝させてもらうことにしました。さすがに一緒の部屋だと抵抗があるので。
ぱちん、と部屋の電気が消されて蛍光灯だけが静かに光ります。
「おやすみ、赤月さん」
大上君はそう告げてから隣の寝室へと向かいました。
室内は一気に静まりましたが、部屋の外ではまだ大雨が降っているようで、叩きつけるような音が穏やかになることはありません。
「……」
いつになれば、雨は止むのでしょうか。遠くへ行っていたはずの雷の音が何となく聞こえた気がして、私は布団を被ります。
この場所には落ちない、と思いたいですが間近で雷が落ちた瞬間を見てしまった者としては、あの衝撃はかなり凄まじいものでした。
そんなことを思っているうちに雷はやがて近づいて来て、その場に大きな音と振動を落としていきます。
──ドゴォォォォンッ!
「ひゃっ……」
眩い閃光の後に、激しい音が響きました。
ああ、早く雨が止まないでしょうか。遠くへ過ぎ去って欲しいです。
そんなことを思いつつ、布団の中で震えていた時でした。
「──えっと、赤月さん、大丈夫?」
雨の音に混じって、穏やかな声が響きました。私は布団からゆっくりと顔を出して、声の持ち主に視線を向けます。
「お、大上君……」
大上君は私の顔を見ると、少しだけ安堵したような表情を浮かべて、すぐ傍まで寄ってきます。私も起き上り、布団を抱え込むように座りました。
「また、雷が近づいてきたね。遠のくまで一緒に居ようか?」
「……宜しいのですか?」
もう、寝ようとしていたところだったのではと不安を含めた視線を向けると大上君は首を横に振ってから答えます。
「気にしないで。俺も赤月さんが心配で眠れなくなるから」
「……ご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありません」
大上君は私の隣に腰を下ろしてから、光る窓の外へと視線を向けます。
「さっきと比べたら穏やかになったと思ったけれど、まだ降り続いているね。うーん、停電にならないといいんだけれど」
「て、停電、ですか……」
「ちょっと待っていてね、確か懐中電灯がテレビ台の下に……」
その時でした。
空が光り、次の瞬間、轟音が鳴り響いたのです。
「ひゃぁっ……!」
驚いた私はすぐ傍にいた大上君の胸に激突する勢いで接触します。
「ごっふ……」
大上君の呻き声が聞こえた気がしましたが雷の音が重なり、私は堪らず、大上君の服をぎゅっと握りしめてしまいます。
いつの間にか、仰向け状態の大上君の上に縋るような体勢になっていました。
「あ、赤月さん……? 大丈夫?」
「うぅ……」
大上君の声がすぐ傍で聞こえたのに、雷が恐ろしく思えて、上手く返事が出来ません。
今日一日の中で一番激しい雷の嵐です。これは確実に近場に落ちているでしょう。
もう、これ以上、落ちて欲しくはないです。
ですが、そんな私の願いも叶うことなく、雷は鳴り続けます。
どうか、早く遠のきますように。雷が止みますように。
そんなことを思っていると、震えている私の身体をふわりと包む込む腕がありました。
その腕は私の背中に添えるように置かれて、ゆっくりと呼吸に合わせて上下に撫でてくれました。
「大丈夫だよ」
ぽんぽんっと子どもをあやすように撫でられていく手に心地良ささえ感じます。
「きっとすぐに通り過ぎていくから。大丈夫、心配しないで」
その言葉は歌のようにも聞こえ、私の心に染み渡っていきます。大上君の声を聞いていると、不安になっていた心が解れて行く気がしました。
まるで声そのものに力が宿っているようにも感じられます。
「大丈夫、大丈夫だよ」
ここまで安心することが出来るのは大上君の声だからこそだと思います。私一人だったならば、雷が通り過ぎるのを布団の中に潜って、半泣きになりながら耐えていたでしょう。
ですが、今はとても気分が穏やかに感じられて、私はふぅっと息を吐きました。
先程までは怖くて泣いてしまいそうだったのに、耳元に入って来る声と触れている温度だけで心は緩やかになっていきます。
次第に頭はぼうっとしていき、私の意識は途中でゆっくりと閉じていきました。