赤月さん、大上君に引く。
恐らく、人生で最も高速で着替え終わった私は言い表しようのない恥ずかしさを携えて、大上君に直談判に向かいました。
私室と繋がっている部屋の扉をぱぁんっと開きつつ、私は叫びます。
「大上君っ! こ、この……私専用の下着って、どういうことなんですかぁっ!? どうして私のスリーサイズを知っているんですか! サイズがぴったり過ぎて驚きなんですけれど、それよりもまず──ドン引きします!!!」
一気に捲し立てるように喋ったことで、咳が出そうになりましたが何とか言い切りました。
しかし、一方の大上君の方はというと、濡れた服を脱いで、一時的に着替えようとしていた最中だったようで、上半身が丸々見えてしまっていました。
「っ……! 着替え中にすみませんっ……!」
私は急いで回れ右をして、大上君に背中を向けます。
一瞬だけ、見えた大上君の上半身はかなり引き締まっていて、程よい筋肉が付いていました。もしかすると元々、運動をする人だったのかもしれません。
……って、私は一体何を考えているのでしょう。人の身体を見た後にこんなことを考えるなんて破廉恥です。
首を勢いよく横に振ってから、今、見たものを何とか忘れようと努めました。
「大丈夫だよ。もう、着替え終わったから」
後ろからは苦笑するような笑い声が聞こえてきます。
何故か涙目になってしまっていた私はゆっくりと後ろを振り返り、大上君がちゃんと服を着ていることを確認してから胸を撫でおろしました。
「ごめんね。あのままだと、風邪を引きそうだったからさ」
「いえ、それは……。そ、それよりも、大上君! この下着、私専用ってどういう意味なんですか!」
今、着ている下着を見せるわけにはいきませんので、私は自分の胸元辺りを「ばぁんっ!」と叩きつつ、訴えました。
「そのままの意味だよ? 赤月さんがいつか俺の家に泊まりに来た際に着替えがなかったら大変だろうなと思って、事前に購入しておいたんだ。さすがに通販で購入したけれどね。お役に立てる時が来て良かったよ」
「っ……」
「赤月さんに似合うものを吟味しながら探したんだけれど……お気に召さなかった?」
「可愛い下着で嬉しいですけれど、問題はそこじゃないですー! あまりにもサイズがぴったり過ぎて怖いんですけれど!」
「それなら良かった。……でも、俺のシャツだとやっぱりサイズが大きいみたいだね」
気付けば、大上君の視線が私の肩へと注がれていました。
シャツのサイズが少し大きいことで、私の肩が少しだけはだけた状態になっていたようです。
「っ……!」
私はばっと肩を手で覆うように隠しつつ、大上君を睨むと彼は右手で口を抑えながら何故か悶絶していました。
「……大上君?」
「……ごめん、赤月さん。俺はやっぱり不純な人間なのかもしれない。恥ずかしくて小さく震えている赤月さんが可愛すぎて辛い……」
「……」
いえ、通常運転だと思っているので大丈夫ですよ。
「……正直、大上君がやることには引く場合が多いですが、助かっている部分もあるので……。とりあえず、お風呂を貸していただき、ありがとうございました。それと着替えをお借りします」
「わぁ、どうしてだろう……。お礼を言われているはずなのに、この場に吹雪が吹いている気がするのは……。──はっくしゅん!」
「ああ、もう、ほらっ。私に構っているから……。大上君も早くお風呂に入って来てください」
「うん、そうさせてもらうね。……あ、良かったら炬燵に入っていて。まだ、片付けていなかったのが幸いだったよ。それと飲み物も用意しておいたから、勝手に飲んで構わないからね」
「ありがとうございます」
本当に何から何までお世話をされている気分です。
でも、やはり下着の件だけは……これだけは恥ずかしさでどうにかなりそうです。この件に関してはもう一度、大上君と話し合う必要がありそうですね。
そう思いつつ、私は大上君におすすめされた炬燵の中へと足を入れて行きました。まだ、朝晩が冷えるので炬燵はとてもありがたいです。
私もいつ片付けようかとタイミングを見計らったまま、まだ炬燵を片付けられないでいます。
「ふぅ……」
炬燵独特の温かさに私は思わず安堵の溜息を吐いてしまいました。優しい温度が足を包み込んでいくので、気を抜いたら寝てしまいそうですね。
大上君の前では絶対に寝ませんけれど。